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11 参考書を選ぶの、手伝ってもらうんです

「お待たせしました」

 さっさとランは先に立って歩き出す。

 トートバックには何やらぎっしり詰まっている。


「どこまで歩く?」

「まずは、阪急の向こう側」

「茶屋町?」

「そうですよ」

「近いじゃないか」


 JRと阪急電車を結ぶ、雨に濡れた歩道橋。

 夕方のラッシュ。行きかう人は皆もう傘を閉じている。


「よかった。雨、上がって」

「ですね。さっきの雨って、いったい」

「線状降水帯ってやつかな」

「下着までびちゃびちゃ」

「あの観覧車。今も動かしてるのかな」

「動いてたら、今度一緒に」

 などと、核心にほど遠い会話が続く。



 人波にある時は流され、ある時は逆らい歩いていくと、運よく、いや運悪く、授業準備室職員ガリと出会った。

 切れ長の目を幾分丸くし、軽く会釈して通り過ぎようとする。

 このまますれ違ってもよかったが、こちらは学生と一緒。

 なんらかの説明をしておくべき場面。


 とはいえ、説明できることはない。


「紀伊国屋で参考書を選ぶのを手伝ってもらうんです」

 と、ランの機転。

「よかったわね」

 立ち止ったガリ。

 ランのとっさの嘘など信じていないことは明らかで、わざわざJRで来て? と返してくる。


 まあいい。

 どう思われようとも。

 さっき、そう考えたではないか。


「今日のお昼、つまらない話をして申し訳なかった」

 話を切り替えた。

 雑踏の中の立ち話である。迷惑この上ない。

 ガリは歩道橋の端に体を動かし、それに倣った。


 グランフロントのビル群の明かりが美しい。

 その向こう、梅田スカイビルの空中庭園が浮かんでいる。

 降っていないと思ったが、細かい雨粒が風に舞いながら落ちてきているようで、それらが光って幻想的だった。



「いいえ、先生。私の方こそ、つっけんどんで。なにか、もっとお話がおありだったのでしょう?」

 と、言ってくれる。

「はい」

 とは応じたものの、ここでするような話ではない。

 ランがそばにいるのはいい。

 雨の中、立ち話でするようなことではない。


 ガリは、目を合わせ、じっと待っている。

 確かに、ここだからこそふさわしいのかもしれない。

 学校の中という監視された場所ではなく、この雑踏の中が。

 木を隠すなら森の中、というではないか。




 ガリとの話を終え、紀伊国屋書店を出た。

 ランがはしゃいだ声を出した。


「ガリさんのお墨付きもらったから、そこらへんで晩御飯にしよう!」

「お茶じゃなかったのか」

「いいの。もうそんなこと」

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