第六章 スクリーンの向こうへ
スクリーンに映し出される光と影が、薄暗い館内をゆるやかに染めていた。
座席には蓮ひとり。周囲のざわめきも、観客の気配もない。聞こえるのはフィルムが回るかすかな音と、物語の中で響く声だけだった。
――これが、天音の父さんが作った映画。
オーナーの言葉が、胸に重く残っている。
映像の中で、登場人物たちは不器用に、それでも真っ直ぐに互いを想って言葉を交わしていた。
その姿が、天音の生き方と重なり、あの日の自分と天音との記憶を呼び覚ます。
「……俺は、伝えられなかった」
小さく零した声は、誰にも届かない。けれど蓮の心に深く響いた。
――『来年も、一緒に行こうね』
最後に聞いた彼女の声が、不意に耳の奥で鮮明に蘇った。
「……ごめん。あのとき、何も言えなくて」
瞼を閉じると、涙が静かにこぼれ落ちる。
――とうとう、問題の夏祭りのシーンだ。
映し出された花火の光、ざわめく人の群れ、浴衣姿の少女の笑顔。
忘れることのできない光景が、スクリーンの中で再現されている。
蓮の胸は強く締め付けられるように痛んだが、同時に決意が芽生えた。
「……俺は、もう逃げない」
心の奥で、静かに、しかし確かにそう誓った瞬間だった。
次のシーンへと移ろうとする映像が光を強め、館内の空気が歪むように揺らめいた。
光が視界いっぱいに広がり、意識がふっと途切れる。
遠くで花火が弾ける音がした。
次に目を開けたとき、そこが現実か、映画の中か、蓮にはもう分からなかった。




