第二章 映画館の光の中で
――あれから一年が経った。
天音の父は、現代のAI技術で映画を作成した。
過去の映像や写真、声の録音を徹底的に解析し、天音を“限りなく本物に近い姿”で蘇らせたという。
それを映画館で流し、ポスターを街中に貼り、人々から金を取っている。
天音の父は言った。
「親としては、ただの思い出にしたくなかった。天音の人生を“作品”として焼き付ければ、あの子は死んでも、消えない。」
――ふざけるな。
娘の死を商売にしていいはずがない。
しかも、それを“感動作”だとありがたがって泣いている連中までいる。
評論家も観客も口を揃えて「奇跡だ」「心震える映画だ」と褒め称える。
――クソ喰らえだ。
あんなもの、俺にとってはただの冒涜でしかない。
――あの日、もし告白していたら。
彼女はあの交差点に立たずに済んだんじゃないか。
事故に巻き込まれて死ぬこともなかったんじゃないか。
何度も繰り返した“もしも”が、今も俺を締めつけて離さない。
――もう一度、あの人に会いたい。
俺には、その望みに縋ることしか残されていなかった。
俺は、人の少ない地方の古びた小劇場を選んだ。どうしても1人で見たかった。
軋む木製の椅子、天井に浮いた染み、壁にこびりついたフィルムの匂い。
観客は俺ひとり。
照明が落ち、ゆっくりと暗闇が沈んでいく。
やがて、スクリーンに光が灯る。
橙色の提灯、夏祭りのざわめき、夜空に咲く花火――。
それは一年前の夏に繋がっていて、心臓が痛むほど懐かしい。
現代科学とAIが作り出した「天音」は、その映像の中で笑っていた。
瞼がだんだん重くなり、意識が溶けかけていく。
その刹那、耳に届いた。
「……蓮」
その声に心臓が跳ねる。
はっと目を開けたとき、俺はもう映画館にはいなかった。
夜風、提灯、花火の音。
そこは、映画の中の世界だった。




