海軍大臣ルクセン
「奇妙なことになったな」
首都べルファスクにある海軍省。
白を基調とした大臣室で、海軍大臣であるルクセンは積まれた報告書の前でため息をつく。
「存在しないはずの大陸から来た奴隷船の積荷はエルフとかいうおとぎ話に出てくる種族で、それでガンダル王国とやらの侵略からレイリアという祖国を助けてほしいと」
「バカバカしい」といった表情をしながら、目の前にいる外務省の男であるクロウにそう言葉を放つ。
「正直、私もいまだに信じられません。
ですが、船に積まれていた物資や証言などから海警局および外務省はすべて事実だと判断いたしました」
「そうか、で、ここに来たということは武力で助けるのか?エルフとかいう者達を」
頬杖を付きながら、面倒そうな表情でクロウを見上げるルクセン。
シーラゲーテをはじめとするモンスターとの戦闘が頻発して出費がかさんでいる中、未知の大陸の戦争に武力介入という最もコストのかかる案件が来たことに辟易する。
「はい、この事案を通してかの大陸への外交ルートの開拓ができれば大きな国益につながるとクラウス大臣は考えており、ぜひとも軍部の方々に御協力を願いたい。
もちろん、閣議決定を行った上ではありますが」
照明に片メガネを煌めかせるクロウにルクセンは「前向きに検討しておこう」とだけ答える。
クロウが退室した後、棚に置いてあるファイルに向かい、何冊かを取り出す。
そこには現役の海軍大将と稼働中の艦隊がびっしりと記されている。
ヘルブレード大将の指揮する戦艦を中心とした第三撃龍艦隊に、エル大将の所属する空母や巡洋戦艦などの機動戦力を中心とした第一機動艦隊…。
ぺらぺらとめくりながら、これから起こる事案に適切な人事を思案する。
コンコンコンとノックの音が不意に鳴り響く。
「入れ」
「失礼します」
ガチャと扉が開き、緑の服の女性が入室する。
「何の用だ?」
「陸戦隊から、予算を増やしてほしいとの陳情がありました。
兵装が古く、凶暴化するモンスター相手に戦果をあげられなくなっているとのこと」
海軍の保有する陸上戦力である陸戦隊。
島嶼における上陸作戦や陸上でのモンスターとの戦闘を担当する部隊ではあるが、陸軍の代わりに置かれているだけであり、軍艦での戦闘と比べて死傷率も高いことから左遷や懲罰の意味合いが強く、予算もあまり回されていない。
「次から次へと…」
頭を悩ませるルクセン。
最終的に「考えておく」と彼女に返すにとどまった。




