積み荷
「これより不審船の調査を行う。
メモ書きの一つさえ見落とすな」
ガロン中将の指示の下、サクルティス立会いの下で商船もとい不審船の調査が行われた。
二十人余りの海兵が船に乗り込み、船長室などの重要区画を調べ上げていく。
「副提督、こちらをご覧ください」
ティレルが船長室から持ち出した海図をガロンに提出する。
そこに記されていたのは世界地図に記されていた物とは全く違う内容。
二つの大陸を中心に複数の島が描かれている。
「これは、羊皮紙か」
ランデル国では遥か昔に廃れた羊皮紙が重要な海図に使われていることから、相手の文明水準を測る。
「船の武装は、バリスタのみか」
搭載されていた武装を一瞥して相手の戦闘技術のレベルを調べる。
「一応聞くが、これの性能はどれくらいだ?」
「通常時の飛距離は三百メートルですが、強化魔法を掛ければ1000メートルになります」
「強化魔法?なんだそれは?」
彼の口にした強化魔法という奇妙な単語。
詳細を追究しようとした刹那、貨物室の調査に取り掛かった海兵が駆け寄る。
「中将!至急貨物室に来てください!」
「なんだ、何があった?」
先導される形で貨物室に向かうガロン。
物音に振り向くと、サクルティスが青ざめた表情で海に飛び込もうとしているのに気が付く。
「奴を捕らえろ」
即座に拘束されるサクルティス。
抵抗する彼を背に、ガロンは貨物室へと向かう。
「これは…」
貨物室の奥。
交易品を詰めた部屋の奥の隠し扉の先に、粗末な衣服をまとった人たちが詰められていた。
全員が左右に尖った耳をしており、十分な食事を与えられていないのか、顔色はあまりよくない。
「奴隷船か」
ポツリとつぶやく。
「彼らに衣服を与えて保護しろ。
船員たちは海警局に引き渡せ」
ランデル国では禁止されている奴隷の売買。
領海で拿捕された奴隷船とそのクルーを海警局に引き渡すべく、ガロンは手錠をかけられたサクルティスを連れてメリオスに戻る。