トーセイ海峡
ウルスラ海へと繋がるトーセイ海峡を進む。
大陸を南北に分断するこの海峡は交易の要衝として活用され、国の経済の柱となっている。
通行料は船舶の種類によって決められており、特に大型貨物船はかなりの額を持っていかれるが、大陸の半分を大回りするルートに比べて2000キロメートルも短縮できる為、大金を払ってでも航路を大幅に縮めたい船乗りが料金所に列を成している。
「.....」
マントを外したエル・ゼナの視界に聳える、海峡を守る大水門。
レンガ造りの海上要塞と海面から10メートルはある格子状の門が航路を塞ぎ、通行許可が出しだい下げられる形で門が開かれる。
以前はクレーンを用いたつり上げ型であったが、戦艦などの巨大艦艇の登場に伴って高さ制限のない今の形に変更された。
手続きを終えて関門が開く。
最新鋭の巡洋戦艦2隻を先頭に海峡を進む機動艦隊。
伝説の龍に挑んだ双子の兄妹のおとぎ話にちなんで名づけられた、メリオスとミラオスの姉妹艦。
外国から来た交易船員たちがその威容に瞠目する中、大海を威風堂々と進む。
「前方に第三撃龍艦隊」
見張りからの報告に双眼鏡を構えると、大将旗を掲げた戦艦レガリアが映る。
「礼砲用意」
炸薬だけを装填した主砲が重低音を奏でながら動き出す。
巨大なモンスターを討伐して国益を守る花形の撃龍艦隊。
その司令官であるヘルブレード大将に向けて、すれ違いざまに礼砲として17発の空砲を撃ちだすと、向こうからも同様に17発の礼砲が返される。
「息災か?ヘルブレード」
第一艦橋に置かれた短距離用の通信機を使い、受話器を耳に当てて相手司令官と雑談を交わすエル。
2年前まで自身が指揮を執っていた第三撃龍艦隊。
その後任に付いたヘルブレードに近況を尋ねると、彼の声がスピーカーを通してエル達の耳に届く。
≪いつも通りだ、海を荒らすモンスターを艦砲で仕留めた。
…吾輩としては花形の撃龍艦隊にふさわしい、もっと強い相手との戦いが欲しいところだ≫
「発言には気を付けることだな。
相手次第では「国難を願っている」と捉えられるぞ」
≪まじめな奴だな。もう少し気楽に生きてもよいのではないか?≫
「数千の命を預かる立場で、気楽にできると思うか?」
≪だが大将が張り詰めていると部下も気が張って安らげないぞ?
兵士にしろ指揮官にしろ、安らぎは必要だ≫
「…そうか」
受話器を置いて通信を切る。
「速度進路、そのままで進め。
妾は部屋に戻る」
「もしかして、さっきのを気にしておられますか?」
副提督であるガロン中将。
青い人狼族の彼の言葉に一言も返さず、エルは提督私室へと戻る。