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アスガルド軍とアルカディア軍

「ゼウスの親父、何考えているんだか……」

 輸送機の中でソールはぼやいた。アルカディア軍の中でも精鋭を起こる部隊編成がなされ、アスガルドに派遣されることになったからだ。

「あの親父、自分たちの国が攻め込まれないって根拠のない自信があるんだろうな。元首のくせにのう天気を通り越してアホだな」

「お前、そこまで言うか……」

 アーレスがあきれ顔で言う。

 アスガルド行きになったのは、空軍からはペルセウスとアーレス、海軍からはアルテミスとポセイドン、陸軍からはハーデスだ。それになぜかまたソールとイシュタムが加わっている。

 集団的自衛権が働く関係にあるアルカディアとアスガルドは、紛争の危機が起こった際は軍を派遣することになっている。今回の精鋭部隊の構成は、他国にも名が通っている兵器だ。ペガサス、グリフォン、セイレーン、ケルベロス……ヒュドラは5本の首を分けつして持ってきた。この部隊に戦いを挑むということは、アルカディアとアスガルドの連合軍にけんかをふっかけることになる。

世界最強の布陣か――それを考え、ソールはグールヴェイグのことを思い出した。

(こっちが世界最強の武力なら、あいつらは世界最悪の知力ってところだ。どうなることか……)

 一行は午後8時にアスガルドに到着した。

「諸君、すまないね。助太刀に感謝するよ」

 元首のオーディンが、頭を押さえながら出迎えてくれた。

「オーディン閣下直々のお出迎え、ありがたく存じます」

「頭、どうかされたんですか?」

「いやあ、2週間前に頭を強打してね。2、3日寝込んでだいぶ良くなったんだけど、まだちょっと痛くて……」

 イシュタムの顔に狼狽が浮かび、ペルセウスはソールをギロッとにらんだ。しかし当のソールは白々しく

「それは大変でしたね。お見舞い申し上げます」

 と柄にもなく敬語で答えた。

(お前、よくそんなぬけぬけと……)

 とペルセウスがささやくが意にも介さない。

「皆さん、お疲れでしょう。具体的なことは明日お話しします」


 翌日、ワルハラ宮殿の大会議室にアルカディアの精鋭部隊とアスガルドの連合軍が揃った。オーディンを議長に、作戦会議が始まる。

 開口一番、オーディンはこう宣言した。

「今、全ての選択肢がテーブルにある状態だ」

 この言葉は、西暦2017年に、当時のアメリカ大統領が宣言したものと同じである。宣言したのはアジアの独裁国家との間で、核兵器をちらつかせる一触即発の状態になった時だ。

「貴国からの助言をもとにニブルヘイムを偵察してみた。やはりテュルフング・ミサイルが組み立てられようとしている」

 アルカディアへのリップサービスだろうか? アルカディアに頼らずとも、テュルフングに関する情報はアスガルドでも最大限のアンテナを張って集めているはずだ。

 オーディンは続いて今後の計画を発表した。まず、アスガルドからヴァナヘイムに書簡を送り、ミサイルの組み立てをやめるよう通達する。それを無視したら海上封鎖を行い、貨物がニブルヘイムに入らないようにする。

 それでも封鎖を突破しようものならバルムンク――アスガルドが保有するテュルフング・ミサイルを発射するというものだ。

「できれば使いたくはない」というオーディンの言葉を、ソールは無表情で聞いていた。当たり前だ。使ったが最後、北欧は核攻撃の応酬になって壊滅するだろう。

「オーディン閣下、我々は何をすればよいのでしょうか?」

 ポセイドンが挙手した。

「貴国の増援部隊には、アスガルド軍と共に防衛に当たってほしい」

 1日を3区分して8時間ずつアスガルドの防衛に当たる。沿岸部には陸軍と海軍が、空域には戦闘機が配備される。

 会議終了後、次のように防衛シフトが組まれた。


空域

アルカディア軍:ペガサス、グリフォン、フェニックス

アスガルド軍:スレイプニル


沿岸部

アルカディア軍:ケルベロス、ヒュドラ、セイレーン

アスガルド軍:スキーズブラズニル、グリンブルスティ、セーフリームニル


 アルカディアは各々1機、アスガルドは量産型の機体である。トップガンのような兵士を養成するより、テュルフング・ミサイルの開発に力を入れてきた。そのため、実際の戦闘ではアルカディアの精鋭よりはるかに劣るだろう。

 早速、両国の連合部隊は防衛に取りかかった。


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