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テュルフングの魔女①

 ソールたちの時代から遡ること22年前――北欧では国同士の争いが続いていた。その争いに一旦終止符を打ったのが、アスガルドが開発したホウズとゲイボルクというテュルフング・ミサイルだった。

 犠牲者を70万人近く出したこのミサイルの投下により、アスガルドは強力な軍事力を保持していることをアピールし、北欧の盟主となったのだ。その当時の出来事だ……。


 ある日、アスガルドの一室にあるニュースが飛び込んできた。

「テュルフング・ボムがついに完成したぞ!」

 その一言に、一室にいた者たちは歓声を上げた。

「やった、やったぞ!」

「ついに研究の成果が出たな、グールヴェイグ!」

「ええ!」

 歓声の中心にいた女性――グールヴェイグは頬を紅潮させて喜んだ。

 そこに、2人の男が入ってきた。

「おめでとう、グールヴェイグ」

「オーディン、ロキ」

 握手のため手を差し出したのは――オーディンだった。

「君が設計してくれたテュルフング・ボムで、もうすぐ争いを終えられそうだ」

「ありがとうございます」

 固く握手を交わした。彼女の目はきらきらと自信に溢れている。

「3日後にはムスペルヘイムで爆破実験をする。見ていてくれ」

 そう言って出て行くオーディンを見ながら、ロキが言った。

「あ、今のことは極秘な」

 軽いウィンクがついてきた。

「わかっているわよ」

 グールヴェイグは頬を赤らめ、はにかんだように返した。


 その夜、グールヴェイグはテュルフング・エネルギー研究員の同僚たちと祝宴をした。かなり酔ったので、家が同じ方向のロキが迎えにきた。

「おいおい、大丈夫? 千鳥足だよ。無茶しないで」

 誰も見えなくなったのを見計らって、ロキは11歳年上のグールヴェイグに軽口を叩きながら腰に手を回した。

「大丈夫よ。おばさん扱いしないでよ」

 そう言ってむくれる口を、ロキの唇が封じた。

「ん……」

「旦那さんに怒られちゃうね」

「今さら何よ」

 2人はロキの部屋に入る。

「じゃあ、二人で熱い祝宴しようか」

 グールヴェイグは既婚者だった。しかし、夫とはうまくいっておらず、研究室によく遊びに来るロキと仲良くなった。当時のロキは軍人だった。グールヴェイグにとって軍人は無愛想で好きになれない連中だったが、人なつっこいロキには好意を持ち、やがて不倫関係になった。

 体を重ねた後、ロキは酒瓶を開けてグラスに注いだ。

「この日のために、極上のものを用意していたんだ」

「ありがとう」

 シーツで裸の体を隠しながら、2人は乾杯した。一口飲むと上品な甘さと酔いが回った。

「おいしい」

「アルカディア産のフルーツ、アンブロシアで作られた酒だよ」

 透き通る深紅の酒だ。まるで、いずれ犠牲になる者たちの血で作られたような……。

「ついにテュルフング・ボムが完成か。どんな威力なんだろうね」

 ロキはまだ、テュルフング・ボムやミサイルが、後に恐ろしい結果を招くなど予想だにしていない。

「これで私を馬鹿にした奴らを見返せるわ」

 グールヴェイグはテュルフング・エネルギーの第一人者として研究を続けてきた。しかし、周囲の人間からは「女に何ができる」と見下されてきたのだ。研究の成果が出たこの日、気分が高揚していたのも無理はなかった。

「でも、テュルフング・ミサイルが使われるようになったら、軍人の俺は食いっぱぐれちゃうかも」

「あなたは何やってもうまくできるでしょ?」

 おどけるロキに呆れるように返す。誰にもばれないように不倫をし、軍部でもうまく立ち回っていることからも、この男は要領が良いのだ。

「無職になったらグールヴェイグの家の家事代行でもやろうかな」

 ロキはグールヴェイグの肩を抱き寄せ、押し倒した。

「もう……」


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