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迎撃システム・バハムート

「ソール、本当なの? もう完成したなんて……」

イシュタムが怪訝な表情で聞く。そんなあっさりとできるものなのだろうか? しかしソールはしれっと答えた。

「やることは決まっているんだ。クラーケンが目撃されるラブラドル海盆でリヴァイアサンを待ち伏せして、迎撃システムで破壊する。目的がはっきりしていれば開発は早くできるさ」

 それにしても――とイシュタムは思う。こんな短期間で造れるなんて、才能としか言いようがない。

 とりあえずアルカディア海軍基地がある地中海のとある一画に行ってみると――そこには、紺色のボディをした大きな魚型の機械が浮いていた。全長は20mある。

「リヴァイアサン迎撃システム――コードネームはバハムートだ」

「バハムート…」

 イシュタムがソールの言葉を反芻する。バハムート――イスラム圏で巨大な伝説の魚とされ、後には最強のドラゴンとも言われるようになる幻獣である。これは潜水艦や軍艦のように乗り込むのではなく、ラジコンのように遠隔操作する兵器である。

 その翌日。ソールとイシュタム、アルカディア海軍の一部がリヴァイアサンの迎撃に向かった。


 ソールたちを載せたスキュラ戦艦はバハムートを連れてラブラドル海盆に向かった。ここでは巨大な烏賊・クラーケンが度々目撃されている。ソールはこの海域をリヴァイアサン迎撃ポイントに選んだ。

 バハムートには迎撃用の魚雷ミサイルをふんだんに搭載している。リヴァイアサンが近づいたらこのミサイルを全弾ぶちこむのだ。

「そんなにうまくいくのか?」

 海軍司令官のポセイドンが言った。この作戦に関しては、軍司令部はあまり大きく関与していないため、ポセイドンが出てくる必要はない。が、ソールがどのような機体を開発したか興味があり、同行したのだ。もっとも、ゼウスからも「見張っておけ」と命じられたのもあるが。

「まあ、1回で仕留められるかは正直分からないさ」

 珍しくソールが自信なさげに答える。

 理由は、リヴァイアサンのデータがほとんどないからだ。イシュタムから聞いただけではイメージができないし、何より海中の兵器にあまり詳しくない。最初の迎撃で失敗しても仕方なしとして、なるべくデータをとろうと思っているのだ。

 そうこうしているうちに――レーダーに未確認物体が移った。

「きなすったか」

 ソールは持ってきたモバイルを立ち上げ、タッチパネルにある魚のアイコンをタップした。スキュラの隣で待機していたバハムートの目が点滅する。

「いくぞ、バハムート」

 スキュラの中から操作すると、バハムートは起動して泳ぎ始めた。その先には、こちらに向かってくる細長い海蛇のような物体――リヴァイアサンがいた。

「よし、ミサイル発射!!」

 バハムートはリヴァイアサンに向けて魚雷ミサイルを発射した。数十発の弾丸が標的に向かっていく。しかし、命中すると思いきや――リヴァイアサンの前で向きを変えてミサイル同士がぶつかり、爆発した。

「な、何だ!?」

「仕留められたのか?」

 口々に言う兵士に対し、ソールは「いや……」と首を振った。リヴァイアサンの前には渦の壁のようなものが現れている。

「防御シールドか」

 攻撃を受けることくらい予測済みだ――フン・カメーのそんな声が聞こえてきそうだった。そしてリヴァイアサンとスキュラがすれ違った時、スキュラが大きく揺れた。

「うわっ!!」

「きゃっ!!」

 ソールは立っていられずに柱にしがみつく。さらにイシュタムはそのソールにしがみついた。それだけではない、スキュラが突然、旋回するかのように前後の向きを変えた。

「おい、旋回しろという命令は出してないぞ!!」

 ポセイドンが怒鳴るが、

「だめです! 海流が突然変化して舵が動きません!!」

「まさか、リヴァイアサンが海流を変えたのか?」

 しばらくすると揺れが収まり、海流も元に戻った。海兵の分析によると、リヴァイアサンは海流を震動させる波を起こしているらしい。

「ちっ、やはり一筋縄ではいかないか」

 ソールは、リヴァイサンが通過した先を見やった。すると、巨大な烏賊の脚のようなものが海面に飛び出て、海中に潜っていくのが見えた。この海域で目撃されたクラーケンだった。予想通り、烏賊に変形して海底に潜っているのだ。

「とんでもないものを見せつけてきやがる。だが、今度はやらせないぜ」


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