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爆撃

 あれから1週間、ソールもアポロンも、何事もなかったかのように働いている。アポロンはフェニックスの開発を極秘に行っているから、誰にもばれていないのだろう。

 ソールは設計図をあっという間に頭にたたき込んだ。さらに、その仕組みまで解析をした。いざとなれば一から作れるだろう。機械いじり、エネルギー工学などのセンスは、天性のものがあるのだ。

「ソール、こっち手伝ってくれ」

 戦闘機のエンジンのオイル入れをしていたオシリスが声をかけたが、ソールは無反応だった。

「ソール!」

「え、何だ、オシリス?」

「どうしたんだ、ボーッとして。こっち手伝ってくれよ」

 ソールは気持ちを切り替えた。僚友であるオシリスにも知られてはいけない。それに作業中の不注意が思わぬ事故になる。それでも、サンギルドシステムとフェニックスのことが頭の片隅にあった。

「なあ、オシリス。ガイアの血って環境に悪いんだよな」

「何だ、やぶからぼうに」

 そんなのみんな知っているだろう。しかし、ガイアの血を使わなければ、今の文明は成り立たない。

「人間が繁栄するためには多少の犠牲は付き物さ」

「そうかねえ……」

「そう言えば、さっきまたアルカディアから使者が来ていたぞ」

「アポロンを連れ戻しに?」

「この前来た2人じゃなかったな。イカロスって軍人だ。今頃、アポロンと話しているよ」


「何度来ても同じだ、イカロス。ゼウスに伝えてくれ」

 アポロンは、ため息をつきながら使者――イカロスに言った。彼もまた、ギリシア神話に登場する英雄である。

「あんたが戻ってきてくれれば、アルカディアのエネルギー開発がまた前進するって首相はおっしゃっていたそうだぞ」

「そのエネルギー開発はガイアの血ありきだろう? その分野での研究はもうごめんだ」

「……これだけ言ってもだめか」

「くどい。空軍兵士をよこしたのは脅しも含んでのことだろうが、無駄だ」

 数分間、2人の間に険悪なムードが流れた。やがてイカロスはきびすを返して出て行った。

 その後、ソールとオシリスは部屋から出てきたアポロンを見つけた。

「機嫌悪そうだな」

 オシリスが小声で言った。遠目でも眉間にしわが寄っているのが分かる。

「…なあ、何だか変な音ががしないか?」

「え?」

 そう言えば上空がうるさい。すると、


ドンッ


 という音とともに、爆発が起こった。さらに次の瞬間、爆風とともに炎が上がり工場の壁が崩れた。辺りが炎熱地獄のようになっている。

「何だ!?」

「うわあっ!!」

 ソールとオシリスは、吹き上がった爆風に吹っ飛ばされた――。


「……ってて」

 ソールが目を覚ましたとき、工場が廃墟となっていた。照明も壊れたようで辺りが真っ暗だ。

「何があったんだ……オシリスは?」

 見回して、僚友の姿を探した。目が暗闇に慣れたころ、数メートル先に、倒れている人の姿を見た。

「オシリス!!」

 駆け寄って身体をゆすった。が、冷たくなっていて動かなかった。

「そんな……さっきまで生きていたのに」

 愕然がくぜんとするソール。一体、さっきの爆発は何だ? 事故か?

 抑えられない悲しみと怒りがこみ上げてきた。

「……う」

「!? 誰かいるのか!!」

「ソール……」

 聞き慣れた敬愛する師の声。

「アポロン!!」

 アポロンは、瓦礫の下敷きになっていた。

「アポロン、無事ですか!?」

 ソールは駆け寄り、瓦礫がれきを動かそうとした。

「あ、足が両方折れたみたいだ……」

 身体も完全に挟まっている。1人では助けられそうにもない。

「待っててください! 助けを呼びに行きます!!」

「いや、それよりも…伝えておくことが…」

 アポロンは声も絶え絶えに言った。

「あの爆発…おそらくアルカディアの空爆だ」

「あの男か!!」

 イカロス……あいつが、工場を爆撃したのか!

「ソール…フェニックスを使え…」

「え…」

「あの中に、僕の全てが込められている……アルカディアに勝つんだ…」

「アポロン、しゃべらないで。助けを呼んできます」

 ソールは振り返り、外に向かって走り出した。しかし、次の瞬間――後ろから石が崩れる大きな音がした。

「アポロン……?」

 師の名前を呼んでも、反応はなかった。崩れた瓦礫から、血にまみれた腕が突き出ていただけだ。

「うわああ!!!」

 何でこんなことに……!!

 手を握りしめたが、いつものように握り返してはくれなかった。

「あいつめ、よくも……!」

ソールの怒りは頂点に達し、地下に向かって走り出した。


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