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地獄の番人②

「ねえ、やっぱり普通に廊下を行った方がよくない?」

 天井裏をつたいながらイシュタムがソールの顔をのぞき込むように尋ねた。

「大丈夫だって。俺を信じろ」

 自信満々に歩を進めるソール。この自信は一体どこから来るのかと、イシュタムは苦笑いした。

「いいなあ、私もあなたみたいに根拠のない自信が欲しい。自己肯定感が強かったらなあ……」

「何だよいきなり」

 ほめているのか、けなしているのか……

「私が脳科学の研究を始めたきっかけは自分の自己肯定感がなかったことなの」

 イシュタムの母親は彼女を産むときに家族や親戚に反対されたらしい。40代半ばの出産で母体に負担がかかる上に世間体が悪かったというのが理由だ。それを押し切って出産すると多くの人間は大して祝福せず無視したり子供――イシュタムを蔑んだりしたとのことだ。そこで周囲から認められたいがために大人たちの顔色をうかがうようになってしまったらしい。

「大人になっても心のどこかで人間を信頼できずにいるような気がするの」

「そんな自分を変えるために脳科学を研究し始めたのか?」

「心理学って道もあったんだけど、私は脳科学の方が合っていると思って」

 個人の性格と脳科学がどう結びつくのかソールには見当がつかなかったが、イシュタムは話を続ける。

「ソール、サイコパスって知っている?」

 最近読んだ科学誌に載っていたような気がするなあとソールは記憶をたどった。確か平気で人殺しなどの残虐な行為をする人間の脳に焦点を当てた特集を組んでいた。

 サイコパスは他者の感情に共感できないなど脳に一種の障がいがあると定義され、研究が進められている。

「まさか自らサイコパスになるってわけじゃないよな?」

「そのまさかよ。カウィール・シナプスはそれも可能になるのよ」

「…俺は反対だね。そんな研究」

「え?」

 イシュタムはソールの顔を見た。先ほどまでの飄々とした雰囲気が消え目つきが鋭くなっている。

「アポロンが言っていた。〝技術はナイフ〟だって。ナイフは食べ物を切ったりロープを切ったりするのに使えて生活の助けになるけど人を殺傷することもできる。だが、ナイフ自体が悪いわけじゃない。使う人間の心によって善にも悪にもなる。あんたの研究は技術的には優れているが我欲を満たすために使っていないか?」

 イシュタムは言葉を失った。

「もっと他者のためになる研究をした方…が!?」

 ソールが最後まで言い切らないうちに、突然床(正確には天井)が崩れ、二人とも真下の部屋に落下してしたたかに尻を打った。

「ったたた…」

 ハッと顔を見上げると目の前には奇妙な形をした人形…ロボットが立っていた。

「なんだこいつら…?」

 すると突然、2体のロボットは光線を発射した。とっさによけたが命中した平な床が不格好ないぼ状になっている。

「な、なんだいきなり!!」

「地獄の番人、シキリパットとクマチュキック!?」

「あ?」

 青ざめた顔でイシュタムが叫んだ。

「こいつら、脱走者や潜入者を抹殺するためのロボットよ。この光線、確か…」

 再びその光線が発射され、壁がいぼ状になった。

「鉱物の原子の配列を強引に変えるの!」

「おいおい、ここはそんな物騒なものを作っているのか!?」

 人間の体内には鉄分をはじめカルシウムなどの鉱物がある。その配列を強引に変えられたらどうなるか分かったものではない。

 標的はソールとイシュタムにロックオンされているらしく、次々と光線を発射してくる。

「ちょ、何か倒す方法はないのかよ!?」

「そんなこと言われても……」

 2人ともよけるのが精一杯だ。

「そうだイシュタム、あいつらの間に一列に並べ!!」

「え!?」

「いいから早く!!」

 ソールとイシュタムが2体の間に一列に並んだ。シキリパットとクマチュキックは、二人に向き直り光線を発射した。

「今だ、しゃがめ!!」

 すると2体が発射した光線は2人に当たらず、ロボットの相方に命中した。同士討ちに成功したのだ。

「よっしゃ!!」

 2体のロボットは不具合を起こし、機能を停止させてその場に崩れ落ちた。

「全身が鉱物のロボットなら生身の人間よりも壊れやすいと思った」

 イシュタムに手を差し伸べて立ち上がらせた。肩が小刻みに震えている。

「大丈夫か?」

 怖かったのかと思ったが、イシュタムの口から驚く事実が出た。

「どうしよう、こんなのがあと8体もいるのに…」

「なんだって!?」


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