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サンギルドシステムとフェニックス

 ソールはオシリスと休憩しながら先の来訪者について話していた。

「アポロン、まだ話しているのかな?」

「もう1時間になるよな」

 そう言いながら、ソールはペガサスとグリフォンを調べている。いや、調べているというより、外装を外して中の機械を触っているのだ。

「ソール、その2機って整備は終わっていなかったっけ?」

 オシリスがたずねる。

「そうだけど?」

「何やってんだ?」

「ほら、先月からこの2機はビーム光線を搭載したって言うから、見ておこうと思ってさ」

 例のニヤニヤした表情をする。

 当時の文明では、「アバリスの矢」という、現代の20ミリバルカンのような武器を戦闘機に搭載した。このアバリスの矢は、ギリシア神話に登場する武器だ。

 それまでは飛行機に爆弾や石などを積んで落としていたが、空襲や空戦ができるようになり、戦い方が変わった。技術にイノベーションが起きれば社会が変わるのは、現代も古代も同じである。

 しかし、それもソールたちが生まれる数十年前だ。さらに進歩し、アルカディア空軍のトップガンの戦闘機には、最新のビーム兵器が搭載されたのだ。

 グリフォンの兵器のコートネームは「ケラウノス光線」、ペガサスのは「ハルペー光線」という。ちなみに前者はギリシア神話の主神・ゼウスの雷霆らいていで、後者は勇者ペルセウスの剣である。

「お前、まさかまた無断で……」

「いいじゃないか、減るもんじゃないし……」

 オシリスは肩をすくめる。ソールは研究熱心だが、暴走して勝手に機械をいじる癖がある。しかも本人には悪気がないため何度注意しても無駄と、最近では皆あきらめている。オシリスは、傍観していた自分も同罪になってはたまらないと、一応注意はしたのだが。

「ふざけるな!!」

 突然、会議室の方からアポロンの怒鳴り声が聞こえた。げっ、さすがにアルカディアトップガンの戦闘機を勝手に触るのはまずかったか!? 2人はあたふたした。

「僕は今、アルカディアに戻るつもりはない、元首のゼウスにそう伝えろ!!」

 聞こえてきた怒声とともに、ペルセウスとアーレスが出てきた。

「頑固者め」

「また来るからな、よく考えておいてくれよ」

 ソールは、2人に駆け寄った。

「どうしたんだ、けんかか?」

「お前の意固地なお師匠に聞いてみろ」

 アーレスがため息まじりに返した。2人はそのまま自機に乗り込み、飛び去っていった。ソールは、会議室に残っていたアポロンに聞いた。

「何があったんです?」

 ソールの問いに、アポロンは仏頂面で答えた。

「アルカディアに帰って来いとさ」

「師匠、嫌なんですか?」

「お前には詳しく話していなかったな。いい機会だから話してやる」


 アポロンは、元々アルカディアの役人だった。エネルギー工学を学び、優れた技術者として、同国の科学技術の発展に寄与し、それが認められてエネルギー政策を担当する大臣にまで上り詰めたのだ。

しかし、あるとき、アポロンは全てをやめて、このアレクサンドリアに移った。

「理由はガイアの血だよ」

アポロンは、エネルギーを研究する最中、ガイアの血の使用が、地球上で温室効果ガスを増やすことになると気づいた。それを中央政権に訴えたが、科学技術の恩恵を受けていることを理由に聞き入れてもらえなかった。

それに、アルカディアはガイアの血をアフリカ大陸から得ている。公正な取引ならともかく、過去に侵略した植民地からだ。これでは搾取と言われても仕方がない。

「元首のゼウスは、そのあたりの柔軟性がないんだ。このままだと温暖化が進んで取り返しのつかないことになるし、アフリカ大陸の人々からも反感を買うよ」

 ガイアの血はいずれ枯渇するという。それによっていずれは少ない資源を巡っての紛争も激化するだろう。加えて次の世代はエネルギーが少なくなる。温暖化の進んだ世界で、少ない資源を奪い合って生きなければならなくなるのだ。

「じゃあ、どうしたらいいんです? ガイアの血は今の文明に不可欠なエネルギーですし」

「そのために今、新しいエネルギーを考えているのさ」

 一通り話し切った後、椅子に座っていたアポロンは顔を上に向けた。何か思案している様子だ。

「……まだ研究中だから、誰にも言わないつもりだったけど、そうも言っていられないな」

 アポロンは立ち上がると、外に出ていった。

「ソール、ついて来い」

「どこに?」

「太陽の翼を見せてやるよ」

太陽の翼? ――何だろう? ソールは期待と不安がおり混ざった心境で、アポロンを追いかけた。

 アポロンがやってきたのは地下階段だった。降りていった先の踊り場にあるボタンを押 すと、目の前の壁が引き戸のように開いた。

「隠し扉だ。まだ誰にも知られたくなかったからな。他人で見せるのはお前が初めてだ」

 灯りを付けたその部屋には、大きな鳥がいた。赤とオレンジでカラーリングされていて、光を反射して燃えるような印象だ。

「これは……?」

「戦闘機だよ。コードネームをフェニックスという」

 知らないうちに、こんなものを開発していたのか。フェニックス――その秘密兵器のコードネームは、説明不要なほど世界中で有名になった霊鳥だ。

「アルカディアにある戦闘機ともひけをとらない。そして、他の戦闘機にはない機能がついているんだ」

「何ですか、それは?」

 アポロンは、目線をフェニックスに向けながら言った。

「太陽光線をエネルギーに変えるのさ」

「太陽光線を!?」

「僕が開発した技術で、サンギルドシステムと言うんだ」

 フェニックスは、少量のガイアの血と太陽光線で動くことができるという。日中は太陽エネルギーで、夜間はガイアの血を使う。

「本当は、平和目的での実用化を考えたんだが、まずは軍事目的でアピールすればインパクトは大きいと思ってな」

 これ、どうするつもりなんだ? ソールの頭に、アポロンが戦闘機に乗って戦う姿が浮かんだ。が、似合わない。そもそも操縦できるのか。視力はそんなに良くないはずだし、以前、テスト飛行したときに「高い所が怖い」とか言っていたっけ。

「ソール、手伝ってくれないか?」

「え?」

「これまで1人でやってきた。完成したし、あとは最後の整備が残っているんだ。私だけが独占する技術にはしたくない。頼む」

 アポロンが言うには、これは未来を救うエネルギーとなるはずである。日常的な技術に応用できるようになれば、ガイアの血に頼る必要はなくなるだろう。

 そこまで自分を買ってくれるのは嬉しいが、正直自信がない……。

「ちょっと、考えさせてくれますか?」

「え?」

 アポロンの顔に困惑が浮かんだ。どうやら、ソールが二つ返事でOKをしてくれると思っていたようだ。

「まあ、急に言われても戸惑うよな。いい返事を期待している」

 そういうとアポロンはメモリーをソールに渡した。サンギルドシステムとフェニックスの設計図が入っている。

「目を通しておいてくれ。また話そう」


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