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ネオフラカンシステム

 シバルバーは大都市だった。アレクサンドリアやアルカディアも都会だったがシバルバーはそれ以上である。

 面積はさほど変わらない。違うのは高さだ。

「たっか…」

 ソールは街に出てビルを見上げた。地上100階はありそうなビルだ。それも1棟でなく何棟もそびえ、一つの区画に集まっている。

 摩天楼のふもとを大勢の人々が往来している。それもすさまじい人数がさっさと歩いているのだ。

店に入って飲み物を買おうと、財布を取り出した。

「あ、両替してなかったな…」と思ったとき、ふとペルセウスに渡されたカードを思い出した。

「確かこれで買えるって言ってたな」

 研究費が降りたという話だが、シバルバーの日用品はこれで買えるということなのだろう。水を持ってレジに進みバーコードのようなものをあてた。すると値段が出たので今度はカードをかざした。液晶を見ると自動的に精算されている。

「現金いらないのか…」

 便利だなあと独り言を言いながら店を出ると、今度はタクシーのような車が目にとまった。行き先の研究施設の名前を書いたメモを出し、行き先を伝えようとすると。

「ん? 無人なのか?」

 乗り込んだ車には人はいない。その代わり運転席のようなところにあるパネルから音声が聞こえた。

〈行き先をご指示ください〉

〈え、シバルバー・ネオフラカン中央研究所〉

〈了解しました。どうぞご乗車ください〉

 ソールが座席に腰をおろすとドアが閉まり、車が走り出した。

「こりゃすごい、最新の科学技術を集めているぞ」

 やがて研究施設であるシバルバー・ネオフラカン研究所に到着した。


「君がアルカディアのソールくんか、ようこそシバルバー・ネオフラカン中央研究所へ」

 玄関で出迎えた赤い髪の男がにこやかに挨拶した。黒縁のメガネが印象的だ。

「私は当研究所の所長をしているフン・カメーだ」

 握手した手は荒れていて指も太い。日夜、技術開発に精を出しているのだろう。二人は研究所の中に入りながらシバルバーの技術のことについて話した。

「驚きましたよ、ここは何でも自動操縦なんスね」

「すごいだろう。ネオフラカンシステムの成功により、これほどの文明が作れたんだ」

 自分たちの技術を謙遜することなく酔いしれるように「すごい」と言っている。ソールはその尊大さに警戒心が働いた。

(こいつ、ちょっと危ないかもな)

 亡きアポロンから「どんな技術も完璧ではなく、何かしら弱点がある」と思えと教えられた。現に、サンギルドシステムは太陽がなければ修復のエネルギーが作れない。常に課題がありそれを改善する努力が必要なのだ。

 自分の技術を自慢したい気持ちは分かるがフン・カメーの口ぶりには謙虚さがまったくなかった。どこかで欠陥が見つかったときどうするつもりなのか…。

「ところで、あの自動操縦ってネオフラカンシステムって言うんすね」

 フラカンとはシバルバーをはじめとした中南米地域では「風」を示し、広義的に「自然」を意味するようだ。のちにマヤ神話では「風の神」となり、台風であるハリケーンの語源になったという説もある。「ネオフラカン」とは、その自然を超越した技術ということだろう。

 自動決済や無人車の自動操縦のように現代でいうところのAI機能が生活の到るところに及んでいる。

 例えばエレベーターに搭乗すると階数を言うだけでそこに連れて行ってくれる。車椅子の人がいたらセンサーがそれを察知するのだろうか出るまで待ってくれる。その車椅子にしたって、使用者が手で使うのではなくゲームのリモコンで操作できるような仕組みである。

 空中にはラジコンのヘリコプターが飛んでいた。荷物を持っているようなので宅配便の機械だろうか。聞いたところ受取手の顔を認証して届けてくれるらしい。

「実は、飛行機の自動操縦システムは我が研究所が世界に先駆けて開発したものでね…」

 まだ自慢話が続いている。大丈夫か? あのラジコンも、荷物の代わりに銃弾をプレゼントすることだってできるだろうに。

「フン・カメー兄さん。どこ行くんだ? こっちだよ」

 後ろから声がした。フン・カメーに似た男が立っている。兄弟だろうか?

「ヴクブか。こちらの客人、ソール君を案内していたんだ」

 その男は、フン・カメーとは対称的に青みがかった髪の色をしている。また物腰も対称的で物静かで穏やかだ。しかし、その目は指すように冷たい。

 ちなみに、フン・カメーとヴクブ・カメーはマヤ神話に登場する神である。

「はじめましてソールさん。よろしくお願いします」

 頭を下げた。フン・カメーより少し年下くらいだろうからソールよりは年上のようだ。が、若輩者のソールに頭を下げるのは少なくとも兄貴よりは尊大ではないからか。

「中央研究所のメインラボにご案内いたしましょう」


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