三の世界 銀の髪の記憶
「疲れたー。推薦組体育きつい」
私は普通科で騎士とは無縁の授業を受けているから実際に受けた事はない。だが、噂では何度も耳にする。
騎士科の体育はかなり過酷だと。見てはいないからそうとは言えないが、学園の敷地の外周を十分以内に推薦組は十周受験組は五周する事から始まるらしい。
学園の敷地はかなり広いから一周一分は無理だからただの噂だろうとは言われているが、目撃証言が後を経たない。
それ以外にも水泳では二十五メートル息継ぎなしで泳ぐ。(推薦組は五十)などと常人では到底できそうにないような事を課せられていると聞く。
なぜ、噂なのかというと普通に過ごしていて騎士科と普通科の接点はないからだ。だから普通科には噂という形でしか知る事はできない。
まぁ、私は知り合いいるのだが。
「……騎士科は放課後も」
「サボってないよ。朝と同じ方法で回避してきた」
「だったら先に一人で帰っていれば良いだろう。わざわざ一緒に帰らなくとも」
騎士科は訓練に時間を割くためか授業へ一時間短い。
「一緒に帰りたかったから」
「そう」
「……オプシェ、そっち違う」
「えっ」
午後から頭が回らなかったが、すぐ治るだろうと気にしてなかった。
景色が回って目の前が真っ暗になり、放っておいたら駄目な類のものだと気がついた。
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サラサラとした銀色の髪が揺れている。
「ぁあー」
小さな手が銀色の髪に触れた。
これは夢だろう。だが、なぜなのだろうか。胸が締め付けるような思いと懐かしさは。
「銀の姫の遺伝子が強すぎてボクの要素はないなぁ。君に似て美人で可愛いけど、少し大きくなって二人で歩いていて他人の子だと思われないかなぁ」
「あなたにも似ているわ。ほら、ここの黒子とか」
この二人が私の両親か。見えないが、声が優しそうだ。
「そういえば君はもう一つの世界という場所で結婚したのかい?」
「していないわ。もう一つの世界のあなたも見たけど、別人だった。見た目と名前が同じでもあなたはあなたしかいないわ」
何人か同じ人には会った事がある。同じ場所へ行くと同じ人によく会う。それはそんなに知らない間柄だから、違うなんて分からない。だが、一緒に長い間一緒にいた仲であれば気づく事ができるのだろう。
私は今までそういう相手を作らないようにしてきたからそれが少し羨ましい。
「この子の特別な相手見たいわ。どんな人なんだろう」
「そうだね。この子が決めた相手なら絶対に良い人だよ」
「……あなたはこの子と一緒にいれるわよ」
「君について行くよ。あの子はボクたちの愛の結晶。だからこそボクは君について行く。それがこの子の未来に繋がるなら」
未来に繋がるとはどういう事なのだろうか。
「銀の姫は自分の世界が分からず彷徨ってしまう。あの子がどちらを選んでも良いようにしておきましょう」