捨てられた勇者の剣、転生したら宿屋の小さな看板娘でした
「これで終わりだ。」
王が放った言葉は冷たかった。彼はかつて、魔王を倒し王国を救った勇者だった。しかし、戦いが終わるとともに、彼は役立たずとして捨てられた。
「もうお前には何もない。さようなら、勇者。」
彼の命運は尽き、手にした剣も王に奪われ、すべてを失った。だが、彼の魂は未だに消えなかった。気づけば、彼は小さな宿屋の軒先に佇む少女として目覚めていた。
※ ※ ※
「はぁ、またお客さんが来ないわねぇ……」
そう呟きながら、彼――いや、今は小さな少女となった看板娘――エリザは掃除をしていた。身体は小さく、力も無い。だが、彼女の中にはかつての勇者の魂が宿っていた。
ある日、エリザは古い木箱の中から、朽ちた剣を見つける。それは、かつて彼が使っていた「勇者の剣」だった。剣を手に取った瞬間、彼女の体の中で、何かが呼び覚まされた。
※ ※ ※
その晩、宿屋に現れたのは、傲慢な態度を隠さぬ一人の男だった。
「お前、この剣を持っていたのか?」
男は剣を見て驚き、エリザを睨んだ。
「返してもらおう。この剣は王のものであり、貴様のような宿屋の女にふさわしくない。」
エリザはその言葉に眉をひそめた。彼の言葉は過去の彼女――勇者としての誇りを傷つけるものだった。
「この剣は私のものだ。返すつもりはない。」
エリザの言葉にはかつての勇者の決意が込められていた。
その瞬間、エリザの体から光が放たれた。勇者としての力が再び蘇り、彼女の中で眠っていた記憶が目覚めたのだ。
「俺は……捨てられた勇者だった。しかし、もう一度立ち上がる。」
エリザは剣を振りかざし、彼女を侮辱した男を一蹴した。かつての力はそのままに、小さな身体に宿る力は今も衰えていなかった。
「宿屋の看板娘? そんな肩書きで終わるつもりはない。俺は再び、自分自身を見つけるために生きる。」
彼女は剣を手に取り、宿屋の看板娘としての日々を過ごしながらも、新たな冒険へと足を踏み出した。かつてのように戦場で剣を振るうのではなく、人々を助け、真の意味での「英雄」として歩んでいく道を選んだのだ。
※ ※ ※
エリザは笑顔で宿屋の客を迎え入れながらも、決して忘れなかった。自分がかつての勇者であり、今はただの宿屋の娘であること。しかし、それは決して「無価値」ではなかった。
「捨てられた過去は、今の私を作っている。私はもう、誰かにとっての『剣』でいる必要はない。自分自身の道を進むために、この剣を使うんだ。」
エリザは、宿屋の窓から遠くの空を見上げた。彼女は今、真の自由を手に入れたのだった