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第3話 ()

「ストック様、やはり涅色の瞳に違いありません。

暴れだす前に、処刑した方が吉かと思われます」


 どうやら俺は今処刑されるかどうかの瀬戸際にいるらしい。

 体は硬直して動かず、目には隠しが巻かれているので詳しい情報は分からない。

 しかし、眠りから目覚めて覚醒した聴覚情報を頼りに推測してみると、そう捉えるのが最も現実的だろうか。

 どうして、こんなことに...


「何をそんなに渋っておるのだ、ストック。

例えこいつが人や魔族を殺したことがないクレーラーであったとしても、それがこいつを殺さない理由にはならない」


「グラマン様もこう仰っていますが、どうなさいますか」


「それでも、やはり一度こいつと話をしてみたいんだ。

少しだけでいいから隠しを外してやってくれないか、オードリン」


「ですが...」


「しなくてよいぞ、オードリン。

それだとクレーラーの思う壺ではないか。

クレーラーだと分かって瞳を見るやつがどこにいる」


 さきほどから何やら口論のようなものが続いているようだ。

 議題はおそらく。


『とりあえず俺の目隠しを外すかどうか』


といったところか。

 話を聞く限り「ストック様」と呼ばれている男が、俺の目隠しを外す案を一人で推しているようだ。

 なんとなく聞き馴染みのある爽やかな声をしている。



...もしかして、こいつ二人の魔女に囲まれてた白髪の男か?

 もしそうだとすれば、敬語を使って話している女の声は魔女のどちらか片方か。

 残りの渋い爺さん声は、聞いたことが無いな。


「なぜそこまでストック様は彼の目隠しを外すことを強く望むのですか?」


「理由としてはいくつかあるんだ。

一つは既にグラマン様が否定なさったことだ。

私は、クレーラーにだって人を殺したことがない平和主義の穏健派がいるだろうと思っている。

こいつがその穏健派だって可能性もあるだろう?

その可能性を、私は確信に変えたいのだ。

他の理由は、単に『好奇心』とでも言うべきかな」


「ふざけるな、ストック!

お前は己の欲望で王都を破滅させる気か?

自慢の息子として少しは信頼していたのだが、お前の無責任な言動を見ると自分が馬鹿馬鹿しくなるわい」


「私だって何も考えずに好き勝手行動しているわけではありません。

 私は自信を持ってこいつが安全なクレーラーだと断言することができます。

 このままでは埒が明かないので、本人に聞いてみることにしましょうか」


「本人に聞くって、何をだ!」


「『反逆心の有無を』です。

オードリン、こいつに私に対して反逆するつもりがあるかを聞いてくれ。

悪いクレーラーの可能性もあるから、油断はするなよ」


「分かりました、ストック様。少々お時間を頂きます」


 そんな会話ののちに、俺に向かってコツコツという足音が近づいてくる。

 そして顔のあたりに何か手のようなものが触れたかと思うと、すぐに視界に真っ白な光が飛び込んできた。


 目隠しを外してくれたのだろうか。

 一時目隠しをされ続けていたせいか、未だ目が外界の光に耐えきれずに目には微かなシルエットしか見えない。

 数秒間ぱちぱちと素早く瞬きをしているうちに、徐々に光に慣れ始める有能な人間の目。

 目が見え始めるとその視覚情報の九割程を占めたのは、あのシアンの瞳の魔女の顔であった。

 俺の視界のほとんどが彼女の白い仮面で埋め尽くされる。


「見えますか?」


 十センチほどしかない俺と魔女の顔の距離で囁かれたその女声に、ほんの少しだけ頬を紅潮させて動揺していると、遠くからまたもや女の声がした。


「彼から薄く発情の色が見えました。気をつけてください、オードリン」


 そう呼びかけられて、「オードリン」と呼ばれていたシアンの瞳の魔女がその目を閉じながら言い返したのは、


「この方は白い仮面に興奮する趣味があるようですね、いい趣味です」


 ちなみに言っておくがもちろん俺にそんな趣味は無い。

 俺はそれを否定するために早口で捲し立てた。


「ええっ!?もちろん違いますよ?違いますよ?

普段僕は女子と話す機会が無いですから、ちょっと顔が近かったってので少し恥ずかしかっただけですよ!

仮面に興奮する趣味は無いですよ!もちろん!」


「分かりました。

ところで本題に入りますが──」


 俺は動揺を隠しきれず、顔はやや引き攣っている。

 体の硬直は徐々に治ってきてはいたが、腕と足を結ばれて壁に固定されているのか、壁に張り付いたまま身動きは取れない。

 周囲を見渡すと、そこには先程の廊下と同じ雰囲気の、立方体の形状をした開放的な空間が広がっていた。

 シアンの瞳の魔女に、マゼンタの瞳の魔女、白髪の男、そしてその男と似た容貌でそのまま老いさせたかのようなオールバックの爺さん。

 そんな不気味な姿の四人が、部屋の中で自由にそれぞれの位置に散らばっていた。


 オードリンは俺に話の続きをしようとしていた。

 十センチの距離にある白い仮面から覗くシアンの瞳が、ただ真っ直ぐひたすらに俺を見つめる。

 俺はなんとなく全身に寒気を感じた。

 

「ストック様に反逆をするつもりは、ある?ない?」


 世界から音が消えたような気がした。

 脅しのような文句に俺の背筋は凍りつく。

 俺は何も考えることができず、脳死で反応した。


「ありません」


 オードリンは、質問を続けた。


「あなた、クレーラー?」


「いいえ、違います」


「属名は?」


「分かりません」


「どこから、何しにきた?」

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