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名探偵は異世界にも  作者: っぽ
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第2話 ロックシャー領は今日も平和です

俺が名探偵宣言をしてから7年が経った。


 名探偵宣言とは俺が6歳の時に初めて家族に探偵、そして名探偵というものを説明し、それになるという宣言をしたことだ。


 初めは便利屋だと思われ、両親からは疑問の、兄からは反対の声が上がったが、便利屋と探偵との違いをちゃんと説明し、その場を終えた。

 その後も何回も将来の話を家族としたが俺は迷わず、惑わされず、名探偵になるという目標を持ち続けた。


 両親の反応としては、最初の2、3年までは名探偵になる事を素直に応援をしていてくれたが10歳ぐらいになる時には、そこまで表立って応援をしてくれることは無くなった。


「なあ、ポラン。探偵って言うのもいい。でもお前は剣、魔法どちらの才能もある! 近衛騎士を目指してみないか?」


「ポラン、近衛騎士じゃなくてもいいから騎士団、魔法騎士団に入ろうよ! そこでなら探偵とやらのいい経験になるかもしれいよ」


「ポ、ポラン、将来うちの領土で働いてみるか? 週に三日は休みを……え、いや? な、なら四、四日は? 休みじゃない?」


「ポラン、近衛騎士とか贅沢は言わない。頼むから普通の仕事についてくれ! せめて人には迷惑をかけない仕事を」


 このようにして、両親(特に父さん)が俺の将来について折れ始めた。

 もちろん最初から父さんは妥協していったわけではなく、妥協していったのには理由がある。


 そう、俺はちゃんと父さんの剣と魔法の訓練をちゃんとこなしていたからだ。元々、探偵になるためにも必要なことと俺は思って訓練をしていたのだが、どうやら父さんが認めるほどに俺は上手になっていたようだ。


 だからこそ、ここまでやっているのに何でこんなにも父さんに将来を心配されるのが理解できず、直接聞いたことがある。


「父さんの訓練もちゃんとやってるし、何でそこまで俺が探偵になる事を渋るの?」


「せっかくこんだけ出来るんだからこそ、その力を活かして欲しいんだよ〜」


 父さんは頭を思いっきり下げて落胆していた。


 それが俺と父さんとの攻防だ。


 次は母さんとの攻防だ。


 母さんとの攻防はそこまで激しくはなく、ただ母さんが俺に勉強をさせようとしてくるだけだ。

 探偵は頭を使う職業、俺としては勉強はウェルカムな事なのだが、唯一俺が嫌なのは母さんが課してくる読書感想文だ、それも400文字程度で纏めろの事。


 本を読むことはいい、でもそれの感想を書くことはものすごく面倒で、それならもっと本を読みたかった。その事を母さんに伝えたら、最初は却下されたがしつこく抗議をしたらある条件を飲む代わりに感想文ではなく、口頭での感想でいいとなった。


 その条件とは、いわゆるテストで母さんが用意した問題を全て解くことが出来れば感想文は免除という制度を投入してくれた。


 もちろん俺はそれに同意して、毎日その制度を利用している。そのおかけで俺は、その制度が投入されてから俺は感想文を書く機会が大きく減り、その時間を俺の探偵になるための時間にすることが出来た。


 しかし俺は今、感想文を書いている。


 テストで満点を取ることが出来なかったからだ。


 前世の記憶を持っていて多少のアドバンテージを持つ俺だが、魔法の理論についてはそれを活かすことが出来なかった。そもそも専門用語が多すぎて、それ自体覚えるのが難解だった。実際、俺が満点を取れない時は魔法理論のテストの時が多い。


「なのでこのような事をせず、子供には伸び伸びとさせてあげることが重要である……っと。よしこんなもんでいいだろ」

 

 そして俺はようやく感想文を書き終わり、母さんに提出した。今回の本はいわゆる新時代の到来とともにやって来る問題の警鐘、そして俺たちはどう生きていくべきかの本だった。この本はあの有名な勇者パーティであるブレイヴァーの賢者と呼ばれる偉い人が最近書いたものらしい。










「今日は依頼がないかな〜」


 そう言いながら俺はロックシャー領にある古びた家のポストを確認した。どんなことでも解決してみせる意気込みながらポストを見たのだが残念ながら依頼の手紙はなかった。


「あ〜あ、今日も平和だな〜」


 そう言いながら俺はつぎはぎだらけのソファにダイブした。そのあとにいつも座っている俺の椅子に腰を下ろした。


 ここはいわゆる探偵事務所って言うやつで、俺が勝手に作った。ここはあの素敵な滑舌を持っている村長の村の端っこに立っている空き家で、俺が村に遊びに行った時に見つけたのだ。


 俺はこの空き家を探偵事務所にするまでには色々な戦いがあった。まず初めにこの空き家を好き勝手でいる権利が欲しく、父さんに直談判しにいった。


 もちろん、父さんの答えはNO。


 でも、そこで諦めたら名探偵なんかになれない。


 なので俺はこの要求を通すためにさまざまな事をした。一日中父さんを尾行したり、魔法を使って盗聴までした。(と言ってもただ父さんが話しているのを聞き耳たてただけだが)


 そしてある時、転機が訪れた。


 そぉ〜う、父さんの弱みを見つけたのだぁ〜


 あの容量がよく、家族思いな父さんにも家族には言えないことがあったのだ。


 そして俺はそれを「母さんと兄さんにうっかり口を滑らしちゃうかも?」とか言って何とか空き家を好きにする権利を貰ったのだ。


 そこからはとんとん拍子で、家は村の大工の仕事を手伝ってもらった代わりに直してもらったり、ソファはロックシャー家の倉庫の肥やしになっていた物を貰うなど、多くの人に協力してもらい俺が11歳になる時に何とか完成した。


 俺が座る机、その前にローテーブル、机に直角になるようにローテーブルを挟み込むソファ2つ、まさに映画で見た理想の探偵事務所を再現できたと思う。


 完成した時には村中の人が見に来てくれて、何故か俺の家族までもが俺の探偵事務所開設に祝いに来てくれた。


 もう、本当に嬉しかった!


 ここから俺の探偵としての伝説が始まるんだ! 


 名探偵になるんだ!


 ……と期待に胸を膨らませていた。


 そんな思い出に浸かりながら、俺は最近の新聞を読み、コーヒーはまだ舌が慣れないのでココアを飲みながら俺はソファでくつろぐ。


 探偵事務所にいる俺はいつもこんな感じだ。


 それもそのはず、ここはど田舎だ。村人も50人程度で事件なんてもの起こりようがない。みんな農作業やら手芸やらで忙しく事件なんて起こす暇がない。


 つまり、探偵なんかこの村には必要がないのだ。


 それこそ最初は、新聞とか本とか持ってきていたけど、ずっと読むフリして、ドアが開かないかチラチラ見ていた。

 ポストに落ちる手紙の音がないか必死に耳を傾けていた。


 でもそんなことは全然なくすぐにそんな事を止め、本や新聞に没入していった。










 俺が探偵事務所を開いてから半年、ついに俺以外にそのドアを開ける人が現れた。俺は半ば少し諦めムードに陥っていて、上手く反応できなかった。


「あ、あの〜ぅ、ここで困った事を解決してもらえるって聞いたんですが……」


 そう言って入ってきたのは、この村で唯一の商人の娘だった。


「そ、そうです! 俺が解決して見せます!」


 何度も、依頼人が来た時の対応を頭の中でイメージしていたが、咄嗟のことでそれを上手く活かすことは出来なかった。


「ポ、ポラン様が?」


「はい、俺が《《探偵》》として依頼人のあなたを助けましょう」


「は、はあ〜探偵ですか?」


「そうです。探偵ポラン、そのように読んでいただいても結構です。で依頼は何ですか? 家宝でも探します? それとも先祖の残した謎を解きますか?」


 俺は初めての依頼に興奮して鼻息荒く喋っていた。


 そんな俺に若干引きながらも彼女は話し始めた。


「じゃ、じゃあ探偵ポラン様、私、実家の倉庫の鍵を無くしてしまったので一緒に探してくれませんか?」


「か、鍵?」


 俺は勝手ながらに驚いてしまった。


 何となく彼女は商人の娘で失われた家宝とか、先祖の残した家宝を得るための謎を解いて欲しいなど、そんないかにも『探偵の出番です!』そんな状況を色々考えていた。


 そんな妄想もしていたので、無くした鍵を探してくれ……って、もしかしてそれが今回の謎か〜〜!


「もしかして、その鍵は……」


「来月の納品予定の小麦を入れた倉庫のです」


 一瞬で切れられた。


 なんか俺が思っていた壮大なものじゃなくて、言い方悪いがしょぼい感じなので少し俺は凹みかけた。


 そんな俺の様子に気づいたのか、依頼人である彼女は遠慮気味に、


「もしかして、ダメでしょうか? それならば、すみません。そうですよね。自分が無くしたんだから人に頼るなんて間違ってますよね。自分で探します」


 そうやって謝ってきた。


「い、いや全然違いますって、全然頼ってもらって、むしろ頼ってきて欲しいですよ〜。何だって探偵はそう言うもんですから」


 そう言って俺は立ち上がり、彼女の依頼を受けることにした。


「さ、最初は現場にいってその時のことを聞きましょう」


 彼女の誤解を解くためにも俺はこの依頼を完璧にこなそう!

 そう思い俺は探偵としての……って言っていのかわからないが初めての仕事をした。









 初めての仕事は結果としては成功した。何とか、納期の前日までに鍵を見つけることができた。まあ中々に頭を使ったのですごく達成感はあった。

 鍵を見つけたことはすぐさま村中に知れ渡り、それから俺の探偵事務所のドアを開けるものは増えていった。


「ポラン様、俺も家の鍵無くしちまったんだ」


「ポラン様、シェリン様に新聞をもらったんだけどここは何て読むんだい?」


「ポラン様、探偵ってな〜に? 僕もなれる〜? 私は〜?」


「ポラン様、あっちで喧嘩してるんだ! 止めてくれ!」


「ポラン様、家の掃除手伝ってくれない?」


「畑に気持ち悪いのがいたの! 退治して〜」


「ポラン様、これ糸絡まっちまって、直してくれないか?」


「ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様、ポラン様〜!」




 う〜〜〜〜〜〜〜〜ん、違う!


 何かが違う!


 結構違う!

 

 これこそ父さんが言っていた便利屋になっている。完全になっている。いつも村人には野菜とか色々貰っているから、別に嫌いではないが、俺は探偵をしたい!


 俺は探偵がしたいんだ!


 てか何だよ、糸が絡まったって自分でやれよ!


 確かに俺はそう言うのが得意で、スイスイできるが自分でも頑張れば出来るだろう!


 …………はあ〜、でもやっちゃうだよな〜


 自分でも分かっているが、依頼と言われると何故だかやっちゃう自分がいる。探偵として頼られてる感じがしちゃって。


 そんなちょろい自分に嫌悪しながら俺はココアを飲む。


 するとドアからノックがしてきた。いつもは村人が勝手に入ってくるので珍しいと思いながらも、


「どうぞ〜」


 新聞に視線を固定しながら、入室を促した。


 そして、入ってきたのを耳で確認しながら新聞から視線を外してソファの方を見て喋る。


「今日はどのような案件……って父さんなんでこんなところに?」


「なぁに、ちょっとお前の様子を見にきただけだ。上手く村人と交流できていることで結構、結構。これも探偵ってやつのおかげかな」


 父さんは少しニヤけながらそう言ってきた。


「冷やかしなら帰ってよ。これでも色々と忙しいから」


 そう言うと父さんは冗談だと笑って誤魔化した。


「父さんが来た理由は三日後にロックシャー家の寄親でもあるナン・カーオキール侯爵が主催する貴族の交流会があるんだ。そこに一緒に来てもらうよ」


「行かないって選択肢は……」


「ない……ってかそもそも侯爵がポランに会いたいと言っているんだ。絶対に行かないとダメだよ!」


 父さんがそう言って、俺の方を見つめてきた。


「「……」」


「ねえ、これって何の時間?」


「今回は絶対に引かないよ。ポランが何を言っても」


「いや、行くよ?」


「え⁉︎」


 父さんは大きな声を出して立ち上がった。


「ど、どうしたのさ?」


「い、いや、ヤケにポランが素直だな〜って」


「ふふ、探偵にも教養は大事だからね。せっかくの交流会、礼儀作法を確かめるのにもちょうどいいし、世界の情勢も知ることができるかもしれない。行かないと選択肢はないと思うけど」


 そう言うと父さんはポカンっとした顔で聞いていった。

 そして咳払いをして、


「ご、ごほん。ならそのつもりで居ておくように。父さんが伝えたいことは以上だ」


 そう言って父さんは俺の探偵事務所を後にした。


 その姿を見ながら、


「はあ〜、俺が名探偵になれるのはいつになるのやら」


 そう言って俺は何度目かわからないため息を吐いた。










 でも、その願いは叶うことになる。


 名探偵と言えるかは分からないが……

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