第8話 潰すぞ?
「さっすが『シラユキ』だよなぁ……。あのPVも本当に良かったし!」
着替え終わった陽翔がモニターを見ながらこちらにやってきた。ステージ袖はバタバタと走り回るスタッフ。今回、デビューする皐月たちのお披露目を兼ねているので騒がしい。
「そーいや、凛たちも来てたの見えた?」
「見えた。凛、関係者席に座ってたな」
「言われてみれば。うちの父さんは座れないって言ってたのに、さすが、wing guysは違うよな」
「そうだな。でも、凛たちはまだ、やってないことを僕たちは先に叶えた」
「世界進出な。あの五人なら余裕で世界出てきそうな気もするけど……」
言葉を切った陽翔の方を見ると、厳しい視線を真っ直ぐ向ける。珍しく睨みつけるような視線の先を追うと、そこには皐月がこちらを見て立っていた。
「よぉよぉ、天使ちゃん。僕らのステージに立たせてもらえる気分はどう?」
わざとらしく挑発すると、僕の方を睨んできた。ほんの半年前まで、売れないアイドルとバカにしていた僕が、陽翔という相棒を得ていつのまにか世界でも戦えるほどになった。
悔しいのだろう。バカにしていた僕の……僕らのステージでデビュー発表をしないといけないことが。
「……最高ですよ? 湊先輩。どうやって、世界を動かしたのか、是非とも手ずから教えてもらいたいですね?」
「そ……」
「湊に近寄らせるわけないじゃん? 俺で良かったらいつでも相談に乗ってあげるよ、天使ちゃん」
「なっ」
「移り変わりの激しいこの業界。いつまでもトップであり続けるのは、お前らじゃねぇ」
「まだ、これからデビューを……」
「お呼びじゃないんだよ? わからない? 天使ちゃんはここじゃなくて、天界にでも帰ってよ? 湊の大事なライヴを台無しにしてみろ?」
いつもと違う陽翔の険悪な雰囲気に止めようとしたが、来るなと手で止められた。
「……し、したらどうなるっていうんですか? 今日、俺らだってデビューするんだ。踏み台に……」
「潰すぞ?」
いつもよりずっと低く太めの声な上に皐月の耳元で言ったので、あまりこちらには聞こえてこなかったが、皐月の表情を見れば気の毒な気分だ。
こんなふうに突っかかることはない陽翔に驚きながら、青ざめている皐月から陽翔を引き離した。
他のメンバーには陽翔が何を言ったか聞こえていたらしく、皐月を回収して大人しくしていてくれる。年も変わらないので、きっと、これからライバル関係になるであろうが、事務所の後輩を怖がらせてしまった。
「ヒナ、天使ちゃんに何を言ったの?」
「何にも。お互い頑張ろうね? って言っただけ」
「嘘つけ。天使ちゃん、完全に戦意喪失してるけど?」
「まぁまぁ、いいじゃん! 気を取り直して……、ラストステージへ行こう!」
前を歩く陽翔を見ていると急に立ち止まった。背中から何とも言えない緊張感が走る。今日はステージだけでなく、ステージ外も陽翔にとって忙しい日のようだ。
「どうかした?」
「今日は……次から次へと……。本当に、困るなぁ……」
背後から覗き込むと凛と三日月がステージまでの通路で待っている。三日月はアンコールで歌う『プロローグ』のゲストだ。作詞作曲をしてくれているので、最終日の今日、スケジュールを合わせてもらった。
「よっ、湊」
「つっきーと凛じゃん?」
陽翔の隣に並ぶと大きなため息と共に手を引いて……いや、僕を引きずって歩き始めた。
「ちょ、ちょっと待って! ヒナ」
「もう、時間ないよー」
「でも、挨拶」
「後でいい!」
スタスタと先を歩くので僕も足並みを揃えるが、「またあとで!」と三日月に声だけかけた。凛も何か言いかけたが、それよりも陽翔の力の方が強くあっという間にステージの袖まできた。
「まだ、時間あったのに……」
「そんなに話したかった?」
「ん? どうかしたの?」
覗き込むように陽翔を見れば、唇をギュッと結んでいる。
「……そういうわけじゃないけどさ。凛はともかく、つっきーはこの後、同じステージに立つわけでしょ? 挨拶くらいはしたほうがいいかな? って」
「わかった。次からは気をつける」
「わかってくれて嬉しいよ。この業界、どこで見られてるかわからないからね。不仲説とかは、アイドルとしてないほうがいい噂だから」
……最近、僕の自己都合的な思惑を考慮したうえでだけど、ヒナから独占欲的なものがあるような気がするんだよね。それって、僕の勘違い……じゃないよね?
そうだったら嬉しいなと思うと自然と口角が上がる。にやける口元を引き締め、陽翔の肩をポンポンと叩いて、「行こう」と声をかける。映像が切り替わったところでイントロなしの歌い出しだ。
陽翔も気持ちを切り替えてくれたらしく、第3部の入りとしては上々の歌い出しである。
移動のためにアイコンタクトをすれば、バチっと目が合った。そのまま、予定通り、皐月たちにメインステージを譲るため1番後ろの島まで一緒に歩いて行く。
もう、残すところ、僕らの曲は最後だ。その前に、皐月たちのお披露目がある。
「あぁ、曲終わったけど、まだ、島まで辿り着けてない!」
「湊が遅いんじゃん!」
「いや、ヒナだって立ち止まってるし」
「いいの、いいの。俺らのはファンサービスだから! みんな、大好きだよ!」
正面のスクリーンに映し出される陽翔が投げキスをすると、「キャー」っと会場が一斉に色めきだつ。
「ほらほら、湊も!」
「促されてするものじゃないでしょ?」
「俺、湊も大好きだから……ほら、あのカメラさんに向かって愛の告白なんてやっちゃお! みんな、湊にもしてほしいよねぇ?」
「「「ほしぃーーー!!!」」」
「ほら、湊! 待ってる人がいるよー!」
急に変なスイッチの入った陽翔を軽く睨んでから、指し示されたカメラに向かって「愛してるよ」と言葉にする。
普段から言い慣れてはいるはずなのに、とてつもなく恥ずかしい。
「「「ぎゃあーーー!!!」」」と黄色い悲鳴ではなく、野太い声が響くので、それはそれで感慨深くなった。
「湊、顔が赤いです」
わざとらしくクスクスとからかってくるので、陽翔の背中をバチンと叩いた。
ちょうど、島へ辿り着いたので、役目を果たすことになった。
「おしゃべりはこのへんで。今晩、僕らのライヴにスペシャルゲストが来ています!」
「誰だろ?」
わざとらしい陽翔。「知っているだろ?」とツッコむと、「そこはほら、客席の代弁も必要でしょ?」と笑っていた。
「みんな、正面のステージの方を見て。僕らの後輩が本日デビューするよ!」
正面のステージがパッとスポットライトが当たり皐月たちを照らした。正面スクリーンも僕らではなく皐月たちを映している。緊張をしているのか、ガチガチだ。
「は、初めまして!」
このグループのリーダーである皐月が挨拶をする。
「カミカミ」
「今日はやたらと噛みつくな?」
「そぉ? 実際本物みたらさ、噛みつきたくなっただけ」
なんとも言えない陽翔の態度に肩をポンポンと叩いて「見守ってやろうぜ?」と声をかけた。納得のいかない表情をしながらも頷いてくれるので、僕らはその場に座る。今回、お披露目であるので、皐月たちも一曲歌うのだ。
「なぁ、湊?」
「ん?」
「なんで社長はアイツらを俺らのライヴに入れてきたのかな?」
「理由はいろいろあるんじゃない?」
「俺らが売れてるからとか?」
頷くと「他にもいるじゃんね?」と文句を言っている。挨拶も終わりデビュー曲が始まりそれを見ていた。
「他にも、次世代の会社を背負うとか僕らの背中を追いかけろとか、いろいろあると思うよ」
「なるほど、成長の先に俺らがいるから、頑張れよってことか」
「納得した?」
「まぁ、ねぇ?」
「皐月のこと嫌いなの?」
陽翔に聞いたが返事は返ってこなかった。
もう、終わりか。
皐月たちのデビュー曲は終わりを告げる。僕らは立ち上がって、ラストの曲の準備にかかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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