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第5話 目は口ほどに物を言うねぇ? 凛さん?

「それで、文化祭を楽しむなんて、普通の学生らしいことしてんの?」

「俺が初めてだから、湊が合わせてくれたんだよ」

「初めて?」


 凛がこちらを見てくるが、何を意図しているのかわからない。


「俺が転校生だから、ここの文化祭が初めてってこと。あんまり、湊のこと見ないでくれる?」

「見てねぇーし! 転校生って、まずクラスの違う、ましてや芸能コースの湊と陽翔がどうやって出会うんだよ?」

「ごもっともな話だよな。凛は知らなくていいんじゃない?」

「じゃあ、陽翔が教えろ」


 ツーンとそっぽを向くと、今度は凛が陽翔に聞き出そうとそちらを見ている。陽翔も意地が悪いので、素直に聞き出せるだろうか? と二人を観察する。


「湊が言わないものを言うと思う?」

「……あぁ、くそ。こんな近場にヒナトがいたなんて! 知っていれば、止めたのに」

「知られるわけねぇーじゃん。凛たちはツアーで忙しかったわけだし、それこそ僕のことを見下してただろ?」

「そんなことない! 俺は湊を認めてた! 世間がどんな評価をしようとも。努力しているのも、ずっと前から知ってたんだから」


 熱弁する凛の言葉は正直嬉しかった。世間からライバルだと言われ、売れる王様と売れない王子とラベルを貼られ、ずっと劣等感を抱えていたから。


「そっか。でも、今の状況は悔しいだろ?」


 目を見開いて驚く凛に笑ってやる。今まで、そうされてきたからというのも多少あるが、何よりも凛がかぶっている王冠を取りに本気で望めたことに喜びを感じていたから。

 感じが悪いと言われるなら、それはそれで仕方がない。凛たちの上に立てて、正直、気分が良かった。


「けっ、まだまだこっちだって巻き返しできる! 俺らだって、立ち止まってるわけじゃないからなっ!」

「そうこなくっちゃ、潰しがいがないよね?」


 ニッコニコと笑顔でバチバチとやり合っていると、陽翔が急に笑い出した。陽翔を睨むと凛も同じようにしていたらしい。


「怖いって……二人とも。それにしても似たもの同士、同族嫌悪でもしてるの? お互い、ライバルだって認めてるのはわかるんだけど?」

「そりゃ、目障りだよな?」

「当たり前じゃないか?」


 凛の方を向けば、困ったように眉尻を下げていた。陽翔の言いたいことがイマイチわからない僕らはもう一度陽翔を見た。


「白黒つくのは、ステージの上と売上だろ? どっちが長く愛されるアイドルになるか……辞めるまでわからない」

「確かに。陽翔は辞める気ない?」

「なんで?」

「湊を一人にすれば、勝手に落ちていきそうだから」

「それこそ愚問じゃない? ここまでメディアに出まくってる湊が、俺一人いなくなったからって、どうこうならないよ。それに……」


 急に視線が合ったと思ったら優しい笑みを浮かべる。


「湊から離れるなんてありえない。凛、本当は湊が欲しかったんだろ?」

「なっ、そんなことは!」

「目は口ほどに物を言うねぇ? 凛さん?」


 陽翔が凛に近づき耳元で「あげないよ?」と意地の悪い声で言っているのが聞こえてきた。


「湊が凛に靡くとは思わないけど?」


 凛と距離を取りつつ、陽翔は上機嫌に笑っている。


 ……止めた方がいいのか?


「な、靡くわけがないだろ? 仮にもライバルなわけだし」

「俺が見たところ、wing guysって、ツートップでもいいようなダンス配置だからさ。湊の加入を狙ってたのかなぁ? って。いつも、凛の隣は一人分空いてるよね? 偶然かな?」

「なんのことだか。だいたい事務所の違う湊をって無理あるよ?」

「そぉ? 引き抜き大好きらしいのに?」

「あぁ、そうだよ。俺も引き抜かれたうちだよ。本当なら、湊とデビューしてたかもしれないけど!」

「今更だよね? 絶対あげないから。湊もてっぺんも」

「たいした自信だな? なぁ、湊? 湊はどう思う?」


 こちらに話を振ってくる凛には悪いが、どうでも良かった。

 僕は陽翔と肩を組んで、ニカッと笑う。もう、自然に嬉しくて。


「そういうことかよ?」

「どういうことかはわからないけど、僕もヒナとてっぺんは譲るつもりないよ! 取り返せないほど、高く飛んでやるから!」


「そうかよ!」と拗ねたように、凛は俯いた。その姿は、数ヶ月前の自分のようで、少し胸が痛い。

 でも、可哀想だとは思わなかった。これがアイドル。食うか食われるかで戦っているんだ。今、僕らがたまたまてっぺんを取れているだけ。努力なくして維持は難しい。


「俺、4月からのドラマ決まってる」

「湊だって決まってるよ? 主演だよね?」


 凛に言ったものの自信はなかったようで「……主演でいいの?」と聞いてくる陽翔に頷く。


「俺だって、主演級の……」

「黒王子だろ?」

「な、なんで?」

「当て馬ご苦労さん! 僕、白王子だから」


 ニッコリ作り笑いをすると「うさんくせぇ」と凛に言われるが構わない。僕の役は、愛を信じない愛想笑いしかできないヒーローがヒロインとの日々で愛を知り自然と笑えるようになる……そう言う役どころでもあるわけだし。

 少女マンガ原作の『白黒王子』がドラマ化。それのヒーロー役に選ばれたと連絡があったのが昨日。当て馬役に凛だと聞いて僕は驚いたのだが、凛のほうは他のキャストは聞いていなかったようだ。


「……はぁ、被ってくんなよ」

「こっちのセリフ。想い人を追いかける役なんて滅多にないだろうからさ、楽しんでよ。僕は追いかけられる側だから」

「何それ……」

「原作読んでないの?」

「もう読んだのかよ!」

「今、6週目? 元々話題になってたから何回かクラスの子に借りて読んでたけど、制作決まった時点で全巻買った。役作りって大変だし、こっちは春にツアーもあるらしいから」

「はぁ? 聞いてない!」

「言わなくてもいいだろ? ライバルなんだから」


「行こうか?」と陽翔にいい、台車を押して教室から出る。台車の車輪が不安定なのかガタガタとなる中で、陽翔に「ありがとう」と伝えた。


「何が? 凛に勉強教えたこと?」

「まぁ、それもだけど……」

「ドラマの? それともグループの話?」

「僕をあげないって言ってくれたこと?」

「あれね。ついムキになって言っちゃったけど、俺と一緒でよかったんだよな?」

「当たり前だし、ヒナとジスペリがしたかったんだから」


 その言葉を待っていたと言わんばかりに、嬉しそうに笑う陽翔から急に恥ずかしくなり視線を外す。

 そんな僕を知ってか知らずか、陽翔は僕の名を呼び「一緒にクレープ食べよっ!」と屋台まで飛んでいった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

よかったよと思っていただけた読者様。

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