無能が働いたら国が滅びました。なんでそんな事も分からないの? サラリーメン増税編
「どういう事じゃ!!」
会議室にキッシー陛下の怒声が響きわたります。先日のアンケートにおける国王支持率が40%を切った事に怒り心頭の様です。
「コッヌー! 貴様、支持率はそのうち上がると言うたよな!?」
「そ、それは……その…………」
キッシー陛下に睨まれたコッヌー宰相が横目で私を睨みつけました。
(そんな目されても知らないわよ。キッシー陛下が優位になるように調査してこの結果なんだから)
コッヌー宰相から『国王支持率のアンケートを行え。なるべく支持率が高くなる方法でな』と指示を受けた私は、有権者に電話で確認するという支持率調査を行いました。
(若い世代は固定電話を持ってないし、知らない番号からの着信には出ないからね。それでもこの数字なのよ。少しは現実を見て!)
ちなみに、若い世代が多く回答しているSMSを使ったアンケート結果では、なんと支持率0.02%という驚異的な結果が出ていました。(なお、有効投票数は1万票程度)
「いかん、このままでは、歴代最悪の王と呼ばれてしまうぞい…………コッヌー、何か良い案はないか?」
「そ、そうですな……」
『もっと民意に寄り添って!』『減税を!』『行政費用の見直しを!』。そうすれば、支持率は回復するでしょうし、国内の景気も多少は良くなるでしょう。
今の私にそれを発言する権利はありません。コッヌー宰相がそう言ってくれることを祈るしか出来ない事が悔しいです。
ですが、コッヌー宰相が発言した内容は、私の気持ちとはかけ離れたものでした。
「……では、陛下。先日騒がれた『サラリーメン増税』について、『考えていない』とアピール致しましょう。民意が反映されたと感じれば、国民の支持率は上がるはずです!」
「む? じゃが、それでは防衛費に回す金が無くなるぞい?」
国王支持率の低下の一因に『サラリーメン増税』があげられるでしょう。これは中期答申にて、『サラリーマンは控除が多く、不平等である』と回答した事により、『サラリーマンに対する増税だ』と一部のマスコミが報道したことで、国民から反発を受けた物です。
もともと、アウトボイス制度と同様に、『これは増税ではない。控除を減らして税収を増やすだけだ』という理屈で、キッシー陛下が発言された『増税しない』という言葉とは矛盾しないと言っていたものですが、さすがにその理屈は通らず、サラリーマン『増税』と騒がれてしまったのです。
「大丈夫ですよ。支持率が上がったのちに、増ぜ……失礼、『控除の見直し』を行えばいいのですから。その際の対象は『サラリーマン』だけでなく、『全国民』です。全国民を対象におこなうのですから、『サラリーメン増税』ではありません」
「なるほどの! よし! それでゆくか!」
(待て待て待て!!!)
思わず素で突っ込みそうになってしまいました。そんな理屈で国民が納得するわけがありません。
それに、そもそも『サラリーメン増税』について騒がれたのは、2週間近く前の話です。今更、『サラリーメン増税は考えていない』と言ったところで、一体どれほどの人が信じてくれるでしょうか。『支持率が下がったから、適当な事を言ってるだけだ!』と、国民感情の火に油を注ぐだけだと思うのですが……。
ですが、残念ながらそんなことを言える雰囲気ではありません。キッシー陛下もコッヌー宰相も、本気で、国民がそれで納得すると思っているようです。
「そもそもアウトボイス制度を導入して、中小企業や個人事業主への控除の見直しは行ったのです。これで、サラリーマンだけそのままでは、不公平ではないですか。サラリーマンに対する控除の見直しも絶対に行うべきです」
「そうじゃのぉ。不公平は良くないからの」
アウトボイス制度も、民意を押し切って導入した制度だという事を、この人達は忘れているようです。まぁ、一部『消費税を着服している! ずるい! 不公平だ! アウトボイス制度は絶対に導入するべきだ!』等と言っている国民もいましたが…………。
「あの……それでしたら、我々の文通費などにも課税した方が良いのでは……」
若手の議員が恐る恐ると言った様子で口を開きました。文通費は、議員が非課税で月100万円支給されているお金の事です。どのように使うかは議員の自由となっています。
恐らく彼は、まだ国民に近い価値観を持っているのでしょう。ですが、その価値観は、ここでは異質だったようです。
「何を言っているんだ? なぜ国の為に活動するための費用に課税する必要がある?」
「全くだ。どうしたらそんなバカな事を思いつくのか……」
「まぁまぁ。彼はまだ若く『常識』という物を知らないのです。大目に見てあげましょう」
「え、あ、あの………………す、すみません」
部屋の大半の人間に非難の視線を向けらえた彼は、そのままうつむいてしまいました。
(ごめんなさい……)
今の私には、彼を助ける事は出来ません。その事が、本当に、悔しくて仕方ないです。
「ふむ。では、『わしはサラリーメン増税等考えていない』と発表しようかの」
「はい、陛下。それがよろしいかと」
こうして、キッシー陛下は、『サラリーメン増税等考えていない』と国民に向けて発表しました。
これにより支持率は回復………………するわけもなく、翌週、会議室に再びキッシー陛下の怒声が響き渡るのですが、それはまた別のお話し。