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一話
ラガーディア空港からダウンタウンまで一直線なんて典型的なお上りさんだ。しかも、デカいスーツケースをふうふう言ってひきずる小太りの東洋人のオバチャン――
そんな風に考えて、甘く見たのが間違いだった。
NYでタクシーを運転して三年、すっかり慣れっこになって、調子に乗っていたとも言える。
いや、むしろ飽き飽きしていた。
同じ話を繰り返すよっぱらい酔客に、不機嫌な仕事帰りのコールガール、無言でメーターを見つめ続ける東洋人に、ピリピリした暴力の匂いがする深夜の客――それらを見返す、ちょっとしたいたずら心、いや、日常への抵抗だった。そう、あえていうなら、革命であり、暴力だった。
「九十八ドル」
正規料金に十五ドルの上乗せ。
「空港から市街へ入るとね、特別料金がかかるんですよ」
嘘っぱちで、少し小遣いができたら、ラッキー。
しかし、その甘い目論見は、コテンパンにやっつけられた。