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2話 スキルチェック!浮彫りになる課題

 彼らはまず莉緒からスキルチェックを受けることになった。各個人の実力を判断するためだ。歌とダンスを1回ずつ。曲は自由で、1番だけ。1人ずつ見せてもらうことになった。

 

 まずはホァン・シェンチーから。彼のダンスは中国の伝統的な音楽に合わせた、舞のような踊りだった。当然途中途中でジャズダンスの動きを挟みながら、自分の武器をアピールしていく。メンバーの反応は実に様々だった。美しい踊りに息を呑む者、ダンサーとして厳しい目で見る者、ただ見ているだけの者と、三者三様だったが。

 

 そして歌はバラードを選択した。高音部分も、音程の変化が激しい部分も全く問題なく、一切ぶれずに丁寧に歌い上げる。そして全員が拍手を送った。

 

「綺麗で丁寧。繊細さと力強い部分をしっかりと分けられてるね。ただ力を抜いてやればいいってもんじゃないことをしっかりと理解している。魅せる部分もきちんと自分の見せ方を理解して、顔や手足の角度を微調整してたよね?そういう細かい配慮があったと思う。………ただ、表情が少し硬いかな。表情1つでダンスや歌の印象は驚くほど変わる。一瞬でも気を抜いたらダメ!」

 

 意外な高評価にシェンチーは驚きつつも、指摘されたことを反省し、深く頭を下げた。

 

 

 次はユン・スンチョル。世界最高峰の音楽大学で得た経験と長年の努力で培った技術、曲への深い理解が彼の持ち味だ。ダンスは曲にジャズを選択。動きはゆったりだが指先の1つ1つの角度まで計算され、ターンや細かいシェイクを使ったアイソレーションなど、基礎技術を見せつけるような形だった。少しだけバレエのステップも入れた、印象付けるのに最適なダンスを即興で披露した。

 

 歌はR&Bのジャンルを選択。リズムに乗りやすいが、音程がうねるように変わっていく難しい歌を見事に歌いこないしていた。早口の部分も問題なく、リズムもぶれなかった。

 

「安定感があるね。基礎技術もしっかりと身についているし、歌も問題はないと思う。ただし、その先が見たかったかな。今のパフォーマンスだと、ただミスをしないだけのつまらないものになっちゃってる。安定の先にある進化をこれから期待しているよ」

 

 スンチョルは悔しそうに歯噛みし、軽く頭を下げて元の場所へ戻った。

 

 

 次はジャニー・ハインズだった。レゲエという、アイドルにしては一風変わった分野が得意だ。かなり細かいビートで、ヒップホップと同等のリズム感と音楽的センスが要求される。

 

 彼はその中でも特にヒップホップに近い速さのものを選んだ。最初からテンポが速く、疾走感のある印象を与える。激しく転調し、リズムがかなり取りづらいが曲とずれることなく、力強く歌い上げる。特に早口で高度なラップの技術が要求される場面でも彼は良く回る口を使って自分の持ち味を見せつけた。

 

 ダンスはレゲエとヒップホップの動きを組み合わせたものを拾う。速いテンポの曲だったが、足を左右に動かすときでもぶれない軸の安定さがあった。特に彼らの目を引いたのは、高速ステップだった。一瞬たりとも止まることなく複雑なステップを踏みながら、雰囲気と合うように計算して腕を動かしていた。

 

「うん、ラッパーポジションとしては文句なしだね。速いテンポの部分って意外とごまかしがきくんだけど、君は1つ1つの動きやフレーズを無駄にしなかった。いくら早かろうとね。ただ、早い動きに注意しすぎて通常のところが少しおろそかになっていたね。腕を出し切るところを途中で引っ込めたり、足の左右を振り切れていなかったり。ステップ1つ1つを雑にしないこと。いいね?」

 

 彼はしっかりと頷いて、自分の足りなさを自覚した。

 

 

 次はヘルカ・オウジン。歌で世界的に有名になった彼だが、アーティストとしてアメリカでダンスも本格的に習っていた。

 

 歌はミュージカル調のバラード曲。女性かと見まごうほど綺麗で、美しすぎる歌声を披露した。オペラのような歌い方を用い、広がるような声の出し方を披露する。その場の空間と歌が調和していた。低音部分も何のその、一部の隙もない完璧な歌を披露した。込めた感情も、その表情から見てとれる。

 

 

 そしてダンスだが、ヒップホップを披露した。メンバーの中ではダンス歴は浅いものの、1つ1つの動きをこの上なく丁寧にこなしていた。少しゆったりとしたテンポだが、それは逆にごまかしが効かないということでもある。難しいことはせずに、基礎的な動きのみで構成されたダンスだった。

 

「歌はもう、さいっこう!完璧すぎて逆に怖い!で、ダンスなんだけど………もう少し練習が必要だね。ミスはないし、動きもまあ悪くない。ダンサーから見てもそこそこの部類ではあるんだけど、所詮普通どまり。もっともっと難しい動きに挑戦して出来ることを増やさないと。初見で対応できなくて遅れることになるよ」

 

 やはりダンスか、と自分の至らなさに悔しさをにじませる。全てが完璧でなくてはチームに迷惑をかけてしまうと思い、闘志を再燃させる。

 

 

 次はジョシュア・ホプキンスだ。ダンサーとして類まれなる実力と万能性を持つ彼だが、自己紹介の際に歌に触れていなかったことが皆は気になっていた。 

 

 まずはダンス。ヒップホップからジャズ、ストリート系にラテンダンスと目まぐるしくジャンルを変えながら大きく速い動きで自身の技術を見せつける。そしてなんと、バレエまで披露した。その後少しのアクロバットとしてバク宙とヘッドスピンを披露し、自分の出来ることを存分に見せつけた。

 

 そして肝心の歌。ゆったりとした曲調のR&Bを披露した。男性にしては少し高めのキーだったが、彼は柔らかく歌い上げた。聞くものの鼓膜を優しく包み込むような甘い歌声が印象的だ。

 

「ビューティフルでスウィーティー!ダンスは流石の一言だね。ジャンルを変える際も切れ目がなくて見やすいし、ちゃんと相手に分かりやすい動きで印象付けることも忘れてない。流石世界チャンピオンだね。文句はないよ。ただ、歌は低音部分の音域の狭さが気になるかな。高音は全然問題ないんだけど、低音が苦手でしょ?もう少しだけ喉の筋肉に力を入れて、はっきりと相手に聞かせないと」

 

 自分が悩み、練習していた場所をぴたりと的確に言い当てられ、思わず感嘆の声を出すジョシュア。しかし一瞬でも先に上手くならなければいけないため、気持ちをすぐに切り替えた。

 

 

 6人目はフェルナンド・サントス。サングラスにレインボーのオールバックと、かなりいかつい見た目だ。彼は歌、ダンスともにヒップホップ調の自作曲で臨むことにした。

 

 ノリやすいリズムに、かなり速いテンポから放たれる高速ラップ。活舌も良く、聞き取りやすい。なにより普通はMIXで表現するような緩急と音の高低差を、生歌でやってのけた。当然歌う部分もあるが、機械に頼らない素の歌は、とても綺麗な声だった。

 

 そして次はダンス。パワフルでエナジェリック、大きく体を動かし、どこか威圧するような振り付けだった。手足のキレが良く、細かいステップや腕の角度、動きの緩急も無駄がない。

 

「うんうん、いいね。君は大衆的だと思う。聞き手側にとって分かりやすい、聞き取りやすい発音で、言葉尻をはっきりと言うことで次のフレーズへの以降の時、息継ぎのロスをなくしてるね。MIXでやるところを生でやったのはびっくりしたよ!ダンスもやっぱり、他人が見てて楽しめる、誰が見ても分かりやすい振り付けで良かったと思う。ただ、ちょっと細かい細々とした動きが出来てない。シェイクや少しのアイソレーションとかね。あと、指の角度がバラバラかな。その角度にする意味を自分で理解して表現しないと。そこを直していけばもっといいものになるね」

 

 

 やはりごまかしは効かなかったか、と彼はうなだれるも、すぐに課題に取り組む決意を固めた。

 

 

 7人目はカミーユ・レイ。スターダムを突き進む若手ハリウッド俳優であり、アーティスト活動も軌道に乗っている、最もホットな人物だ。聞けば元々はアーティストを目指し、5才から歌とダンスにいそしんでいたらしい。

 

 歌はバラード。その歌声は柔らかく、高音の伸びがとても良い。ハイトーンボイスを楽に出し、低音になると一気に重厚感が増し、声の厚みが増す。自分の技術を惜しみなく出すため、彼はアレンジとしてデスボイスまで披露して見せた!

 

 ダンスはロックジャンルを披露。激しいダンスでも息が上がらず、軸もぶれない。1つ1つの動きが丁寧で、動きにムラがなかった。ぴたりと止まる場所との緩急が目を引き、その安定感は他の追従を許さなかった。

 

「君は万能型だな。歌はぶれないし、音域が滅茶苦茶広いからどんな歌でも問題なく歌えると思うよ。音程がコロコロ変わる部分でも的確に対処して、ずれもなかった。君は声の種類というか、バリエーションを増やせばもっと表現が広がると思う。声優って色んな声が出せるでしょ?ホント、そんな感じで。ダンスも特に問題なし。しいて言えば、止まるところの部分と激しく動く部分の雰囲気の差がもう少しあればなお良し!静と動の落差をもっともっと広げてみよう!」

 

 褒められたのもつかの間、ダメ出しをされたことで一気に気分が沈み、処刑場に赴くような表情に一変した。

 

 

 最後は上園 太一。莉緒の弟にして、ブレイクダンサーとして世界タイトルをいくつも取っており、2年後のパリオリンピックにも既に出場が決まっている身だ。

 

 ダンスは当然ながらストリートを披露。力強い足踏み、腕の振りに加えて激しく複雑な動きをすることで、自分がブレイキンだけではないということをアピールする。そしてついにサビに入ったところでブレイキンを披露した。ヘッドスピンから始まり、空中で3回転しながらのバク宙、着地してから逆立ちの状態で両足を上げ、片手だけで止まるダブルジョーダンなど、多彩な技を披露した。

 

 そして歌は意外にもポップ・ミュージックだった。事務所の先輩であるラブリー・キャノンの楽曲を歌い、楽しそうに笑顔で。予想外の選曲に莉緒も驚き、皆が盛り上がっていた。

 

 

「太一………そうだね、ダンスは当然文句なし。別に悪い所もなかったよね。アンタ歌上手くなったね?大会の最中も、合間を縫ってボイトレ受けてたんでしょ?それが功を奏したね。けど相変わらず高音の伸びが悪いのと、自分らしさがないところ。歌を自分のものにして、再解釈して初めて良いカバーは生まれるんだから」

 

 

 流石姉ちゃん!と太一は言うと、彼女の分析が的確な理由を声高に語り始める。

 

「我がお姉ちゃんはアメリカで育って、ソロアーティストとしてデビューしたのじゃよ………なんでここにいるかは俺も知らないけどね」

 

「エージェントと方向性の違いで揉めちゃってね、そのまま関係を解消したんだけど、そしたら社長がウチに来ないかって誘ってくれて。不安定なアメリカより、安定した基盤がある日本が良いって思ってね。まあ、故郷っていうのもあるし。ルーツの再確認だよ。………さて、今から皆はお勉強に行ってもらいます。アイドルのライブにね。これからアイドルになるんだから、ライブを見て学ぶことも重要。ライバルになるかもしれないんだから。………De regulis(デ レギュリス)ってグループは」

 

 その名前を聞いた途端、ジョシュアとカミーユ、太一は感嘆の声を上げる。最近知名度が急激に上昇している男性アイドルグループだからだ。

 

「知らない子もいると思うから、解説するね。De regulisは中華圏で爆発的な人気を誇る香港出身のソロアーティスト、チェン・ユンファが、隠れた才能をかき集めて結成したグループなの。彼らは特定の拠点を持たず、活動場所は世界中様々。今ちょうど日本でライブをするところだから、皆にもチケットを渡すことにしたの」

 

 

 彼らは5人グループで、様々な経歴を持つ異色のアイドルとして名をはせている。影に潜んでいたともいうべき才能を発掘し、固い絆を持ち込んでまとめ上げたユンファのリーダーとしての手腕を莉緒は高く評価している。

 

 

 だからこそ、勉強するべき相手として選んだのだ。会場の場所は、中野サンプラザ。そこで彼らが見たものは………想像を絶する、異次元のステージだった。

 

 

 

 

 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 歌や踊りについて、莉緒さんの指摘が的確なのでそれぞれの得手不得手がわかりやすかったです。 また、莉緒さんの言葉が「最初に丁寧に長所をほめて、改善点は簡潔に指摘する」という形なので話を聞く人…
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