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6 グラウコスと蜂蜜殺人事件




「え? イカロスも居るの??」


 ロウで作った羽で飛んで、太陽の熱で溶けて落下死したあのイカロスが?!


「いえ、今この国には居ません。でも、この迷宮を作ったダイダロスの子息ですよ。」


「え? そうだったっけ?」


 クレタ島で色々作ったダイタロス。奴隷と結婚して……ここで産んだのがイカロス? いや、役か。ってことはクレタ島周辺でお亡くなりに? いや、居ないだけで死んではないか。役だし……? 本当にややこしい!


「……じゃあ彼らが、権力者たちがなりたい神には心当たりありますか?」


「……さあ。神的な力を手に入れたいとかではありませんか?」


「うーん。星座になりたい訳じゃないんだ……。神的な力ってどんな?」


「すげえ魔法とかじゃないか? 火を付けるとか水を出すくらいはできるやつもいるけど、もっとすげえやつ。」


「そういう力を行使した人は、今までにいたんですか?」


「晴天からいきなり雨を降らせたり、人を動物に変えたり、地面を揺らして山を創設した神がいたと聞きます。」


 うーん微妙。ゲリラ豪雨と獣人と地殻変動と言い換えられるような……。でも宗教裁判とかに掛けられるのも嫌だし黙っておこう。




「お二人は魔法が使えるんですか?」


「おうよ。だから雇って貰えたってもんさ。俺の土の魔法とこいつの風の魔法で、迷宮のレンガ作りを手伝ったんだ。」


「じゃあ中にも入った事があるんですね?」


「いいえ。外周作りは手伝いましたが、中はダイダロスとイカロスとで作ったはずです。我々はひたすらレンガ作りでした。」


「そうですか……。あ、じゃあこの国の奥さんたちはどうやって火を熾してるんですか? 火魔法の人につけてもらうとか?」


「さすがに魔法使いは少ないからな。ランプとか炭とかを消さないでとっておくんだよ。貰ってこようか?」


「是非! あ、あの……怪しげな魔法のランプは止めてくださいね。」


「千夜一夜物語ですか? さすがに魔人を出せるような魔法は聞いたことがありませんよ。」


「え? アラジンも知ってるの?」


 ペルシャ帝国ってどこだったっけ?


「これは吟遊詩人が歌っていた物語です。誰かが詩人に話したんでしょうね。」


「じゃあ俺ちょっくら貰ってくるわ。」


「お願いします。」






 そういえばグラウコスがいない間に、キュドーンに話しておくことがある。


「あの、念のためキュドーンさんにはお話しておきます。色々再現したがるこの世界で、クレタ島のグラウコスという名の人に起こるかもしれないことです。」


「はい。」


「彼は、蜂蜜の壺に頭を突っ込まれて溺死させられるかもしれません。神話では蛇つかいが来て生き返らせますが、ここではそんなことできるか分かりません。でも防ぐとまたやられるかも……。だから死んだ振りとかで対処できないでしょうか?」


「それは……今がまさにその危機なのでは? ランプのオイルと蜂蜜は同じ部屋に貯蔵されています。」


「え!? じゃあキュドーンさん、すぐに行ってください!」


「しかし見張りが……」


「じゃあ私と……牛は、この出口すれすれの所で座ります。鏡からは横にいる二人と話しているように見えるでしょう。それにグラウコス殺人事件に、キュドーンさんが関与することもカモフラージュできるかもしれません。グラウコスさんにさっきのことを伝えて、早めに発見されるように小細工して、急いで戻って来て下さい。」


「分かりました!」


 私はゴウを起こして立ち上がらせ、出口すれすれでまた座らせる。隣に私も座ってキュドーンのことを見ると、ひとつ頷いて駆けていく。パーシパエがこっちを見ていることは確認した。取り越し苦労で済めばいいけど。




 諸説ありだけど、神話では王子であるグラウコスが蜂蜜の壺で溺れ死に、アポロンの息子であるアスクレピオスが蘇生させる。……再現が蘇生まで出来るとは限らないんだから、頑張って防がないと。


 こういう……ストーリーに逆らって行動するっていうのは、乙女ゲームとかWEB小説の世界に転生した場合にするんじゃないのかな??


 何もしないで居るのも暇だし、かといってゴウと話すわけにもいかないし。ゴウに寄りかかりながらギリシャっぽい歌を歌うか。ダイダロスの息子の歌しか思い浮かばないけど。




 ゴウと一緒にうとうとしていると、日が陰る頃ようやくキュドーンが戻って来た。


 やはり殺人未遂事件は起こってしまったらしい。ただ事前にグラウコスに事情は話せたし、捜索隊が出される前に見つかる小細工も成功した。家まで行って彼の奥さんにも事情を説明して、死んだ振りがバレない様に付き添いをしてもらえるよう話したらしい。すごい行動力だ。


 そろそろ夕飯時だし、キュドーンは帰りがてら念のため、グラウコスを探す振りをするらしい。忘れずにキュドーンが持ってきてくれたランプを受け取って、また明日となった。鏡にはもうパーシパエはいなかった。オイルがこぼれないように固体化して部屋に急ぐ。




 ゴウに中庭の布団を運んでもらって、急いで夕飯の支度だ。


 謎の肉。毒など人体に有害なものを除去して魔法で焼いちゃう。トマトソースを作る程トマトがない。トマトの種からトマトを増やしてみよう。


 ゴウと一緒に食べようと思ったらカトラリーが一組しか無かった。カットしてパンに挟んで食べる。米が欲しい……。インディカ米は嫌だけど。私はモチモチで柔らかめの炊き具合の米が好きだった。明日のパスタに期待しよう。




 お風呂に入って出る。ここまでは昨日と同じ。ワインタイムにあのランプを観察する。魔法の痕跡を調べてみるけど、二人とも特に何も感じなかったので、オイルを液化してそのまま竈に置いておく。


 寝室に行って眠りに落ちる寸前までは昨日と同じ。昨日自分にだけ掛けた回復魔法をゴウにも掛けた。……失敗した。私が眠らせてもらえなくなった。明け方ようやく終わりを見せた時、今度こそ自分にだけ再度回復を掛けた。




 朝。私も遅めに起きた。ゴウはいつもの時間まで起きなかった。明らかに私の作戦ミスだった。今日はもう、お預けにしよう。




 昼食のパスタは普通だった。ゴウの分のカトラリーももらわないと。あとバジルとか無いかな。オリーブオイルは沢山ある。……あぁ、そうだ。食い気を出している場合じゃなかった。事件発生中だ。


 あそこまでしてギリシャ神話を再現して、一体何のメリットがあるんだろう。この世界の鳥神様については未知すぎるけど、殺人未遂犯を神にするかな……。


 パーシパエに、神話をなぞれば神籍に入れると唆したのは誰だったんだろう。前世の人? こっちの古代ギリシャの人? この国の人? そのやり方は本当にあってるんだろうか……。


 パーシパエみたいな人は他にも沢山、しかも権力者の中にいるらしい。私はこれ以上、理不尽な目に合わされたくない。本当に私とゴウとの間に、子供が生まれたらどうなるんだろう……。










+ + + + + + + +



グラウコス……夭折し蘇生したクレタ王の子




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