表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/20

3 ミノタウロスと迷宮




 日が陰ってきた頃、ゴウが言った。


「ご飯を食べよう。」


「……そうね。」




 私は立ち上がり、ゴウと一緒にダイニングキッチンに向かった。そこには保存食が色々置いてあった。


「ゴウは何を食べるの?」


「ピアと同じでいい。」


「ハムも食べる?」


「食べる。」


 共食い……にはならないか。多分ハムはブタだと思う。取り敢えずハムとチーズでサンドイッチを二人分作る。飲み物はワインらしい。渋くないといいな。




 テーブルに運び、さて困った。ゴウはどうやって食べるかな。取り敢えずサンドイッチを口元に持っていってやる。こぼさず上手に咀嚼して、3口で食べ終わった。


 今度は自分の分のワインをコップに注ぎ置き、残りを瓶ごとゴウの口に運ぶ。上手に飲んだ。ビールを飲む牛がいるんだから、ワインも平気だろう。


 ……瓶。こんな整った瓶って古代にある? ガラスはクレタにはあった? ワインも透き通った、そんなに濃くない白ワイン。……やっぱりここは古代のギリシャじゃない? 悲しみの輪廻の世界ってどういうことだろう。


 パーシパエは転生したって言ってた。魔法もあるし、牛もしゃべるし、ここはよくある異世界ってこと? じゃあ私は、対空時間じゃなくて異世界転移なの? ここが魔法の世界なら、本当にミノタウロスも産めちゃう??




「ピア、もっと。」


「あ、ごめんなさい。……ゴウは酔っぱらわないの?」


「平気。」


「飲めるお水は無いのかな?」


「庭に井戸とは別に湧き水がある。」


 ピロリ菌とかボツリヌス菌とかが若干気になる所だ。


「この世界には魔法があるんだよね?」


「ある。」


「ゴウは使えるの?」


「使える。」


「……私も使えるかな?」


「やってみれば?」




 使えませんでした。瓶に水を汲んできて、ゴウに浄化してもらう。……浄化の概念が伝わったかどうかは怪しい。魔法はいくらでも使えると言うので、食器も浄化してもらった。




「魔法が使えることは秘密じゃないの?」


「……秘密。」


「分かった。じゃあ外の人にはバレないようにしよう。ゴウが喋れることは?」


「……秘密。」


「分かった。秘密を見せてくれてありがとう。」


「嫁だからいい。」


「そう……。お風呂に入りましょうか。洗ってあげる。」




 石造りのバスルームには湯船もあった。お湯の蛇口をひねるとお湯が出た。どういうシステムだろう。瓶といい、実は技術は進んでるのかな。お湯を溜めながらゴウに温めのお湯を掛ける。


「熱くない?」


「平気。」


 石鹸じゃなくボディソープがあった。これを固めたのが石鹸……なわけないか。シャンプーもコンディショナーもある。……そういえば字が読めた。よくある翻訳チートだろうか。私にもそれなりの嗜みはある。


「石鹸しみない?」


「平気。」


 顔も洗う。いいというので手桶でお湯をぶっかけて流す。体も流す。床に横たわってもらってお腹側も流す。


「先に出てる?」


「ここにいる。」


 私は気にせず自分を洗って湯船に入る。


「ゴウは……さすがに入れないか。」


「入れる。」


 そう言うとゴウは立ち上がり、そして立ち上がった。ニ本足で立って、人になった。


「…………」


「入っていい?」


「どうぞ。」


 ゴウは後ろ側に座り、私のお腹に手を回してくる。


「……人になれることも秘密?」


「秘密。」


「そっか……」


 驚いた。びっくりした。牛として連れて来られたけど、実は人間が変身、していた? そしてそれを誰も知らない……。私以外は?




「どっちが本当の姿なの?」


「どっちも。」


「そのことを知ってる人は、私以外にもいる?」


「……賢者。」


「その人は……人?」


「半分、人。」


「ゴウみたいに変身するってこと?」


「違う。体は人。足が馬。」


「ケンタウルスの賢者……射手座のケイローン?」


「ケイローン。そう。」


「ここは本当にギリシャじゃないの?」


「ギリシャから来てギリシャを作るという人が沢山いる。」


「ギリシャからの転生者と転移者が多いのね……」




 じゃあなぜ私はここに転移したのだろう。星座が好きでよく星を見たけど、ギリシャ自体に詳しい訳じゃない。それに……。


「あ、牡牛座。」


 いや、牡牛座の牛はゼウスで、ゴウではない。それにここはギリシャ神話の世界じゃないってば。知ってる固有名詞が多すぎて混乱する。




「ゴウのお父さんとお母さんは?」


「いない……。賢者に育てられた。」


「そっか……」


 私はこだわりが強い女だ。でも、もう何にもこだわらないと決めたはずだった。もう神話にこだわるのは止めよう。


「もう出ようか。」




 ゴウが牛じゃないとなると色々困る。いや、牛じゃなくて良かったこともあるけど。……まあ今更か。潔く湯船から上がると、拭く布を取る前にゴウに後ろから抱き締められる。


 ウソ、早すぎ……と思ったら魔法で乾かしてくれただけだった。パーシパエの冷風と違って、ちゃんと乾いた。私は寝間着を着る。




 扉を開けると中庭だ。熱くも寒くもない。空には星が輝いていた。見える星は日本と……あの夜と同じだった。


 異世界のはずなのに、空は地球と同じ。ギリシャも緯度は日本と同じくらい。本当にここは異世界なのか。もしかして、過去に……。いや、牛が人になったし……。




 色々考えながら星を見続けていると、ゴウに手を引かれた。


「もう寝よう。嫁と夫はすることがある。」


 やっぱり展開が早い……。無理やりじゃないだけましか。私もゴウのことは嫌いじゃない。会ったばっかりだし、人じゃないのに不思議だけど。


「……ゴウはした事があるの?」


「ないけど兄弟に習った。」


「兄弟がいるの?」


「賢者は沢山子供を拾って、弟子として育ててた。その仲間。」


「いつか賢者様とゴウの兄弟たちと会えたらいいな。」


「賢者が死んでみんなバラバラ。賢者を継いだカイロンも大陸に行った。」


「大陸があるの? ここは島?」


「ここはクレタ島。小さい島は名前がない。西の島たち。」


「たち? 群島なのかな。小さい島が沢山?」


「そう。」




 私たちはダイニングに行って、コップでワインを飲みながら少し話すことにした。


「ここの世界は何て言うの?」


「……鳥神様の世界。」


「悲しみの輪廻の世界じゃなくて?」


「それは古いギリシャから来た人が言ってるだけのこと。」


「……何かそういう宗教があったのかな。世界は西の島たちと大陸だけ?」


「東の島。……黒い髪の人たちが住む。……ピアも行くの?」


「え? ……うーん、わからない。ここのことは全然わからないの。」


「ギリシャから来た?」


「いいえ、日本よ。」


「ニホン。……西の島、古いギリシャ人が多い。東の島、ニホン人多い。」


「なるほど。異世界だけど、地球出身者が多いんだ。」


「チキュウとは空で繋がる。賢者から聞いた。」


「だから星座も同じ? パラレルワールドなのかな。鳥神様だから? 天空神なの?」


「太陽神と月の女神の夫婦神。」


「地球と全く同じな、いえ日本と同じなわけじゃないか。じゃあアポロンとアルテミス? でもあれは兄妹で……」


「ピア、もう寝よう。」


「あ、そうね。ごめんなさい。寝室に行きましょう。」


 そうして悪あがきの時間稼ぎは甲斐もなく時間切れ。二人で寝室に向かった。




 寝室の大きなベッドの上に二人で座り、向かい合う。


「兄弟にはなんて習ったの?」


「舐める。捏ねて柔らかくする。痛まなくなるまで。」


 うん……。間違ってはいない様だけど不安だ。


「場所も習った?」


 どうやら実演で教えてくれるようだ。寝間着を脱がされキスされる。


「ここと……ここと……ここ…………。痛まなくなるまで。」


「うん。」


 間違ってはいないようだ。ゴウはもうその気だし……。うし並みか……。




 清水の舞台より高い所から飛び降りたのだ。何でもできるはず。私はいよいよ観念して、ゴウに身を委ねた。







+ + + + + + + +



ミノタウロス……牛頭人身の怪物




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ