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  作者: 炎華
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6.団地の部屋

最初に暮らした六畳一間のアパートの記憶は、猫にはない。

あるのは、次に住んだ郊外の団地の記憶だ。


そこは駅のすぐ近くだった。

同じ造りの五階建ての建物が何棟もあり、

一つの棟につき、階段は二カ所。

合計20の部屋があった。


猫親子の部屋は、南側から二番目の棟の五階だった。

一番南側の棟は、幸い西側にずれていたので、

目の前がすぐにコンクリートの建物、というわけではなかった。

だが、やはり右側半分は視界が遮られていた。

あの棟からはどんな開けた景色が見えるのだろう。

子供の猫はいつもそんなことを考えていた。


    いつか見てみたいけど・・

その『いつか』は絶対に来ることはないだろう。

猫の両親は、近所に知り合いとか、

友達というものをつくろうとはしなかった。


団地の部屋の造りはどこも同じだった。

南側に六畳の畳の部屋が、その北側に同じ位広いリビングがあり、

一番北側にキッチンがあった。

現代のマンションなどは、一番明るいところにキッチンがあるが、

猫が子供の頃は、大体北側にキッチンがあった様に思う。


キッチンの大人の目の位置には、横長の小窓があった。

畳の部屋から直接玄関に行くことはできず、

必ずリビングを通っていかなければならなかった。

玄関の脇、キッチンの横に風呂があったが、

これ以降、十年以上猫の家に風呂があることはなかった。


猫の家の畳の部屋には、緑色の絨毯が敷かれていた。

その部屋から細長いベランダに出ることが出来た。

五階の部屋の日の光は強烈で、

記憶の緑色の絨毯は、かなり色が褪せていた。


ベランダから見える景色は、

三階から見ていた都会のパノラマとは全く違っていた。

ずっと遠くまで、畑が広がっており、

その畑の向こう側を、ベージュの電車が走っていった。

ベージュの電車は、ぐるっと畑の縁をまわり、

隣り、西側の棟の横を通って北側の駅に行く。


もうすぐ春だというのに、まだ冬の寒さが残っていた頃、

母は猫に言った。

「お母さん、お仕事に行くからね。

猫はその間は叔母ちゃんの所へ行っててくれる?」

緑色の絨毯とお日様が当たって黄色く見えた壁に、

窓の影が弱々しく映っていた。



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