4.猫が生まれたわけ
猫が生まれたとき、両親はあまり裕福ではなかった。
どちらかというと、貧乏だった。
六畳一間に小さな台所のついたアパートで親子三人で暮らしていた。
猫の父は、六人兄姉の四番目だったが、
母親のそれを受け継いだか、体が弱かったこともあり、
両親にとても大切にされ、可愛がられていた。
何不自由なく、一人、甘やかされて育った。
その頃は、本家ということもあり、父の家は裕福だった。
父が子供の頃、父親の父、つまり猫の祖父が不慮の事故で亡くなってから、
家計は傾き始めた。
母親は働くことができず、上の二人の姉はとっくに嫁いでいたので、
父のすぐ上の、年の離れた兄が働き、家族を養った。
猫の父は、何もしなくてもよかった。
働いても、兄がいるので家のために必死に働く必要はなく、
自分の好きな様に働けば良かった。
家には母親がいて、全て面倒をみてくれるため、何もしなくてよかった。
そして、猫の母と結婚してもそれは継続された。
ただ、兄に代わる立場の人物がいないため、好きな様に働いたのでは、
十分な生活費は得られなかったのだが。
父は、家に帰って来て、お膳の前に座ったら、すぐにお酒とつまみが出てきて、
野球の巨人戦が見られれば、それでよかった。
しかし、巨人が負けると、ひどく機嫌が悪かった。
「待ってがきかないのよ。」
母は猫によくそう言っていた。
自分の希望がすぐに叶えられないと、ひどく怒るのだった。
猫の母は、父の全てに不満があった。
十分な生活費も稼いでこないのに、母には家にいろと言う。
母は、外で働きたいと常に希望していた。
だが、父の機嫌が悪くなるので、それができなかった。
そして、女中の様に父の世話だけしなくてはいけないのが、ひどく不満だった。
多少手を抜いてもよさそうだが、父はかなり几帳面で、
自分では動かず、母に口うるさく言って、全てやらせていた。
とうとう我慢ができなくなって、母は実家へ帰ってしまった。
だが、母の母と父に説得されて、しぶしぶ母は帰ってきた。
父は、さすがにこのままではまずいと思った。
しかし、自分の行動を改めようなどという考えはない。
「そうだ。子供ができれば、出て行くなんてことはするまい。」
そして、生まれたのが猫だった。