9.プリミエーレ
前半はレベリオ視点で、後半はプリミエーレ視点です。
一人称と三人称で見分けてください。よろしくお願いします。
翌朝、ロキが手早く屋敷の掃除と庭の手入れを終えて、屋敷の中のゲダの部屋へと赴いた。
「お前は……何の用だ?」
ゲダは僕を見るなり顔を顰める。
「獣人種の首輪を外してもらおうと思ってきました」
『ちょ、ちょっと待て! 直球過ぎだ!』
『そうかもね。でもその結果が、3週間何も変化が無かったでしょ?』
『だけどよ、もっと建前とか言ったらどうなんだ?』
「はぁ!? 何でそんな得がないことをしないといけないんだよ! それに、俺の事を鞭で叩いた奴の言うことなんて聞くと思うか?」
『ほらな? やっぱり言った通りだったろ?』
「……僕がもう我慢の限界だからです。獣人種全員の首輪を取って上げてください……お願いします」
僕は深々と頭を下げて懇願する。
「いくらお前が願おうとも、なんで俺がお前の頼みを聞き入れないといけないんだ?」
『無駄だトール。一旦頭を冷やせ』
『……そうだね。焦り過ぎてた。ごめん』
僕は頭を下げて元の業務に戻ろうとする。
だが、ゲダの言葉で僕は足を止めた。
「ああそうだ、お前のお気に入りの11番が処分になった」
「え? ……は?」
「屋敷の中に入って行くのを使用人の一人が見ていて、それをポブツヌン様に報告したら逆鱗に触れてな、新たに現れた魔物の討伐の際に囮として使われることになった」
「今度は勇者に頼まなかったんですか?」
「一応要請はしたらしいが、今回は前回の魔物より格段に弱いから、自分たちでも討伐できると踏んで、明日の朝に決行するらしい」
「……」
「でも良かったな? これでお前のお気に入りのペットの首輪は、屋敷を出るときに外されることになったぞ」
「……アンタらには人の心が無いのか?」
「もちろんあるさ! 貴重な珍しい獣が居なくなるなんて凄く残念だ……新しいのを仕入れて貰わないとな? そう思うだろ?」
『……ダメだな。獣人種のことを、同じ人として見てない』
『でも、願ってもないチャンスかもしれない。そのときに逃げ出せれば……』
『ああ。本当なら全員救ってやりたいけど、そうも言ってられなさそうだな』
『うん。必ず戻って来て、ここにいる全員を助けよう』
今日の業務を全てこなし、夜になったがプリミエーレは僕の部屋に来なかった。
門の近くにも居なかったので、多分何処かに捕まっているのだろう。本当なら話をしておきたかったが仕方がない。
僕以外は誰もいない部屋で、いつもより早く眠りについた。
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屋敷の中に入るのが見つかった私は、当然のように罰を受けていた。
幾度も振り下ろされる鞭、痛みで何度も意識を失っては、そのたびに水を掛けられて無理やり起こされる。
『……叩かれるのは痛いでしょ? 苦しいでしょ? 辛いでしょ?』
『……うん。でもあの人が叩かれなくて良かった』
『……そうね。もう裏切ることなんてできないものね』
『うん。あの人の為なら、私はなんだって耐えられるし、頑張れる』
そして、私に処分という言葉が告げられた。もちろん怖いと思った。でも私を認めてくれたあの人の負担が無くなるなら、それも良いかなと思った。
『……本当に良いの?』
『……うん。本当はずっと傍に居たいけど、あの人の負担になるくらいなら、傍に居られなくても良いの』
『……あの人と引き離そうとする人種が憎くはない?』
『あの人も人種だから。……あの人のお陰で、人種を憎まずにいられるの』
『……そう』
時間が来たのだろう。私は口枷を嵌められ、手を後ろで縛られて屋敷の外に連れ出された。
あの人が頑張って外してくれようとしてた首輪が、覆面の男の手によって外された。
『……嬉しい?』
『……嬉しくない。私はあの人に首輪を外してもらいたかった』
『そうね。そういう約束だったものね』
繋がれた鎖を引っ張られて、願っていた門の外に出ることが出来た。
『久しぶりに、屋敷の外に出た感想は?』
『……あの人と一緒に歩きたかった。歩き疲れたら木陰に入って、あの人の膝の上で頭を撫でられながらお昼寝してみたかった』
『でも、それももう叶わない。人種があなたを処分するから』
中隊くらいの人数の、鎧を着た兵士に囲まれながら歩く。
乱暴な兵士たちは、少しでも気に入らないことがあると、私を剣が差してあるままの鞘で殴った。
少し歩いた頃に、聞き慣れた私の心を落ち着かせる声が聞こえた。
でも、その声は聞いたことがないほどの怒りに満ちた怖い声だった。
『……あの人があなたの傷だらけの身体を見て怒ってるわよ?』
『うん。人の為に必死になれる優しくて強い人だから』
『……本当に優しい人ね』
『うん。あの人だけは、力のない私でも守りたいって思うの』
『じゃあ……今みたいに行動してくれるのは嬉しいって思うの?』
『それは別! 全然嬉しくない! 危ないことなんてして欲しくない!』
『……嘘ね』
『確かに少しは思ったかもしれないけど、私の為に危険なことをしないで欲しい!』
『……でも、あなたの為にあの人は動いているのよ?』
『……うん。凄く感謝してる』
あの人は丸腰で鎧の兵士と戦った。あの人は強かった……武器なしの人種にしては。
『……本当に強い人ね。あなたを助けたい一心で、無謀にも戦いを挑むなんて』
『そういう人だから来て欲しくなかった。平然と自分が代わりに傷つこうとするから』
鎧の兵士を素手で五人倒した後に、背中を後ろから剣で斬り付けられた。あの人は膝を折りながらも、私に逃げろと叫んだ。
『……当然ね。装備もなしでこの人数を相手にしたら、普通はそうなるわ』
『ダメ! やめて! もういいから逃げて!』
私も逃げてと叫んだが、口枷で言葉にならない叫びに変わる。
そして、あの人の胸に剣が突き立てられた。あの人は力が抜けた様に地面に倒れた。
私は、鎖をしっかりと握られていて近寄ることも、口枷の所為で呼びかけることも出来ない。
私の中に黒い感情が沸き上がった。
『……これでも人種は憎くない?』
『……うるさい! さっきから話し掛けてくるあなたは誰なの!』
『私? 私はあなた』
『わ、私?』
『憎いでしょう? 分かるわよ? だって私もあなただもの。もう一度聞くわ。人種が憎い?』
『……許せない……』
『じゃあ人種を滅ぼしましょう。私の大事なあの人の為にもね? あなたならできる筈だから』
『……あの人の……為?』
『そう。あの人の為にね』
『あの人の……為なら……頑張れる』
私の中に沸き上がった黒い感情が、一気に膨らんで溢れ出た。
『さあ、あの人の為に全て壊しましょう……そうでしょう? ……一番』
プリミエーレの名前の由来は【premiere】です。何となく気付いていた人はいたんじゃないでしょうか。
フランス語です。知ってましたか?(作者はググった)
次回はエイラ視点と、レベリオ視点です。よろしくお願いします。