8.怖いもの
~とある勇者とその御付きの会話~
「勇者に……アイラに魔物の討伐をやらせてごめんね」
「そのセリフは、違和感を感じねぇか? 勇者が魔物を討伐するのは当然の事だろ?」
「いや。それは本来なら僕がやるべきことだから」
「別に気にしてねぇよ。誰かが困ってたら、それを助けるのが勇者だからな」
「……そういう君の真っ直ぐなところが好きだよ」
御付きに見つめられて勇者は目を逸らす。
「ば、馬鹿なこと言ってんじゃねぇ! そ、それより眷属はあそこに居たのか?」
「……多分居ると思う。今の僕にも感じ取れるくらいの子が居るよ」
勇者は内心の驚きを隠しきれずに、大きく目を見開いた。
「おい! 何でアタシに言わなかったんだよ!」
「確証がなかったから」
「いや。教えろよ! そいつがもし自我を失ってたらどうすんだよ!」
「君に無理はさせられない。これは僕の責任だから」
「今更そんなこと言うのか? ……で? 何番くらいだった?」
勇者に問われて、その時の感覚を思い出すように御付きは考える。
「……五番以内かな……いや、もしかしたら一番かも……」
「なおさら言えよ! しかも一番なんて……今はアタシしか止められないだろ!」
「ご、ごめん」
御付きは勇者に対して、本当に申し訳なさそうに謝罪する。
「一番か……自我を失ってる可能性は?」
「絶対ではないけど無いと思う。あの子が暴れてたらあの屋敷どころか、周りの領地まで焦土になってるからね」
「それもそうだな。すぐにどうにかなるわけじゃないだろうし、後でもう一回あの屋敷に行けばいいか」
「取り敢えず明確な脅威になっている魔物を、勇者様に倒して貰いたいなぁ」
「言われなくても分かってるよ。よし! 気合い入れてこうぜ!」
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突然訪れた嵐のような勇者とその御付きの二人組が、この屋敷に訪れてから二週間が経った。
僕は未だにプリミエーレの首輪を外す方法を、見つけられていなかった。
『やっぱり直接聞いてみるしかないのかな?』
『あの豚にか? やめとけ』
『だよね……もう一度勇者の人来てくれないかな』
ロキはあの勇者たちが来てから、僕と役割を代わってくれるようになっていた。
どうやらあの強烈な勇者に触発されたかららしい。
『それにしても、あの豚はいつまで怒ってんだ?』
『分からないよ。自分の所為なのにね』
ポブツヌンは二人が屋敷に訪れてから、ずっとイライラしている状態にあった。
どうして勇者が怒って帰ったかを考え、答えが出ずにイライラする……それのをずっと繰り返していた。
『それに付け加えて、新たに魔物が出たらしいからね、多分それも怒ってる原因だと思うよ』
『早くまた勇者を呼んでくれれば、アイツの首輪を外してここから逃げられるかもしれないのにな』
『そうだね。それまではなるべく良い顔をしておこうか』
屋敷の中の掃除を終えて、庭の手入れのために屋敷の外に出る。
門の近くから手入れを行おうと、門に近づくと聞き慣れた怒鳴り声が聞こえた。
「俺は今虫の居所が悪いんだ! 汚らわしい獣が俺の前に現れるな!」
どうやらプリミエーレとクロードが、理不尽にも絡まれていたらしい。
僕は二人をかばう為にも割って入った。
「ポブツヌン様? どうなさいました?」
「今俺はこいつ等に話しているんだ! 邪魔をするな!」
「汚らわしいのなら、話す価値が無いのでは?」
「ええい、うるさい! 俺に文句を言うつもりか!」
「いえいえ、とんでもない! お上品なポブツヌン様には獣人種の近くよりも、あちらの庭園の方がお似合いですよ?」
「そ、そうか? 分かった。あっちで考え事をするとしよう」
「はい。後でお茶をお持ちしますので、くつろいでお待ちください」
「そうか。よろしく頼むぞ!」
「はい。お任せください」
『……大分おだてるのが巧くなったな』
『ああいう馬鹿は乗せやすいよ』
『……お前の方が腹黒い魔王が似合うんじゃないか?』
『魔王になりたいのは君でしょ?』
「レベリオ様。ありがとうございます。私達は喋れませんので助かりました」
「ごめんね。獣人種を悪く言って」
「私達の為に言ってくれたことなので、全然気にしてないです。ですよね?」
プリミエーレはクロードにそう投げかけた。
「ついに正体を現したな人種め! お前にはプリミエーレは似合わない! だから俺が貰う!」
「そっかー。良かったねー」
「っ! 馬鹿にすんなよ! プリミエーレはお前より俺の方が良いって、いつも言ってるんだからな!」
「そんなことは言ってませんよ? そうですね……クロードは、弟って感じですかね」
「っ! お前なんかにプリミエーレは渡さないからな! 絶対だからな!」
プリミエーレに弟と言われたクロードは、捨て台詞を残してどこかに行ってしまった。
警備の場所を離れても大丈夫なのだろうか?
「あまり無茶なことはしないでくださいね?」
「大丈夫だよ。絶対にその首輪を外す方法を見つけるから」
「……それが私を不安にさせているんですよ?」
「ちょっとは危険を冒さないと、多分その首輪は外せないよ?」
「……分かりました。少しくらいは我慢します」
「じゃあもう行くね? また夜にね」
「はい。無理せず頑張ってください」
僕はプリミエーレと別れた後、庭の手入れを手早く済ませて(ロキが)、ポブツヌンのところに向かった。
「ポブツヌン様。お茶をお持ちしました」
「ああ、そこに置いておいてくれ」
「はい。お茶菓子も置いておきますね」
「気が利くではないか」
今はどうやら大分機嫌が良いみたいだ。
『今ならそれとなく聞けるんじゃないか?』
『うん。僕もそう思う』
「……ポブツヌン様? 少し聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「ん? なんだ?」
「獣人種の首輪は、どうゆう仕組みなのでしょうか?」
「あれは、魔法の首輪だ」
「……それだけですか?」
「ああ」
『『……そんなの知っとるわ!』』
「は、外し方とかってないんでしょうか?」
「俺は知らんな。ゲダなら知ってるんじゃないか?」
「ゲダ? どなたのことでしょう?」
「覆面の調教師の男のことだ。獣人種についてはアイツに任せているからな」
『なるほどな。今度はそいつから聞き出さないとな』
『聞き出せるかなぁ。前に鞭で叩いちゃってるからなぁ』
『でも、もうソイツ以外は、今のところ当てがないだろ?』
『そうだね。何とか取り入って外し方を聞き出そう!』
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夜も遅い時間になり、プリミエーレが一人で僕の部屋にやってきた。
「あれ? スカードは?」
「今日は行かないって言ってました」
プリミエーレは僕の部屋に入るなり、ベッドの上でくつろぐ僕の隣で横になった。
「……プリミエーレはどうして奴隷になったの?」
いきなりそんなことを聞かれたプリミエーレは、驚いた顔をしている。
『聞かれたくない事かもしれないぞ?』
『……考えなしだった』
「ご、ごめん! 聞かれたくないことだったよね!」
「大丈夫ですよ。むしろ私のことを知って欲しいです。ただ……分からないんです」
「分からない?」
「はい。気づいたら奴隷になってて、売買されて色々なところを巡りました。でも私は獣人でしかもこの目なので、気味が悪い、異常だって言われて一杯叩かれました」
「……」
「私が謝ると、叩くのを止めてくれる人もいました。それの所為か、今でも叩かれるのは怖いです……」
『そんな理由で、普通は暴力なんてしないよね』
『ああ。適当に理由を付けて、ストレスのはけ口として、コイツを使ったんだろうな』
『獣人種だから、気味が悪いからって理由をつけて自分を正当化する……最低だね』
『そうだな』
「でも、唯一レベリオ様が認めてくれました。変じゃない、綺麗だって言ってくれました。でも、そんなレベリオ様を…… 我が身かわいさに裏切ったんです」
「前にも言ったけど、そんな事思ってないよ」
「ありがとうございます。……そして気付いたんです、なによりも辛いのは……痛いのは、認めてくれた人を裏切ること……失うことだって」
「……」
「だから、あんまり危ないことは、しないで下さい。お願いです」
「……分かった」
口ではそう言ったが、こんな子をこんな禄でもない場所に、縛り付けられているのが許せなかった。
僕は危険を冒してでも、一刻も早くこんな場所から連れ出すことを心に誓った。
モチベーション高いっす。めっちゃ手が進みやすいっす。
明日も多分投稿します。(予定)よろしくお願いします。