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7.バブみ

 歓待の予定場所は大広間と事前に聞かされていたので、二人を大広間へと案内する。


「今回の魔物はどんな型だった?」

「龍がベースだったな。地味に強くて、前足の一撃を貰っちまったよ」

「ごめんね? 地味に強くて」

「ったく、ホントだよ。なんでてめぇの尻拭いを、アタシがしないといけなんだよ」

「龍型か……あの子だったのかな……」

「魔王が空席な位で、暴走するような奴なら、元々強い力は持ってないだろ。それにアタシが今までに、見たこと無い奴だったぞ」

「エイラは優しいね……。やっぱり僕のことを……」

「黙れ。はっ倒すぞ」

「お、押し倒すだって!? 僕はここでも構わないけど……エイラは見せつけたいんだね」

「よし分かった。そんなに倒されたいなら、お前も討伐してやるよ!」


 仲睦まじい? 二人の会話を背に受けながら先導する。

 後ろの二人の関係が、凄く気になるところではあるが、使用人としての責務を全うし、大広間へと二人をお連れした。

 大広間の中では既に、この屋敷の主のポブツヌンが待っていた。


「ベルティオン様! 此度は私の領地の魔物を討伐していただき、誠にありがとうございます! ささやかではありますが、歓待させていただきたく、宴の席をご用意いたしました」


 色鮮やかな飾りつけが施された内装に、普段は外に出していない調度品、それに明らかに豪勢な多すぎる食事。

 誰がどう見ても国賓級の人を、歓待する様な規模の宴だった。


「ささやかねぇ……要らない。帰っていいか?」

「この程度でベルティオン様に喜んでいただけるとは、露程も思っておりません! もちろんこの宴以外にも、贈答品を用意しております」

「だから要らねぇって」

「私の顔を立てるつもりで何卒、私共の持て成しを受けて頂けませんか」

「……しつこいな! 要らないって言って……」

「エイラ。ここは歓待を受けてあげたら?」


 セランの一言にポブツヌンは顔をしかめた。


「誰だね君は?」

「僕? 僕はエイラの付き人だよ?」

「付き人だと? たかが付き人風情が、ベルティオン様のことを名前で呼ぶなど失礼であろう! 此奴を取り押さえろ!」


 セランは大広間の中で警備していた兵士に、いとも簡単に取り押さえられて、地面に顔を押し付けられた。


「ベルティオン様。此奴をいかがしましょう?」

「……手を放せ」

「ですが! 此奴はベルティオン様に無礼を働いた悪人です! なので罰を与えるのが道理かと!」

「……聞こえなかったのか? セランを解放しろ」


 先ほどの客間で感じたものよりも、更に何十倍も濃密な殺気が、この場に居る僕を含めた全ての人間の身体の自由を奪う。

 何故かは分からないが、指を一本でも動かしたら間違いなく次の瞬間には、僕はこの世からいなくなるということを感じさせた。

 セランを取り押さえていた兵士も、例外なく動きを止めた。だが、取り押さえられていたセランは、何事もなかったかの様に立ち上がった。

 セランが立ち上がったのを確認すると、エイラは殺気を発するのを止めた。


「べ、ベルティオン様?」

「わりぃな。やっぱり帰るわ」

「わ、分かりました」

「あ、手土産も要らんからな? 行くぞセラン」

「やっぱりアイラは僕のことを……」

「……うるせぇ。いいから帰るぞ」


 二人は誰かに見送られることも無く、大広間を後にした。






+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+






「……っていうことがあったんだ」

「本物の勇者様って、すごい方なんですね」

「いや。勇者怖すぎだろ」


 僕は今日の見て体験した出来事を、部屋で待っていたプリミエーレとスカードに話した。


「そうだね。でも僕には勇者よりもセランって人の方が、得体の知れない怖さがあったよ」

「そんな凄い方達だったんですね……。その方達なら、私の首輪を外せるんでしょうか……」

「……完全に忘れてた。勇者なら助けてくれたかもしれないのに……」

「し、仕方ないですよ。レベリオ様は使用人なので、こちらから話し掛けるのも厳しいでしょうし」

「本当に情けない奴だな! そんな奴にプリミエーレは相応しくないな!」

「ごめん……」


 落ち込んで俯く僕の傍にプリミエーレが寄り添う。


「私はレベリオ様が、この首輪を外してくれるって信じています。だから……自分を責めないでください」

「プリミエーレ……うん。ありがとう」

「っ! 離れろよ! 人種が俺のプリミエーレに触るな!」

「ごめんねスカード。ちょっと君のプリミエーレを借りるよ」


 僕はまるで小さい頃に戻ったかの如く、自分より小さいプリミエーレに抱き付いた。

 プリミエーレは優しく抱き留め、まるで母さんの如く僕の頭を慈しむ様に撫でた。


「……私のような獣人種にも、手を差し伸べるレベリオ様は強い人です。そして私の……人の為に頑張れる優しい心も持っています。そんなレベリオ様の手伝いたい。頼りないかもしれないですけど、辛いときは私を頼ってください」


 僕を諭すようにプリミエーレが微笑みかける。

 その姿を見て思うところがあったのか、今まで黙っていたロキが語り掛けてきた。


 『……なんか母親みたいだな』

 『うん。母さんを思い出すよ……これが俗に言うバブみってやつかぁ』

 『……その言葉の意味は解らん。だが、なぜか同意できそうだ』

 『そうだね。これだけは言えるね』

 『『ママァ……』』


 僕はママ(プリミエーレ)を更に強く抱きしめた。


「あっ……。だ、ダメですよレベリオ様。そんなに強く抱きしめられたら私……」

「もう少しだけ! もう少しだけママの温かさを感じていたいんだ」

「ふざけたこと言ってないで離れろ! あと、プリミエーレはお前の母親じゃねぇから!」


 激昂したスカードに引き剥がされ、更に僕の部屋の筈なのに一人だけ床で寝ろと言われた。

 兎も角、明日からは通常の業務に戻るので、プリミエーレの首輪を外す方法を探さなければ、と思いつつ床の冷たさを感じながら眠りについた。

 少し短いですが、区切りが良いのでここで投稿します。ご理解いただきたいです。


 よろしくお願いします。

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