6.勇者襲来
『なんで!? ロキは自分に都合が良い世界を作りたいの!?』
『そうじゃねぇよ。ただ、コイツ等みたいな弱い奴から搾取する奴を、力で判らせるだけだ』
『それが、自分に都合が良いってことだよ!』
『はぁ!? じゃあお前はコイツ等みたいなのが、淘汰されても良いって言うのかよ!』
『そんなことは思ってないよ! 勇者みたいに助けれたらって思ってるだけだよ!』
『すべての人を助けられると思ってんのか? 大元を潰した方が良いに決まってるだろ!』
『力だけでは全て解決できないよ!』
『力が無かったら解決できないことだってあるだろ!』
『っ! 何で分かってくれないの!?』
『お前こそ、なんで分からないんだ!』
多分ロキとの言い合いが、多少なりとも顔に出ていたんだろう。
プリミエーレが、心配そうにこちらを覗き込んだ。
「レベリオ様? どこか調子が良くないのですか?」
「あ、いや。何でもないよ。心配かけてごめんね」
「大丈夫なら良かったです。私の所為でレベリオ様に、負担を掛けたくないですから」
「負担になんて思ってないよ。むしろ君の為に頑張ろうって思うと力が湧いてくるよ!」
「そ、そんな……恥ずかしいです。スカードも見てますし……」
何を想像したかは知らないが、プリミエーレは頬を赤く染める。
「……人種なんかに、プリミエーレは渡さないからな!」
「別に君の物でもないでしょ?」
「っ! うるせぇ! 明日は大事な来客があるんだろ! 早く寝ろよ!」
明日は大事な来客があるから、今日の内から準備を怠らないようにと、フラットさんから言われていた。
逆にプリミエーレ達は、大事な来客の目に留まらないように明日はお休みらしい。
「も、もう寝るから怒らないでよ。それと、明日は僕の部屋を使って良いからね」
「はい。では、寝ましょうかレベリオ様」
僕の横に寄り添うように、プリミエーレが寝る。それを見たスカードは、更に怒りを露わにさせる。
「プリミエーレもソイツの横で寝ようとするな! 子供が出来ちまうぞ!」
「レベリオ様との子供?」
プリミエーレは考え込んで、再び頬を赤く染めた。
「っ! いいから寝るぞ! プリミエーレはこっちに来い!」
「えぇっ! そ、そんな!」
「来るんだ!」
「イヤです! レベリオ様の横が落ち着くんです!」
「そいつの横にプリミエーレが寝ると、俺が落ち着かないんだよ!」
獣人種の二人がどこで寝るかを、互いの意見をぶつけて言い争い合う。
喧嘩しているようにも見えるその光景が、僕にとっては平和そのものに見えてならなかった。
獣人種にも、優しく手を差し伸べてくれる人が、たくさん現れて欲しいと僕は切に願った。
『明日からは、お前が一人で業務をこなせよ』
『なんで?』
『……目指すところが違うなら、お前に手は貸せない』
『別にそれならそれで構わないよ。僕だけでもなんとかなるし』
『……そうかよ。ま、頑張りな』
『言われなくても頑張るさ』
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明くる朝、かなり早い時間にも拘らず、僕は既に燕尾服の袖に手を通していた。
まだ寝ている二人を起こさないように静かに部屋を出て、フラットさんの元へと向かった。
「おはようございます。フラットさん」
「はい。おはようございます。今日は大事なお客様がいらっしゃいますので、失礼の無いようにお願い致します」
「任せてください。僕は基本的に喋らなければいいんですよね」
「はい。そのあたりの教育は、一週間でできる物では無いですから。お客様の疑問には、私が全てお答えするので問題はありません」
屋敷の掃除と庭の手入れを、普段より入念に行い玄関先で来客を待つ。
そしてついに、その瞬間が訪れた。
金色の髪の女性と、黒色の髪の男性、両方とも整った顔立ちの一組が玄関の戸を潜った。
「本日はお忙しい中、お越しくださりありがとうございます」
フラットさんのその言葉の後に、集まった使用人の全員が頭を下げる。
「ったく、ホントだよ。アタシは勇者だぞ? 忙しいに決まってんだろ!」
「まぁまぁ落ち着いて。そんなに忙しい訳じゃないでしょ?」
「御付きのてめぇが、アタシの何を知ってんだよ!」
「うーん。スリーサイズとか?」
「……ぶっ飛ばす!」
どうやら来客は、自称勇者の女性とその御付きの男性みたいだった。
「どうぞこちらへ、客間へと案内致します」
フラットさんと僕を含めた数人で、その二人を客間へと案内する。
客間へと通した後、僕は二人にお茶を出した。
そのときに勇者の女性と、御付きの男性にジッと見つめられた気がした。
「で? 何で今日はアタシを呼んだんだ?」
「はい。我が主の領地に魔物が現れまして、領民が何人か襲われてしまい、勇者様に討伐をお願いしたいと、思った所存でございます」
「……この領地の兵士じゃダメなのか?」
「一度向かわせたのですが、戻らなかったのです」
「……魔王が不在の所為か、面倒をかけやがって……分かった。アタシが倒してきてやる。その場所に案内しな」
「はい。ご案内します。御付きの方はどうなさいますか?」
「……こいつは置いて行く」
「かしこまりました。では、後のことはお願いします」
勇者の女性は、フラットさんを連れて行ってしまった。
残った御付きの男性と、僕の目が合った。
「すまないけど、ちょっとこの子と話がしたいから、席を外してくれないかな?」
御付きの男性は、僕以外の使用人に向けてそう言った。
言われた通りに僕以外の使用人は、部屋から出て行ってしまった。
「君は中々面白いね?」
「……」
「あ、別に失礼だなんて思わないから喋っても良いよ」
「……どの辺りがですか?」
「君の中には……何人いるのかな?」
「っ! ……何で分かったんですか」
「んー? 何となくかな?」
「何人かいると、何か問題があるんですか?」
「いや? 特にはないよ。まぁでも、もう一人と仲良くね?」
心の中まで全て見透かされているような言葉に、僕は恐怖を覚えた。
「あ、あなたは何者なんですか?」
「僕? 僕はセランだよ」
御付きの男性から名前を聞いた瞬間に、先程出て行った筈の勇者の女性が、部屋の扉を乱暴に開け放った。
「遅かったねエイラ」
「あ? てめぇみたいな魔法が使えないから、走って行って速攻でボコって来たんだよ! ……あと名前で呼ぶな」
「連れないなぁ。昔みたいにダーリンって呼んでくれても……」
「……コ○すぞ?」
勇者の放った殺気に部屋全体が凍り付く、僕は立っていられずにその場にへたり込むが、真正面から受けているセランは、涼しい顔をしている。
「ほら、この子が可哀想だよ?」
「っと、わりぃな。ちびってないか?」
「だ、大丈夫です」
『こっちの女は、本物の勇者みたいだな。魔王はこれに匹敵するのか……魔王への道は長そうだ』
『何なんだこの人! 何であの殺気を受けて平然としていられるんだ!?』
「討伐したお礼に、もてなしてくれるらしい。早く行くぞ」
「いいの? 僕は何もしてないけど?」
「いいから早く来いよ!」
「……ダーリンが居ないと寂しいって言ってくれたら行こうかな?」
「じゃあ来るな。そして○ね」
「やれやれエイラは冷たいなぁ」
僕は付き添う様に、その二人の後を追った。