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1.こんにちは悪霊さん。

 ガタッ! ガタゴトッ!


 硬い何かがぶつかり合う音と、それに呼応する様に大きな振動を感じて僕は目が覚める。


 『……母さんは今日も騒がしいな。まあ、その音でいつもしっかり起きれてるから感謝してるけどね』


 両手を付いて立ち上がろうとすると、手にいつもと違った違和感があることに気付く。そう、僕の腕には無骨な手枷が嵌めてあったのだ。


 『えぇー!? 何この手枷! そして暗いからよく見えないけど格子?……もしかして牢屋!? 本当に何が起きてるんだ!?』

 『……おい! さっきからうるさいぞ! こっちは寝てるんだから静かにしろよ!』

 『ご、ごめんなさい!』


 頭の中に()()聞こえた声に、急いで謝罪した。


 『え?』

 『あ?』


 知らない場所で手には手錠、頭の中で響く声。明らかにホラーな現象を体験して、僕の頭は混乱していた。


 『ひぃっ! 怪しい宗教団体の教祖様ですか!? 僕は絶対に信者にならないので開放してください!』

 『おいテメェ! 誰が怪しい教祖だゴラァ!! テメェこそ()の頭の中に、直接話してかけてきてんじゃねぇよ!』

 『お、俺の頭の中? ()の頭の中に話しかけてるのは君だろ?』

 『はぁ!? お前が俺のに入ってきて、訳わかんねぇこと話してるんだろ!』


 お互いがお互いの頭の中に入ってこられているという状況を説明していた。

 その状況から導き出される答えは……。


 『……怨霊? ヤンキーな悪霊さんですか?』

 『上等だテメェ! 今すぐその失礼な口を開けない様にしてやるよ!』

 『お、落ち着いて! まだこの世に未練があるのは分かるけど、人に危害を加えるのは良くないよ!』

 『未練も何も俺は、そもそも死んでねぇんだよ! シバくぞ!?』


 僕に取り憑いたヤンキーの悪霊は、自分がまだ死んでないと言い張る。


 『というか俺の身体を返しやがれ! 今取り憑いてるお前が動かしてるんだろ!?』

 『そんな訳ないでしょ! そもそも取り憑いてるのは君の方……』


 僕が手を見ると、生まれてから今まで禄に運動をしてきていない僕の手には似つかない、大きくがっしりとした見慣れない手がそこにあった。


 『……本当に僕の身体じゃないの?』

 『さっきからそう言ってんだろ! いいから俺の身体を返しやがれ!』


 そうは言ってもどう返すかなんて分からない為、その要求には応じられそうにもない。


 『返す方法が分からないです……』

 『はぁ!? ふざけんなよ!』

 『お、落ち着いてよ!』

 『自分の身体が、何処の誰とも知らない奴に乗っ取られて落ち着いてる奴の方がどうかしてるだろ!』

 『そ、そうだよね。取り敢えず名前だけでも教えるよ。僕は別雷(わけいかづち)(とおる)だよ。君の名前は?』

 『……ロキ。ちなみに、お前の名前聞いたって、納得する訳ではないからな?』

 『で、ですよねー!』


 お互いの名前を聞いた後すぐに、布を取り払う音と共に急に暗い空間に光が差した。

 眩しさに目が慣れると、インチキ臭そうな顔のやせ細った男と、鎧を着た大男二人がインチキ臭い男の横に控えていた。


「おはよう奴隷君。よく眠れたかね?」


 インチキ臭い男曰く、どうやら僕は奴隷になったらしい。






+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+






 『え!? 奴隷? 僕が!?』

 『正確には俺がだけどな。騙されてお金を全て奪われてから奴隷商に売られて、今に至るって訳だ』

 『なんでそんな冷静なの!?』

 『騒いだってどうしようもないだろ? こういうときはどっしりと構えるのが吉だぜ?』


「君にはこれからオークションに出て貰うよ? そこで良い買い手が付くように、愛想よくするなりなんなりして、自分に買い手が付くように頑張ってね?」

「か、買い手が付かなかったらどうなるんですか?」

「元々売れたらラッキー程度の気持ちでかなり安く買いとってるし、そもそも男はなかなか買い手が付かないから、在庫として残して置くのも損になるだけだから何処かに廃棄かな」


 『え!? 奴隷or廃棄!? 目が覚めたら極端な二択で、超絶クライマックスにびっくり!』

 『そんなに心配すんな。売れても売れなくても、俺なら全く問題ないからな』

 『君のその能天気が羨ましいよ!』


 僕は鎧を着た大男に荷車の上の牢から降ろされて、見たことも無い生き物が入っている檻の横の、空いている空間に壁と手枷を鎖で繋がれた。


 『……ねえロキ? この身体にいっぱい目がある生き物が、こっちを見て何か囁いているんだけど……』

 『そいつの言葉に耳を傾けるなよ。会話が成立すると身体を取り込まれて、いっぱいある目のうちの一つにされるぞ』

 『……なにそれ! 怖すぎでしょ! じゃあ、あの小さいビンに入った、丸くてふわふわしてるのは?』

 『あの毛に触った奴の身体に侵入して寄生し、寄生した奴の養分を吸収してあの毛を発生させて殺す寄生生物だな。ちなみに丸いのは、寄生された生物の死骸かなんかだろうな』

 『や、やばすぎる! ここに居るのは危ないんじゃない!?』

 『基本的に不干渉なら問題ない。絶対触ったりすんなよ! 俺の身体なんだから気を付けろよ!』


 周りに一切干渉をしない事を心の中で誓った。

 目を閉じ、音も聞き流して外界との情報を全て断つこと30分が経った。


 『おい。起きろ。どうやら俺らの番がきたみたいだぞ』


 ロキの声で僕は目を開けて、辺りを見渡すと物騒な生き物たちが少なくなっていた。

 オークションであんなのを買う人が居るのかと戦慄していると、屈強な男が、僕を壁に繋いでいる鎖を手に持ち引っ張って歩く。

 そして僕は観衆の目の前のステージに立たされた。


「今度の商品は人族の男です! 出品者曰く、見た目は良いので気に入る方もいるのではないかとのことです!」


 司会者らしき男性が、商品(僕)の説明をしてから近づいてきて、僕に耳打ちする。


「ほら! 自己紹介でも何でもいいから! 早く何かやって!」

「な、何かって!?」

「いいから早くするんだ!」


 会社の新人に、飲みの席で一発芸させるときよりも、酷い前振りじゃないだろうか?


「え、えーと。初めまして? よろしくお願いします?」

「舐めてんのか?」


 司会者の男が僕を脅す。

 現代の日本人の8割くらいは、急に振られたらこんな自己紹介になると思うよ?


「え、えー……だそうです! では最初は、1000ユルからスタートです!」


 そして、僕の競りが開始された。

 でも、スタートから全く動くことがなく、誰も僕を競り落とそうとはしなかった。ちょっと悲しい。


「えー。どなたかいませんか? 今なら1000ユルで買えますよ! お買い得ですよ!」


 『1000ユルってどれくらいなの?』

 『何で知らないんだよ? そうだな……リンゴ10個が買えるくらいの値段だな』

 『つまり……僕 = リンゴ10個だよやったね! ……やったねじゃねぇよ! 叩き売り価格なんだから誰か買えよ!』

 『……お前大丈夫か?』


 買い手が現れないため、司会者が競りを終了しようと思ったのか何か言いかける。

 だが、司会者がしゃべり始める前に会場に動きがあった。


「誰も買わないならこのポブツヌンが買うぞ!」


 1000ユルで僕は買われることになった。買って貰ってちょっとだけ嬉しいと思ったのは内緒だ。

 僕を買った人は丸々と肥えた、見るからに悪役が似合うおっさんだった。


 『ねえロキ。僕は不安しかないよ?』

 『……言うな。俺も一瞬そう思っちまったよ』


 ポブツヌンと名乗った男は、袋から貨幣らしき物を取り出し司会者に渡した。


「では商品はまとめてお渡しするので、一旦こちらで預かって置きますね!」

「うむ。よろしく頼んだ」


 僕はまた手枷の鎖を引かれて歩き、最初の檻とは違う大きい荷車の上の檻に入れられた。

 今度は物騒な生き物たちが隣に居なくて心底安心したが、その檻の中には先客が居た。

 黒い髪が伸び切っていて顔が見えない、みすぼらしいボロボロの服を着た小柄な子が、膝をギュッと抱える様に座っていた。


「君もオークションで買われたの?」

「……」


 『……無視かよ。おい、ちょっと礼儀を教えてやれ』

 『ダメだって!』


「君の名前は?」

「……」


 『耳が聞こえないのかな?』

 『目の前で手を叩いてやったらどうだ?』

 『そうだね。やってみようか』


 僕はロキの提案通りに、その子の顔の前で手を打った。

 するとその子は音に驚き、蹲ってしまった。


「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」

「ご、ごめんね! 驚かせるつもりじゃなかったんだ!」


 蹲ったその子の尾てい骨の辺りから、犬の尻尾のような物が生えていた。


 『……こいつ獣人種か』

 『獣人種?』

 『ああ、亜人って呼ばれてる種族の内の一つで、人種からは獣との混じり者で忌み嫌われてる種族だ』

 『じゃあロキも嫌いなの?』

 『俺は種族だけで人を判断なんてしない。大事なのはそいつが、心にどんな信念を持っているかだ』

 『やだ……カッコいい……』


 ロキを見習って、僕も何か男らしいことがしたくなったので、蹲ってしまった子の背中に優しく触れて語りかけた。


「大丈夫だよ? ほら、顔を上げて?」

「ひっ! ごめんなさい! 痛いのは嫌です!」

「大丈夫、痛くしないから。僕に全部任せて」

「やめてください! ごめんなさい! ごめんなさい!」

「心配しなくても、ちょっとくらいなら全然平気だよ?」


 『……お前さ、いやらしいことをしようとしてる奴に見えるぞ?』

 『え? 何で?』

 『だって、そいつ女だぞ?』

 『……え?』

 『だから女だって。声を聞けばわかるだろ』


 一呼吸ついて、一旦落ち着いてから先ほどの流れを頭の中で整理してみた。



 痛いのは嫌です!       ←あの子

 痛くしないから。僕に任せて? ←僕

 やめてください!       ←あの子

 ちょっとだけなら平気だよ?  ←僕



 『……あれ? 事案かな?』

 『だろ?』


 とんでもないことを口走っていたと思い、すぐにその子に謝罪した。


「そんなつもりじゃなかったんだ。本当にごめん……」


 僕が深々と頭を下げて謝る姿勢を見て、本当にそんなつもりでは無い事を理解してくれたのか、蹲っていた身体を起こして顔を上げてくれた。


「……何もしませんか?」

「しないよ」


 顔を上げてくれたのは良いが、髪が顔を隠すほど伸びているため、表情は全く分からない。


「……獣人種に頭を下ない方が良いですよ。あなたが他の人種から下に見られますから」

「え? なんで? 失礼なことをしたら謝るのは、至って普通のことでしょ?」

「……普通じゃないですよ」


 『そうなの?』

 『世間一般的にはな。でも、俺も間違っているとは思わないな』


「そっか。でも僕は君に失礼な事をしたと思ってる。だから、ごめんね」

「……勇者様みたいです。」

「え? なんだって?」

「……何でもないです。……私はプリミエーレです。……無視してごめんなさい」

「良いよ気にしてないから。僕みたいなのにいきなり話しかけられたら怖いよね? 気付かなくてごめんね?」


 『あ? 俺の顔に文句があるのか? 喧嘩なら1000ユルで買うぞ?』

 『それは君の値段でしょ? それよりちょっと静かにしててくれるかな?』


「プリミエーレっていうんだね。いい名前だと思うよ。僕の名前はとお…」


 僕が自己紹介しようとしたらロキに止められた。


 『待て待て、確かにお前はトールかも知れないけどな? この身体の本人……俺はロキだ』

 『そうかもね? でも今この子と話してるのは僕だよ』

 『何で俺の名前を教えないんだよ!』

 『だって僕は僕だし』

 『はぁ!? ふざけんな! 呼ばれ慣れた名前が良いに決まってるだろ!』

 『僕だって同じだよ!』


 お互いが自分の名前が良いと言い張る。

 このままじゃ永遠に平行線だと思い、現状を打開するために僕は一つ提案をする。


 『……じゃあ間を取って、僕たちの総称の名前を決めたらいいんじゃない?』

 『そうだな。悪くない提案だ』

 『何か案はある?』

 『アルティメットロキトール四号とかカッコ良くないか?』

 『……ダサい。なんか凄く清涼感のあるキシリトールみたいで嫌だな』

 『あ? そんなに言うなら、お前も何か案を出せよ!』

 『そうだなぁ……レベリオは? 多分僕たちにピッタリな名前だと思うんだけど』

 『レベリオ? ……意味は分からないが……なんかカッコいいな。よしそれで行こう』


 急に黙って考え込んでいた僕を、プリミエーレが不思議そうに見ていた。


「僕はレベリオだよ。辛いこともあるかもしれないけど頑張ろうね」

「……はい。お願いします」

 始めましての方は初めまして。私の関連作品を読んでいただいている方はありがとうございます。ぐらおです。


 他の作品と同様に、ブックマークや評価、応援や批評などの感想、誤字などの報告も全て受け付けております。何かしらの反応があればあるほど、やる気が増すかも知れません。


 気が向くままに、書いていきますのでお付き合い頂けると幸いです。

 これからよろしくお願いします。

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