短編1
神の国
人間に残された“絶望の中に鈍く光る”ものがあるとするならば、それは我々が大いなるこの世界を構成する作用の一つにすぎないものだということだ
僕は今、大きな石をせっせと運ぶ。仕事仲間と共に王へ仕える者たちは、毎日この大きな石を、木製で出来たソリにのせて運びながら家族や自分が無事に生きるため、そして、王のため日々を過ごしている。なんでもそれは、我が王によれば幾星霜を経て讃えられるような神への供物となるものだそうだ。だが、それは僕がしている奉仕の世話をしてくれている奴が言っていた話で、信じていいものかどうかはわからない。いつだって僕は王のために働けることを誇りに思っているし、その王が言っている神の世界というものやそれに関するおとぎ話のようなものが心から好きなんだ。だってそうだろう?僕らのような動物を創ったのもその神様だっていうじゃないか。それなら、その恩に報いようと働くことなんて苦痛と感じるわけがない。それに、毎日働いていれば生きるための食事にありつけるんだ。文字一つ書くこともできない僕が、出来ることなんてそのくらいのものだろう。しかもそんな光栄な事をさせてもらっているにもかかわらず、一日の奉仕が終わった後はビールという変わった飲み物だが、何を口にするよりも心躍るものをいただけるんだ。満足いかないものか。
今日も一日を、王や神への奉仕で一日を終えることができた。本当にありがたい。家へと帰り、妻やまだ働くことはできないが僕としては立派に育っている息子たちと王から聞いたおとぎ話を、食事をとりながら話していった。なんでも、とある異邦人が語っていたそうだが、「神の国は、見られるかたちで来るものではない。また『見よ、ここにある』『あそこにある』などとも言えない。神の国は、実にあなたがたのただ中にある」のだと。まったくもって難しい言葉が多く、内容自体はよくわからなかったがとにかく我々の中に神の国があるそうだ。お前たちの中にも、あるということだ。
長く続いてきた、日々も終わりを迎える。それは突然に。そして、その積み上げてきたものどもはいとも簡単に蹂躙されていった。侵略者たちは、すべてを奪っていくものでそれは今もかわらない。彼らも何かから追われてきたといっているようだが、そんなことは知らない。
僕は何もかもを失ってしまった。しかし、今までのように石を運ぶ。奴隷として買われているからだ。僕は今、王が話してくれていた物語を思い出すが、信用あるものではなかったようだ。
だが、神の国こそが、心の支えとなっていた。
初投稿です。
これからも、何となく語りたいことが語れたらいいなと思っております。
読んで頂いた全ての方の、幾ばくかの慰みや決意をお伝え出来ていたら幸いです。