第九話. 古本屋にて
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16:55
さっきから、時間が進むのが遅い気がする。わたしは、何度も携帯を開けたり閉めたりしながら、古本屋の前で待っていた。ちょっと早く着きすぎたみたいだ。
もう一度携帯を開いても、16:56。パタン、と携帯を閉じて、人影を感じた。
「お待たせしました! エンドウさん」
顔を上げると、制服姿のキラくんが目の前に立っていた。
「い、いえ、そんなに待ってないですよ・・・!」
15分前から立っていたけど、そんなことは一気に忘れた。
「入りましょ」
「はい」
内心、またあのコーナー(・・・・)にあの人たちがいるのではないかと、わたしはキラくんの後ろにつきながら、恐る恐る店内に入った。
「こんちはー」
キラくんは愛想よく、店主のおじさんに声をかけた。
「らっしゃい」
おじさんはいつもの感じだ。
「好きなの見なよ。俺はあっちの方いくから」
キラくんは、難しそうな本が並ぶ列に行ってしまった。
わたしは、いつもの文庫本が並ぶ棚にいくと、前から目をつけていた小説に手を伸ばした。
しばらく、気になる本をとっては立ち読みし、を繰り返していたが、あまり頭に入ってこない。ずっと頭の隅に、キラくんはどんな本を選ぶのかを考えてしまっている自分がいた。わたしは、棚の間を移動し、キラくんの方へと向かった。
「ん?どうかした?」
キラくんは、作家の全集のコーナーにいた。
「ちょっと気になって。えーーと、どんな本を読むのかなって」
本に目をうつすと、埃っぽい分厚いハードカバーの本ばかりが並んでいた。
「新しい本でこういうの買ったら高いから、ここで買うんだよね。前、こころがきっかけって言ったでしょ? そっから夏目漱石の全集を読んで、今はいろんな人のやつ読んでるって感じかな」
「へえ・・・・・・」
今までなんとなく敬遠していた一時代前の文学になんだか興味を持ってしまった。
「また、よかったら俺の読んだ後のやつ貸しましょうか?」
「いいの! ありがとうございます!」
「普段こういうの読まなさそうだなって思って。せっかくだったら、俺が面白いって思ったやつから読んだ方が、多分楽しいと思うから。次、持ってくるね」
”次”
次もあるんだ。次っていいな。嬉しいな。
「楽しそうでよかった」
キラくんが呟いた。ニヤニヤしてたのが顔に出ていたみたいだ。
「エンドウさんが好きな本もまた貸してね」
「はい!」
私たちはそれぞれお会計を済ませ、古本屋を後にした。
「俺、家はもう一個向こうの駅なんだけど、エンドウさんは、どっち方向?」
ここでお別れだと思っていたけど、予想外の言葉がきた。
「わたしは、あのコンビニから自転車で20分くらいなので、多分途中まで同じ方向だと思います」
「じゃあ、俺も歩いて帰ろっと」
「結構遠くないですか?」
「いや、平気だよ! 古本屋に来たときはたまに歩いてるし」
どうやら、もう少し話せるみたいで,嬉しくなった。私たちは家に向かって歩き出した。