第八話. 待ち合わせ
すみません、火曜日投稿になってしまいました…。
ピリリリリリリ……
引きこもって、『こころ』を繰り返し読んでいたわたしは、ある夜勤明けの真昼間、着信音で目覚めた。
「……ん」
表示されたのは、知らない番号。大抵、昼間にかかってくる電話といえばお父さんからの帰宅時間に関する連絡か、弟が体調を崩して早退するという連絡かの2択だ。最近は、後者はなくなってきたけど。
まさか、あの人かな……?寝起きのわたしはフラフラと本に挟んでいたままのノートの端を取り出した。
その間に、着信は止んでしまった。不在着信履歴には、メモ書きと同じ番号があった。
「すぐ出ればよか……」
ピリリリリリリリリリリ……
後悔する間もなく二度目の着信がきた。あわあわして、今度は、『切る』のボタンを押してしまう。
「あああああ」
語彙力をなくしたかのように声をあげて、もうかかってこないだろうなと思って悲しくなった。
かかってきた電話を切るなんて、失礼にもほどがある。仕方がない。
眠いし寝ますか。わたしは、元いたベッドにズコズコと戻って行った。しばらくジメジメ落ち込んでいたら、また、ピリリリリリリリリ、と着信音が鳴り出した。
今度は絶対とる!!という意気込みで、わたしは布団から抜け出し、今度はちゃんと『通話』のボタンを押した。
「はい!」
慌てすぎて声が裏返ってしまった。恥ずかしい。
『あの……えっと、なんて言ったらいいかな、名乗ってないしな…コンビニの、あと古本屋の男です』
”古本屋の男” 変な言い回しにわたしは思わず笑ってしまった。
「ふふ……すみません、電話、2回も出られなくて」
『ほんとですよ〜〜。昼休みって短いんだから、すぐ出てください! ははっ…冗談ですよ』
昼休みという眩しい響きに懐かしさを覚えながら、わたしは、次なんて言おうかと考えていたが、その必要はなかった。
『まだ、お互い名乗ってなかったですね。俺、キラっていいます』
「遠藤優です。よろしくお願いします」
『くくく……。なんだか改まると面白いね。よろしくお願いします。ところで、今日、いつもの古本屋に行くんだけど、一緒に行きますか?』
その言葉を聞いた瞬間、わたしの中に楽しさが湧き上がってきた。この一言をこの数日間、自分でも気づかないうちに密かに心持ちにしていたことに気づく。
「はい!いつでも暇です!」
自分でも信じられないくらい、明るい声が出た。電話の向こう側で、キラくんが笑っている。
『りょーかい! じゃあ、俺学校終わって多分5時くらいには店の前につけると思うから、よろしくお願いします』
「はい!」
『じゃあ、授業始まるから切るね。また後で!』
電話が切れた後、わたしは帰宅してからシャワーも浴びずに寝ていたことに気づいて、急いでお風呂場に向かった。人と待ち合わせができるなんて、これまでの生活で想像していなかった。
鼻歌混じりで、わたしは支度をした。