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第五話. 会いたくなかった人

 古本屋に通い始めてから、わたしの生活は少しずつ変わっていった。


 まず、いつも出しっぱなしになっていたゲーム機の類はクローゼットにしまわれた。代わりに居間にあった本棚のなかを整頓して、自室に持ってきた。その時に服も邪魔だったから、ある程度畳んで片付けた。そして、買ってきた本をその本棚に入れた。


 ずっと閉めっぱなしにしていたレースのカーテンも開けるようになった。本を読むにはある程度の明るさが必要だったからだ。こうしてカーテンを開けてみると、予想以上に床にがゴミが落ちていたこともわかったから、軽く掃除もした。


 なんだかちょっとだけ、ちゃんと生きてるって感じがする。


 それでも、出かける時間帯はいつも真昼間だった。夕方に動いたら、顔見知りの同級生たちに会うようなきがしていたから。


 でもその日はうっかり寝過ごしてしまって、15時を少し回った頃に出ていくことになってしまった。誰かに会うと怖いから、今日はやめておこうかな。とも思ったが、若干活字中毒気味で、本にしかお金を使わなくなったわたしは、ちょっと勇気を出して古本屋に行くことにしたのだ。


 引き戸を開けると、いつもの古本屋の雰囲気とは少し違っていた。奥の方に、4、5人の男性がいるようだった。


「おい、ここかよ、やべえホンが置いてあるのは」


「そうだよ。この前来たときはすっげえのが置いてあったんだから」


 どうやら、彼らはわたしが普段避けている成人雑誌コーナーの列にいるようだ。

 

 『下品な人たちだな、ちょっと怖いかも』

と思ったが、制服姿ではなかったし、気にせずお目当ての小説コーナーに入っていった。


 小説コーナーに入るとすぐ、わたしは目の前の本の山に没頭した。今日はどれを買おうか。一冊100円〜300円になっているので、気になったもの全てを買うのは屁でもないが、なんとなく少しずつ買いたい気分だから、毎週2,3冊にすることにしている。


 ふと、本棚から目を離すと、レジ前の一冊50円コーナーが目に入った。


 『太宰治・夏目漱石・芥川龍之介フェア』


と、店主が書いたのであろう筆ペンの文字が目に入った。カゴに並べるともなしに入っているのは、どれも新品に近いものばかりで、わたしは吸い寄せられるようにそのコーナーに近づいた。


「こんなに綺麗なのに……」


中には、その三人以外の著作もあったが、ほとんどは彼らの代表作と呼ばれるものばかりだった。


「それ、夏休みの課題で読んだ子どもらがみんな売りに来たんだよ。最初から古本屋で買えばいいものを、わざわざ新品を古本にするなんてもったいないよなあ。まあでもそれで出版業界はまわってるんだよなあ」


 レジで店番をしていたいつもの店主のおじさんが、投げやりにぼやいた。


「そうですねえ」


と相槌を打った。わたしは最近の作家さんの小説しか読まないので、そんなに興味はなかったが、おじさんの手前、何も見ずに去るのは決まりが悪く、二、三冊とってパラパラと読むふりをしていた。


 すると,背後からいきなり声が降ってきた。



 「お前、どっかで見たことあると思ったら、遠藤じゃね? 遠藤ゆうだろ?」


 

自分の名前が呼ばれて、驚いて声のした方をみると、そこにはさっきの男たちが立っていた。一番前にいるのは忘れもしない、いじめの主犯格のリーダーだった。


「相変わらずダッセーな、お前。まだ本書いてんの?」


 片手に如何わしい本を持ちながら、距離を詰めてくる。そいつのつけている香水と汗の臭いとがきつくなって、気持ち悪くなった。多分臭いのせいだけではない。わたしは、「こころ」を持ったままその場に硬直して動けなくなってしまった。


「みろよ、こいつ。こいつ、自分で本書くんだぜ」

 後ろにいる男たちにそいつがいうと、後ろの奴らも、ニタニタしながらこちらを見下ろしてきた。


「妄想ばっかりしてんじゃねーの、モテねーくせに ”キ ス シ ー ン” なんか書きやがって」


ヒューヒューと後ろから冷やかしの声が聞こえる。


 冷房のない古本屋で、わたしは冷や汗をかいて、突っ立っていた。どうしよう。どうしたらいいんだろう。怖い。中学時代の記憶が思い出されて、吐きそうになった。カタカタと扇風機の音だけが響いている。




 何分たっただろうか。後ろから、スッと手に持っていた本を掴まれた感じがした。


「これ、買うの?」


 予想外の質問をされて、思わず頷いたわたしの手から本が取られて、その声の主が店主に代金を払った。

 逆光で、誰かはわからないが、わたしより背が高い青年だということはわかった。


「え……」


 訳が分からなくなっていると、


「君ら、うざいよ。俺には、君らの方が変な妄想ばっかりしてるように見えるけどね」


 彼は、男たちが持っていた”如何わしい”本に目を向けながら言った。

 男たちは、罰が悪そうに怯んだが、懲りずに、


「その女の方が変な本書いてるし!」


と言った。そんな声、耳にも入っていないかのように、わたしの目線まで屈んで、その青年は言った。


「行こう、こんな奴ら、相手にするほどのもんじゃないよ」


 ニコッと笑った顔と目があった時、その青年が誰かわかった。


 あのブラックコーヒーの青年だ。


「またくるよおっちゃん、あと、そいつら出禁にした方がいいよ」


「おう、」


 我関せずな店主に声をかけて、わたしの手を引いて古本屋から外に出してくれた。その後しばらくそのまま、古本屋が十分遠くなるまで、わたしはその青年に手を引かれるまま歩いて行った。

 

やっと主人公の名前を本文中に出すことができました。

一人称視点では、どうしても自己紹介させることが多くなってしまうので、それは避けたいなと思っていました。このまま名前を書けないのではないかと内心ハラハラしていたので不良少年に言わせることができてよかったです!笑

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