第十七話. 一日の終わりに(1)
「じゃ、また連絡する! ゆうちゃんも、なんかあったら連絡して!いつでも、夕方とか……」
「うん。 今日は……ありがとうございました」
まだ、全てタメ口で話すのは気が引けて、ぎこちなく手を振り返して、いつもの角で分かれた。吉良くんは電車で帰った方が早いのに、もう夕方だからと言ってわざわざ家の近くまで一緒に歩いてきてくれた。
帰宅して、手を洗って夕飯の準備をする。その間、今日の出来事を思い出しては、ほわんとした気分になった。鼻歌でも歌いたい気分だけど、生憎ゲームのBGMしか知らない。そういえば、最近なんの歌が流行っているんだろう。そんなことを思いついて、リビングのテレビの電源を入れた。いつも自分の部屋のテレビで事足りていたから、リビングのテレビをつけるのも久しぶりだ。
夕方は、ニュース番組とかアニメが多くて、結局流行りの音楽が何かはわからないが、料理のBGMには人の話し声も悪くない。
そうしていると、ガチャリと玄関のドアが開いて部活を終えた弟が帰ってきた。
「あれ、今日はテレビついてる」
弟は独り言のようなものを呟き、リビングのソファに腰掛けた。
「ごめん、今日は夕飯遅くなっちゃった」
時計は19時を少し過ぎたところ。いつもなら私は食事を終えて、食卓に弟とお父さんのご飯を並べて部屋に篭っている時間だ。
「いいよ、別に」
いつの間にか声変わりした弟が素っ気なく答える。同じ部屋にいるのも久しぶりだ。
味噌汁に味噌を溶かして、焼き上がった鮭を盛り、ランチョンマットを引いた食卓にいつものように食事が並んだ。
「ご飯、出来たから」
今更一緒に食べるのも気まずくて、エプロンを外し、そそくさとキッチンを後にしようとした私に、意外な一言がかけられた。
「……なんで、一緒に食べようよ」
振り返ると、弟が、ソファの背もたれから目だけを出してこちらを見ている。
「うん、そうだね」
私は弟と私のお茶碗にご飯をよそった。
「こんなんじゃ、足りねーよ」
普通に盛られた茶碗を突き返して、素っ気なく弟がいう。
「あ、ごめん」
そんな何気ないやりとりと、一緒に食べようと言ったのに先に鮭に手を伸ばす弟の様子が3年前と変わらなくてほっとした。いつもいっぱい食べてくれてるんだなと嬉しくなる。ご飯を大盛りにして、弟に渡した。
「……いつも、ご飯あざす」
ボソリと弟が呟いた。それだけで、私は家族の役に立てていた事に気づいて、嬉しくて。
「いつも、残さないでいてくれて、ありがとう」
「おう」
その後、一言もしゃべる事はなかったけど、久しぶりに家族と食べた夕飯はいつもよりとっても美味しかった。
最近一人でご飯を食べていると、実家にいた時のことを思い出します。父も母も仕事で夕飯の時間までに帰ってくることがほとんどなかったので、母が準備したご飯を仕上げたり温めたりして、弟の帰宅に合わせて一緒に食べていました。弟は某動画サイトに夢中で、私はテレビに夢中で、会話もなく、賑やかな食事ではなかったですが、一人で食べるのと二人で食べるのとでは全然違いますね。ちょっとあの頃に戻りたくなりました。