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第十四話. 友だちになって

 ー9:45


 また早くついてしまった。そして、秋の風が、久しぶりに出した足を撫でる。と言っても膝が隠れた黒いスカートだけど。今朝、出かける直前に、急にジーパン・パーカーが恥ずかしくなって、急遽クローゼットの奥に眠っていた服たちを引っ張り出した。無難なボーダーのカットソーに、膝丈黒のスカート、そして黒いスニーカーを履いてみた。この組み合わせであっているのかよくわからない。その上中学生の時のものだから、もしかしたら流行遅れかもしれない。だけど、多分いつもの格好よりはマシ、なはず。


「おはよう」


俯いてスカートの裾を気にしていると、前に人影がたった。


「お、おはよう」

 

 吉良くんを目の前にして、昨日泣いてしまったことを思い出して、しどろもどろになってしまう。


 彼は、ブラウンのズボンに白いシャツで紺のカーディガンを羽織っていた。きちんとした私服を見たのは初めてで、ちょっと新鮮。


「とりあえず、はいろっか」


「う、うん」


 昨日のことに触れることもなく、自然な感じで、でもどこか不自然な感じだった。


 前と同じように、わたしは文庫本コーナー、吉良くんは純文学のコーナーに入って、それぞれ本を選ぶ。そしてお会計を済ませて、外に出た。


 何も話さないまま、この時間が終わってしまう。わたしはまだ、昨日のことを謝れてもいないのに。二人の間に沈黙が流れて、とても気まずい。しばらく歩いて、前の吉良くんがふと立ち止まった。そのままこちらに振り返る。


「ね、このあとまだ時間ある? 昼ごはん食べて行かない?」


「え、あ、うん」


吉良くんはいつも予想外のことをする。




◆◆◆




 私たちが腰を下ろしたのは、わたしが普段なら絶対に入ることはないであろうおしゃれなカフェだった。植物がそこかしこにディスプレイされていて、カフェミュージックが流れている。そしてお客さんも、秋めいた色彩鮮やかな服をきて、思い思いにおしゃべりを楽しんでいた。黒ずくめの自分が場違いに思えてきて、ちょっと逃げたくなってきた。


「お、おしゃれなところだね」


 目の前に座っている吉良くんは、カフェの風景によくなじんでいた。メニューへ落とされた視線で伏せられた長いまつげに気を取られていると、黒目がちな瞳が不意にこちらを見た。そして、すぐに優しそうにきゅっと細くなって微笑む。


「実は俺も初めてきたんだよね、こういうとこ」


 ちょっといたずらっぽそうに笑って周りをキョロキョロする吉良くんが、さっきよりも幼く見えて、少し可愛いと思ってしまう。変だろうか。


「これ美味しそう」


「これもいいね」


 美味しそうな食べ物の写真を見て、私たちはごく自然に盛り上がった。


 店員さんがお水を持ってきてもまだ注文を決めきれないわたしを、吉良くんはじっと待ってくれていた。そして店員さんに注文内容を伝えると、メニューが下げられて、また話題を失う。

 向かいに座っている吉良くんの方を見ることができずに、わたしはまた俯いていたけど、今日の目的を思い出して、恐る恐る声を出した。


「あの……さ、昨日、本当に、あの、その、ごめんなさい」


「いや、俺の方こそごめん! 電話出てもらえなくてちょっと怒っちゃってた。怖かったよね」


 ああ、やっぱり吉良くんはすごいいい人だ。


「古本屋も、本当はもうちょっと早く行きたかったんだけど、塾とか行事とかで忙しくってさ」


「ううん、大丈夫。もし、ふ、負担になってるなら、その……」


 ”負担になっているなら、本屋に行くのに付き合ってもらわなくてもいいから。”思ってもないことを言おうとすると言葉に詰まってしまう。


「そんなことないよ、それはない。負担になんか思ってないよ。じゃないとご飯一緒に食べたりしないでしょ?」


 そしてそうやってすぐに彼は否定してくれる。


「高校ではなかなか、本好きなやつとか、友達にいなくってさ。だから、大丈夫!」


「……ありがとう」


「お待たせしました、ランチセットです」


 食事が運ばれてきて、私たちは美味しいね、と言いながら、穏やかなひと時を過ごした。


 いつか、ちゃんと対等な、彼にふさわしい友達になれるだろうか。


 本当に美味しそうに食べる向かいの席の吉良くんを見ながら、わたしは幸せに包まれていた。


「そういえば、今日、スカート可愛いね」


 いや。さらっとそんなことをいえてしまう彼に追いつくのは、なかなか大変かも。わたしは顔が真っ赤にして、チマチマとレタスを口に運んだ。

幸せな話が書きたくて、この一週間うずうずしていました。

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