第十二話. わたしとなんかといても
ギリギリセーフかと思いきや、10時過ぎてしまいました。すみません。
「お疲れ〜す、遅れました〜」
22:08、大学生が小走りで出勤。わたし一人だと危ないからという理由で残っていた店長も帰り、今日もいつも通りの勤務だ。でも、今日は何かおかしい。なんだろう。いつも一人でレジに立っている時間が多いのに、今日は隣のレジにも人がいる。隣のレジにたった大学生は、落ち着きがなく、口元に手を当ててぶつぶつ言ったり、ズボンの後ろポケットに手を伸ばそうとしてやめたりとソワソワしている。私は気になって,ついつい,ちらちらと大学生を横目で見てしまった。
「……どうかしました?」
視線に気づいた大学生が、声をかけてきた。
「すみません、なんか今日はいつもと、違う感じが、して」
しどろもどろに答えたわたしに、大学生がにかーーっとして言った。
「そうでしょ? タバコやめたんすよ〜」
なるほど、と合点がいった。彼は超がつくヘビースモーカーで、毎時間10分はタバコをふかしに外に出るので、こんなに連続して店内に留まることがない。でも今日はレジでずっと立っているから変な感じがしていたのだ。一人でうなずいていたら、大学生は、横で幸せそうな顔をして言った。
「俺彼女できたんすよね〜。でも彼女、タバコ嫌いなんすよ、タバコやめれたら付き合ってあげるって言われたんで、やめてるんす、これ、けなげってやつすよね〜」
それはまだ彼女ではないんじゃないか一瞬つっこみそうになったが、幸せそうなのでよかったなと思う。こちらとしても、忙しい時にタバコ休憩されることがなくなるのでありがたい。
「それは、おめでとうございます」
「あざす〜〜」
大学生は鼻歌混じりで、商品整理に向かって行った。
彼女か。幸せそうだな。
わたしは、自動ドアに近い方のレジに立って、ぼんやりと外を見ていた。今日も吉良くんはこない。いつの間にか時計の針は12を指していて、わたしは期待することをやめようとした。
◆◆◆
次の日の昼間、わたしはスーパーに向かった。冷蔵庫のストックがなくなっていたからだ。頭に献立を浮かべながら商品を選んでいると、向こうのほうに見覚えのある顔がいた。
「そっか、今日は土曜日だ」
私服姿の吉良くんが、お菓子売り場で友達らしき人たち数人で買い物をしていた。やっぱり、吉良くんは別の世界の人だ。周りにいる友達も垢抜けていて、Tシャツにパーカーのわたしなんかといても、楽しくなんかないし,恥ずかしいだけだよね。わたしは気づかないフリをして、レジに向かって、袋詰めもそこそこに、自転車にまたがった。
「あ、遠藤さ……」
タイミング悪くスーパーから出てきた吉良くんの声がしたけど、振り返らずに行く。もう、期待するのはやめよう。