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第十話. 帰り道

 「エンドウさんって、今何歳なんですか?」

 日が少し傾いてきて、古本屋の袋を下げた二つの影が、白線を挟んで伸びている。傍らを駆け抜ける小学生たちが、「またなー」「明日!」とか叫びながら、無邪気に住宅街へ続く道に別れていく。それを横目にみつつ私達は歩いていた。


「今年17歳になりました」


 少し前のわたしには、制服姿の知り合いと一緒に歩いているということが想像もできなかった。


「そうなんだ!同い年じゃん!俺も17だよ」


「そうなんですか!」


「じゃあ、タメ口でいいね! 今まで、なんか微妙に敬語の方がいいかなあって思って、微妙に敬語使ってたんだけど、なんか変な感じでさ」


 横で少しテンションが変わったキラくんをみると、久しぶりに同い年と喋っているせいか、緊張してしまう。


「ねえ、エンドウユウってどういう字書くの?」

「遠い藤で、遠藤、ユウは、勇ましいって時の勇。男の子みたいな名前ですよね」

 

だから、わたしは幼い頃から、自分の名前を平仮名で、『遠藤ゆう』と書くことが多かった。まあ、自分の数あるコンプレックスの一つに過ぎないけど。


「いい名前だと思うよ。きっと、勇ちゃんのお父さんとかお母さんが願いを込めてつけた名前でしょ?」


 いい名前とストレートに言ってくれる人に初めてあった気がする。小さい頃からお父さんがわたしの名前の字を説明するたびに、「男の子みたいな名前だね」というのを聞いていて自分でも、「男の子みたいな名前でしょ」と、先手を打つことに慣れていたから。そういうと、決まって人は、「そうだね」とか「変わってるね」とか言うから。

 

「……ありがとう」


 『勇』とつけたのはお母さんだと聞いた。理由を聞く前に亡くなってしまったから、よくわからないけど。いい名前と褒められたら、嬉しいものなんだなあと思った。

「よし、これで、電話帳にもちゃんと名前登録できるね!ほら見てよ、名前知らなかったから、”コンビニ店員さん”で一旦登録したんだよ」

 そう言って、無邪気に携帯の電話帳の画面を見せてくる。いろんな人の名前が登録されている中で『コンビニ店員さん』の文字が目に入った。わたしは少し笑った。

 わたしもちゃんとキラくんの名前で登録しておこう。取り出した携帯の中の電話帳には、バイト先の店長やお父さん、弟の携帯番号、ぐらいの電話番号しか登録されていない。一瞬、高校生のキラくんとの間に目に見えない壁を感じて落ち込みそうになるが、気を取り直して聞いてみた。

「キラくんて、どういう字を書くの?」


 そういえば、キラっていうのも苗字なのか名前なのか知らない。


「キラは、おみくじの吉に、良いの良で吉良。名前は、シュン。馬編に、俊敏の俊の右側で、駿」


 吉良きら駿しゅん


「なんだか、勢いのある名前だね」


わたしがそのままの感想を口にすると、吉良くんは


「面白い表現するね。勢いのある名前って」


と笑った。さらにわたしの携帯電話の画面をのぞいて、俺が友達第一号ってやつ?やったーと、横で喜んでいる。覗かれたのはやや不本意ではあるが、キラくんが嬉しそうにしているので憎めない。


「そういえば、この前、小説書いてたって言ってたけど、どのジャンルで書くの?」


「ええと、ファンタジーを2年くらい前に書いてた」


 わたしは内心ドキドキしながら、答えた。吉良くんも小説を書くし、嫌なことを言ってくるような人ではないけど、人に一度馬鹿にされたものを口に出すのは、声が震えた。それに気づいているのかはわからないけど、吉良くんは変わらない調子で話してくれる。


「また読ませてよ。俺のこの前出したやつも、コピーとってあるしさ、交換して読まない?」

 その提案をされた時、わたしは一瞬固まってしまった。


「ごめん、小説は消してしまって」


 そんな言葉が口をついてでる。自分でもとても早口になっているのがわかった。消したこと自体は嘘ではないけど、ノートの中にはブラッシュアップ前の原稿くらいならあるはずなのに。書いた小説を人に読まれるのは、2年経った今でも抵抗がある。


「そっか。ごめん」


流石に何かを察知した吉良くんは、気まずそうに言った。

 あ、間違えた。せっかく提案してくれたのに,短い言葉で拒否してしまった。すごく冷たく聞こえたかもしれない。


「ごめんなさい……」


 わたしはとっさに謝った。


「いや、遠藤さんが謝ることじゃないよ。知り合ったばっかの人に見られるのはあんまりいい気持ちじゃないよね」


 そうじゃなくて。そうじゃないのに、これまで人とまともに関わってこなかったからか、うまく言葉が出ない。そして気まずい空気のまま、分かれ道にきてしまった。


「あの、じゃあわたしこっちなので……。今日は本当にありがとうございました」


「そうなんだ、いや、こっちこそありがとね!」


吉良くんがお礼をいう必要はないのに、いつもの口の端をニッと上げて笑ってくれた。


「じゃあ、また」


吉良くんは向こう側の道に歩き出した。


 また、って社交辞令じゃないって信じていいのかな。

 歩いていく吉良くんの後ろ姿を見送りながら、これで終わりだったら嫌だななんて、少しもうまく喋れなかったくせに思っていた。

携帯、電話帳、開く、切るのボタン……お気づきかもしれませんが、というか伝わってたらいいなと思いながら携帯の描写を入れてきたのですが、主人公と吉良くん共にガラケーを使っています。時代背景はあまり話の筋とは直接関係ないのですが、ガラケー世代の高校生という感じです。


わたしは高校に入ってすぐにスマホを手にした人間ですが、小学生の頃は、あのパカパカしたガラケーに憧れていました。


今では某アプリで相手が読んだかどうかわかるだけでなく、ビデオ通話まで無料でできてしまいます。

手軽に誰とでも顔を合わせて話せるようになりましたが、気軽に話せないからこそドキドキするものもあるんじゃないかなという、そんなガラケー世代に憧れる気持ちでこのお話を書いています。


ガラケーだったらこんな感じだったみたいな指摘をしていただけるとありがたいです。後書きが長くなってしまいました。

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