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オルガのグルメin異世界  作者: TOYBOX_MARAUDER
2/15

自称魔王の膝を折る意志の力

 夕焼け。過去と己を振り返らせてくれる、見る者を落ち着かせ、癒してくれるどこか物悲しい色の空。今日の夕焼け空は特に赤く、特に寂しさを感じさせてくれるものであった。


 今日一日の授業が終わり、ホームルームが終わったモダンなデザインの真っ白い壁の教室。その中で、花子は頬杖を机の上に突き、窓の外に広がる夕焼け空をぼんやりと眺め、黄昏ていた。


 「人型5人と翼竜1匹とかチョーウケるんですけどー」


 そんな彼女の座る前の席。椅子の背もたれに両腕を組んで乗せ、花子の姿を正面に捕らえながら脚を開いた形で腰かける、大凡お嬢様学校に居るような風貌ではない少女が1人。今の花子の様子を面白がったように眺めていた。


 ブロンドベージュの髪色、胸から下まで伸びる縦に緩いカールの掛かった髪。歳の割には女性的な体系をしていて、身長も花子と同じぐらい。まつ毛は長く、ぷっくりとした唇。大きな垂れ目で瞳の色は茶色。肌は小麦色で中学二年生にしてはませた姿。一見してギャルっぽくはあるが、スカートは長く制服の着崩し等もない、なんとも言えないチグハグな感じの少女。それの方へ花子は煩そうに片眉を顰めつつ視線を向ける。だが、目で訴えるだけ。喋ろうとはしない。


 「そういやさぁ、花子ぉ、知ってるぅ? 三年の宮野内先輩っているじゃーん」


 だが、彼女は口を閉じない。話を変え、良く手入れされた自分の爪の先を眺めながら、花子に話しかけてくる。


 「あの先輩の使い魔すっごいイケメンなんだけどぉ、噂じゃ使い魔と召喚者って関係なのにデキてるって話があってぇ」


 語尾の伸びるすっとろい話し方で始まる恋愛絡みの話。その内容は花子にとって他人事には思えぬ、あてつけたような内容だ。…だが、召喚した使い魔の中に存在する異性は厳ついの最上級をいく様な白い肌のスキンヘッドのおっさんと、まあイケメンである褐色肌、灰髪の自称魔王。前者は歳が親子程離れていそうであるし、後者に至っては可愛そうなぐらい承認欲求と自己顕示欲の強い鼻に付く性格の男。恋愛相手と言う観点から見れば、花子的には論外だった。


 「大丈夫よ。私はそういうの興味ないし」


 思春期真っ盛りであり、そういった話に興味はあるが、その己の内側にある感情。恥ずかしさからかそれを認めず否定しつつ、すました顔をする花子。そんな素直に成れず、初々しい反応を見せる彼女の様子を眺めていた少女、愛原雫は両手をパチパチと打ち合わせ、笑った。


 「はいはーい、出ましたぁ。本当は興味あるのに興味ない振りするやつぅ~、ウケる~」


 「ぐッ…!」

 

 核心を突く雫の言葉に花子の表情がバツの悪そうな引き攣ったものに変わり、小さく唸った。そしてその後で花子は姿勢を正すと机の上に両腕を置き、若干目つきを鋭くした、ムカついたような顔をして雫の方を真直ぐ見据える。


 「仮にそうだとしてもあの二人は無いから。と言うか髪染めていいと思ってるわけ? 学年主任にチクるわよ」


 「なんかぁ、あたしはパパのお陰でお目零ししてもらってる? みたいな? そういうわけだからチクられてもノーダメ~」


 「まったく、この学校も落ちた物ね。清く正しい学び舎が権力の前に膝を折るなんて。そんなんでどのツラ下げて教育者を名乗れるのかしら」


 「日本人が権威主義なのは今に始まったことじゃなくな~い? DNAレベルで刻み込まれてる~みたいな? 権力者に跪く姿勢はある意味正しい教えなのかもぉ」


 花子の精一杯の反撃も雫には全く効いた風は無く、花子が良く知るマイペースな彼女のまま、再び己の爪を眺めながら眠くなる抑揚の声で返答するだけ。…言い負かせる気がしない。若干の敗北感をその胸に、花子は不機嫌そうな顔をしつつプイッと窓の外へと背けた。


 その少し後に聞こえてくる廊下からの話し声。一人は低い男の声。もう一人はよく通る女の声だ。前者は学年主任の声。後者は…花子の使い魔の一人であるオルガだろうか。花子と雫は顔を見合わせ、そちらの方へ何となく聞き耳を立てる。


 「明日にはその髪、黒く染めてくるようにしてくださいね」


 「わざわざそうしなければいけない理由がオルガさんにはあるのかね?」


 「髪は黒。学校ではそういう決まりなんです。あなたの真似をして髪を染める生徒が出ないとも限りません」


 「ほう…ならば大多数が黒以外になればオルガさんは多数派になれるというわけだな。そうなったとき、オルガさんに同じようなことを言えるかね!?」


 「何をするつもりだッ! くっ、かくなる上は…! 猫屋敷さーん! 助けてー! 貴女の使い魔に襲われるぅ!」


 「誤解を招くようなことを言うんじゃないッ! 誰がお前の様なおっさんを襲うのだね!?」


 廊下から聞こえる会話はだんだんとヒートアップしていき、壁越しであるために具体的に何をしているのかはわからないが、危機感を感じさせる学年主任の迫真の叫びが廊下に木霊したのをきっかけに、花子の前に居て、彼女の方を眺めていた雫が目をゆっくりと見開いた。


 「――ヤバぁ。花子髪色と瞳の色変わってんじゃーん」


 「アンタも目の色変になってるわよ」


 雫はそう言って化粧ポーチの中から手鏡を取り出し、それを花子の方へと向けた。そこに映るのは見慣れたブラウンの髪ではない、濃紺色の髪色の花子の姿。黒かった瞳は碧に。良く見れば眉毛もまつ毛もその色に変わってしまっている。花子は冷静沈着な表情のままそれを暫く見据えた後、髪色は変わらないが、瞳の色がブラウンベージュになっている雫の頬へと手を伸ばし、その小麦色の頬を強く抓った。


 「いったい! 何すんだよぉッ!」


 頬に感じる痛み。それを齎す花子の白い手を雫は払うと目じりを吊り上げ、抗議の声を花子へとあげる。だが、花子はそれを聞いていない様子で己の前髪に手をやり、色の変わったそれを注視していた。


 「夢じゃないのね…」


 「人のほっぺ抓って確かめるぅ? フツー。あー、痛かったぁ」


 雫の反応を見て、これが現実であることを理解する花子。抓られた箇所を摩りながら少しばかり涙目になって恨みがましく言う雫。その最中、また廊下からオルガと学年主任の声が聞こえてくる。


 「見えるかね。君の髪色はピンク。瞳の色もピンク! これで黒髪、黒目は数ある物の一つでしかなくなった。つまりそれ以外は多数派…その多数派が黒髪に染めろと言われて大人しく従うだろうか?」


 「髪色までならまだわかる…でもなぜ…なぜ瞳の色までッ…!」


 「なんか黒髪黒目多くて没個性だと思ったから変えました」


 「えぇ…そんな軽いノリで変えちゃうんすか…つか、コレ既存の物事を書き換えるヤバい使い魔では」


 「すまんな。淫乱ピンク。ご主人を迎えに行かねばならぬ故…お前と遊んでいる時間はもうない」


 「あっ、変なあだ名付けないで貰えますか? 生徒たちにまで伝播したら困ります」


 廊下での会話が途切れた直後、花子と雫の居る教室の引き戸が開けられて、その向こうから白銀の髪の髪の背の高く、身体の大きな女が現れた。それは前髪で隠れていない左目の、その瑠璃色の瞳に花子と雫を映すと真直ぐ向かってくる。その手には目を現す様な紋章が書かれた、ラミネート加工された小さなカードがあった。自然とその教室内にいた花子と雫の視線はオルガの方へと向く。


 「身分証明証貰えた?」


 歩み寄ってくるオルガを眺めつつ、花子は再度頬杖をついて問いかけた。…授業の後、何かと話しかけてきたため、ある程度は打ち解けており、もう敬語で彼女とは喋る気にはならなかった。


 「貰えたとも。何に使うのか知らんけど。ん」


 オルガは花子と雫の近くにある机の上に腰かけて、その手の中にあるカードを指先に挟むとそれを花子の方へと差し出した。だが、花子はそれに視線をやるだけで受け取ろうとする素振りは無い。


 「それは貴女が持っておいて。捨てたり無くしたりしてはダメよ」


 「御意」


 花子の言葉を聞いたオルガは素直にその言葉を聞き入れ、手を引っ込めるとカードを懐の中へとしまった。


 ふと気が付けば二人の会話を眺めていた雫。彼女の影が真っ黒く染まり、そこから這い出てくる銀眼の黒い大蛇。それは、雫の座る椅子を中心に教室内にある机や椅子になるべく触れない形で教室内を這って行き、その全体を露わにする。…長さは10メートルほど。艶々とした真っ黒い鱗に覆われた、美しい大蛇。鋭利な矢じりの様な三角頭の頭頂部には、オルガが持っていた身分証明証にも描かれていた目の紋章も見える。


 「ニョロニョロ~。お帰りぃ~。花子ぉ、登録済んだみたいだし、あたしたちも帰ろ~」


 「そうね…嗚呼…今日の事、爺になんて説明したらいいのかしら」


 花子と雫の話が済み、二人が立ち上がったところで雫の使い魔であるニョロニョロは彼女の影へと潜り、その影へと溶け込んでその色を濃くした。


 「ちょーおりこぉ。やっぱあたしのペットなだけあるぅ」


 きっともう学校の前で待機しているであろう送迎の車。それに5人と1匹が乗れるスペースは無い。能天気な様子で自分自身の使い魔を褒める雫の隣にて、花子は気を揉みながら先導するオルガの後ろへと続く。そして廊下を歩き、昇降口を降りて校舎のエントランスホールへ。そしてそのまま校舎の外へと出る。その先にはこちらに背を向ける、黒い軽装鎧の男の姿があり、真っ先に視線が行くのはその髪色。灰色だったそれが白に近いものに変わっていた。


 「遅いッ。この私、ウィンゲルフ・ザルガン・ドレルヴァインを待たせるとはいい度胸だ…小娘…」


 彼はゆっくりと振り返り、最初見た時よりも幾分か白くなった瞳で花子を見据えた。少しばかり髪色、目の色が違う花子に一瞬だけ驚いた風にして。…彼の瞳の色と髪の色。自称魔王の彼にもオルガがやった何かが作用していることが解る。ただ、花子は彼が主張する魔王だなんて言う肩書が本物だとは思っていないため、白けた目で彼の顔に視線を送っていた。


 「そのキャラ疲れません?」


 「…疲れないが?」


 「なぜそこでキャラ作ってることを認めてしまったのか。やる気あるんですか?」


 「くっ…ええいっ、黙れ黙れぃ!」


 丁寧な言葉遣いではあるが、どこか白けたような花子の雰囲気と突っ込み。それに圧されたようになるウィンゲルフ。一生懸命恰好を付けようとしている風ではあるが、それがツッコみ待ちのものであるのか、それとも天然なのか。判断しかねるような絶妙な反応を彼は見せてくれる。彼と出会って半日が立とうとしているところであるが、ガンガン絡まれる花子は若干ツッコむことにも疲れて来ていた。だが、そんな彼女の前で彼は騒ぎ続けている。とても元気に。


 「お迎えに上がりました」


 騒ぐウィンゲルフとそれと対峙する花子。その直ぐ傍に30代ほどの黒いスーツ姿の男がやってきて、雫の前にて左手を腹部に、右手を背に当て丁寧な一礼をした。…使用人か何かだろうとそれを見ているオルガは意味もなく推測する。そのサービスを受ける少女の姿は余り似合わないものだと思いながらも。


 「花子ぉ、ばぁ~い。また明日ねぇ」


 「えぇ、また明日」


 雫は肩の高さで手を振りながら花子に挨拶し、己の執事の方へと歩み寄り、執事は彼女からカバンを受け取るとエスコートする形で歩き始めた。花子もそれに軽く手を振って見送る。雫が行く先には校門の向こう、ピカピカに磨き抜かれた黒い高級車が止まっていて、その傍には黒い運転手用の制服に白手袋、制帽を身に着けた男が頭を下げている様子がある。


 「なるほど…ここは名だたる名家の令嬢たちが通う学校…その選ばれし才女の中でとびぬけた才能があるお前だからこそ私を召喚できたわけだ…解るぞ。貴様の血族はこの世界に置いての伝説なのだろう?」


 雫が執事のエスコートの下、磨き抜かれた高級車に乗り込んでいくその様子を腕を組んで眺めていたウィンゲルフは何か核心を突いたように、格好をつけた雰囲気で言い、花子の方へと振り返った。…こいつに敬語など使う必要はないのでは? 自信満々なウィンゲルフをジト目で見据える花子は唇に舌を這わせた後、口を開いた。


 「残念。私の家はただのお金持ちよ。聞いた話じゃ父方の祖父は住む場所すら確保できないほど追い詰められたときがあるらしいわ」


 「なんと…名家どころか成り上がった下賤ではないか」


 無神経なウィンゲルフの言葉。それに花子は片眉を吊り上げ、気に障ったかのような表情でウィンゲルフを見据える。だが、家柄を貶されることは慣れっこであるため、確かに怒りは覚えはするものの掴みかかったり怒鳴ったり。そういった行動を起こすほどのものでもない。


 「そうね。アンタはその末裔に召喚されたってわけ。お似合いだと思わない?」


 薄ら笑いを口元に浮かべた花子からの強烈な皮肉。鈍感なウィンゲルフにもそれが何を言わんとしているか伝わり、彼の目じりもやや吊り上がる。険悪な雰囲気。睨み合う両者。そんな二人の様子をオルガはすっとぼけた顔をして眺めているだけで役に立ちそうにない。


 両者の間に流れる少しの沈黙。交差する視線。ギリリッと花子は歯を鳴らすと右手を勢いよくウィンゲルフの方へと開き、差し向けた。


 「使い魔の癖に生意気ねッ! 召喚者権限を持って命じるッ! お座りッ!」


 歯切れのよい、強い意志の宿った花子の言葉。召喚者から発せられたそれは、ウィンゲルフの膝を折らせ、両手は身体の前の地面に脚は開く形でしゃがませた。だが、命令は完全なものではないようで、彼は何とかその態勢から抜け出そうとも身体の一部を動かしている。


 「ぬぅッ…貴様っ、こんなことをしてタダで済むと思うなわん!」


 自身の身体に巡る抗うのが難しい強い力。ウィンゲルフはそれに戸惑いながら、己の目の前にゆっくりと歩み寄り、屈んだ花子の顔を見上げる。


 その時の花子の顔はなんだか勝ち誇ったような顔をしていた。口元から白い歯を覗かせ、嘲笑にも似た笑みを浮かべて。そして間もなく、ウィンゲルフの前に彼女は左手の手のひらを上に向けて差し向ける。


 「お手ッ!」


 「わんっ!」


 「お代わりッ!」


 「わんわんっ!」


 テンポよく発せられる花子の命令。それにウィンゲルフは犬の様な鳴き声を発しつつ、まずは右手を、その次に左手を差し出された花子の手のひらに置いて行く。…これがなんだかウィンゲルフには良く解らなかったが、彼にとって屈辱的な物であった。その表情もとても険しい物となっている。――だが、花子の厳しい目は彼を許した風は無い。


 お座りの体制のウィンゲルフの前でゆっくりと立ち上がる花子。静かに、ゆっくりと吐き出される息。そして瞳を閉じ、鼻からゆっくりと空気を吸い、肺を満たす。その次の瞬間閉じた瞳を開き、真直ぐな目でウィンゲルフを見据え――

 

 「ちんちんッ!」


 歯切れよく言い放った。それにより、屈辱にその表情を歪めていたウィンゲルフは膝立ちになり、両手を己の胸部の前へと出すポーズとなった。その時の彼の顔は羞恥と屈辱とで真っ赤に染まっていて、その目は微かだが涙目になっていた。


 「くぅーん…」


 今の彼は言葉すら奪われており、悪態を吐くどころか弱弱しい犬の様な声を発するのみ。それは、怒りよりも羞恥に参った彼の心情を現しているかのようなか細いものだった。その間抜けな姿に花子は口角を鋭く吊り上げ、片手の甲を口元に当てた。


 「クッ…あーっはっはっはっ! 良い様ね! 鏡でその痴態見せつけてやりたいわ!」


 ムカつく相手を屈服させた快感。その相手の間抜けな姿。それに花子は高笑した。それは楽しそうに、生き生きとした様子で。そして一頻り笑った後、上半身を前に少し倒しながらウィンゲルフの額に向けて指を立てると口を開いた。


 「次私をムカつかせてみなさいッ! 死にたくなるレベルで恥ずかしいことさせてやるわッ!」

 

 「うっ…うわわぁー!」


 花子が発した言葉が言い切られたのをきっかけに、ウィンゲルフの身体を支配していた力は抜け、彼の身体は自由になる。だが、自称魔王である彼は花子に対して報復するようなそぶりは見せず、足元に突如として現れた黒い水たまりの中へと泣き叫びながら引っ込んだ。…穴があれば入りたいほど恥ずかしかったのだろう。花子はそんな彼が消えた辺りを見下した後、遠目に見える校門の向こうに止まった真っ白い高級車へと視線をやった。今の花子の傍にいるのはオルガだけ。雫が居た時と比べてだいぶ静かなものとなる。


 「アンタって役に立たないわね」


 「ふふっ、まあな!」


 「褒めてないわよ」


 徹頭徹尾傍観に徹していた己の傍にいるであろうオルガへ花子は文句を言いながら、白い高級車から降りてきた老人に目をやる。自分の送迎を担当してくれている使用人。それの訪れは今日一日の学校生活の終わりを花子に伝えてくれる。


 「それで、他の連中はどうしたのよ」


 「んー? しらね。たぶん街の中歩いて見て回ってるんじゃね」


 「…変ね…ある程度の距離離れた使い魔の位置は召喚者に伝わるって話だったのに」


 「そういうときもあるさ。知らんけど。向こうはご主人の居る場所把握してるだろうし、帰っちゃって大丈夫。夜中には集まってくるだろうし」


 こいつらは本当に自分の使い魔なのだろうか。出現した時の様子、大まかにすら把握できない位置。若干疑わしく思えてくる花子であったが、いろいろあって疲れたため、考えるのを途中で放棄して校舎の向こう側に見える、白い高級車の方へと向けて歩いて行く。


 寡黙な年老いた使用人は、髪の色や瞳の色が変化した花子の様子に目をパチクリさせていたが、言葉を発さずに花子へと頭を下げると高級車のドアを開けた。花子はそれの中に乗り込み、オルガもその後へと続く。意外と驚いた顔をすることもなく、珍しい物でも見るかのような目をしながら。


 ドアが使用人によって閉められ、彼が運転席へと付いたところでゆっくりと動き出す高級車。それは花子の家へと向けて進み始める。窓の外に流れる街並みは夕焼け色から夜の色に。朝自宅を出る前は前代未聞の使い魔を。そう息巻いていた花子であったが、今はもうそんな面影もない。想像以上に面倒そうな使い魔たち。ただそれに疲れ果て、アンニュイな顔をして、その変わってしまった碧い瞳に夜景を映していた。

ちんちん…犬の芸の一つであるこれの語源は「鎮座する」から来ているらしい。…本当かァ!?(下種の勘繰り)

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