表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オルガのグルメin異世界  作者: TOYBOX_MARAUDER
11/15

恋する魔王の協力者

こっちは久々の更新です。まさひこの方と世界観がめっちゃくちゃずれているように思われますが、それは猫屋敷さんの使い魔の間の話。彼らにフォーカスした時…そんな一面が見えてしまうこともあるんですね。

 

 鳴り響くチャイムの音色。暖かな太陽の光に黄色味が増し、より優しくなる時間帯。

 ネオ中野魔術学校の敷地内に存在する使い魔たちのためのスペース。

 その中の一部である…広葉樹が空を適度に覆い、木漏れ日がところどころに散る、白い石畳の敷かれた庭の中…ウィンゲルフは歩いていた。

 トボトボと…肩を落とし、周囲に散見出来る様々な姿をした、使い魔の中に混じって。


 「おっさん、その絵売れそうじゃね?」


 ふと、ウィンゲルフの耳に聞き覚えのある女の声が微かに届く。


 「画材の持ち出しはダメだと聞いたが」


 次に聞こえるのは…低い男の声。ウィンゲルフにとって聞き覚えは在りはするが、余り聞く機会のない…耳馴染のない声。


 「自分で作った作品は持ち帰ってもいいって淫乱ピンクが言ってたぞ」


 返される女の声。

 何気ないその世間話のする方にウィンゲルフの足は向く。

 心に感じる寂しさ。虚しさを紛らわさんと…吸い寄せられるように。

 探すまでもなく、すぐに見えて来たのは二つの人影。一つはキャンバスを前に大きな木を囲う、腰かけるのにはちょうどいい石板の囲いに腰を据えていて、もう一つは前者の傍らに立ち、それが向かい合うキャンバスを横から覗き込んでいた。

 ウィンゲルフにとって見覚えのある…ネイビーのミリタリーシャツとカーゴパンツ主体の地味なファッション。猫屋敷製作所製の衣類に身を包むそれらが。


 「おい、何をやっているんだ?」


 木漏れ日が落ちる森林浴に最適な庭の中、それらにウィンゲルフはやや尊大な態度で声を掛けた。


 二つの人影の内の一つ。イグナートは以前とは違う色の、灰色の瞳を動かしウィンゲルフを一瞥しただけで、樹木を丸く縁取る囲いに腰かけたまま、己の前に展開されたキャンバスに立てられた画用紙に筆を走らせるだけ。とても冷ややかだった。

 しかし…もう一つの影。オルガは…ウィンゲルフの方へと顔を向け、彼の顔を注視し…その後で身体ごと振り返って胸を大きく張り、両腕を開いた。


 「ゲル、話なら聞くぞ。聞くともさ…! お前はオルガさんのお友達なのだから…!」


 きっと人が大好きなのだろう。イグナートとは違い、オルガは…ウィンゲルフの様子を見て何か察したようで、明るく、優しく語り掛ける。相変わらずふざけた口調ではあるが、少なくともウィンゲルフにとって悪意を感じられるものではない。

 そしてそれは…長らく人の優しさに触れて来なかったウィンゲルフの心を振るわせて、涙を誘う。涙の痕が残る頬に、もう一度潤いを与えるかのように。


 「おぉ、よしよし。可愛そうに。どうしたんだ? またプリケツに泣くまでイジメられたのか? ん? あいつは本当に嫌なプリケツだよなぁ」


 オルガは追い打つ。広げた腕を下げつつ、ウィンゲルフへと近寄って頭を撫でて。

 けれどウィンゲルフは耐える。表情筋をフル活用し、頬肉を上方へと持ち上げて、ものすごい顔に成りつつ。子供扱いされていることを理解しながらも…オルガの手を払う余裕もない。こらえるのに全身全霊を出して居なければ、涙がこぼれ落ちてしまいそうだから。

 ただただ、片肘を張り、身を振るわせてギュッと拳を握りしめるだけだ。


 「ちっ…違ッ…違わいッ! 泣いてなんか居ない…ッ、イジメられとりゃ…ボコられとりゃせんわいッ…!」


 「無理をするな。ゲル。強くあろうとしなくてもいいのだ…幾ら魔王と呼ばれるほど超常的な存在になろうとも、感情が…心が人の域を出ない限り…そこから生じる脆弱さは克服できはしないのだから!」


 本心の解らぬオルガの…安っぽくも思える言葉。立て続けに心を叩くそれは、強くある事を常に強いられてきたウィンゲルフは涙腺を決壊させた。

 頬を伝う大粒の涙。木々の枝葉を抜けて差し込む木漏れ日の中、影と共に揺れるそれは煌めきながら重力に引かれ行く。


 「…うぅう~…オルガぁ…お前はッ…やざじいなぁ…!」


 地獄。見る者に見る者に驚きと憂鬱を運ぶそれは、そう言い表せるもの。

 身長180センチほどの大の男がそれよりも10センチは背が高いであろう女に頭を雑に撫でられ、顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくる様は…それだけのインパクトがあるものであった。

 人としての心を持つ周囲の使い魔たちは異様な光景に口を開き、声もなく、ただその場から通り過ぎていく。戸惑いに目を丸くする者、訝し気に、微かに眉間に皺を寄せる者どもが。

 異常。それに向けられるであろう肯定的とは言えない視線を気にすることなく、オルガはウィンゲルフの頭から手を退けて、木の根を丸く縁取る石囲いの方へと移動。その上へと腰かける。


 「まぁ、話して見たまえよ。オルガさんなら何か力になれるかもしれない」


 そう言って、オルガは己の隣を片手でポンポンと叩き…促されるままにウィンゲルフはそこへと腰かける。

 溢れる涙を手の甲で拭い、肩を震わせながら。


 「…昔から好きだった奴に好きな奴が出来たらしい」


 安全圏に居る人間。当事者ではなく、他人事して聞けるならば大変興味深く…楽しく思えそうな、俯くウィンゲルフから発せられた話。

 他人事として楽しむのにはなかなかの上玉ではあったが…オルガはまた異なった捉え方をしたようであった。

 眉毛をハの字に、どことなく困ったような、気障な笑みを浮かべて。


 「――フッ…オルガさんもなかなか罪作りな奴よ…」


 静かに目を閉じ、オルガは右手を己の右目に。それを覆い隠す白銀の髪に長く白い指を絡め、人差し指で弾けばミントの清涼感、メロンの様な甘さが混ざった香りが風下にいたウィンゲルフの鼻に届く。

 その頭がスッキリするような香りに、誘われるようにウィンゲルフは顔を上げた。その香りのした方向に目をやれば、自信満々で気障な微笑を浮かべたオルガの横顔がある。


 「ネオ中野休戦協定の時、ビシッとやったからからなぁ~。オルガさん。これは惚れられても仕方がない。なっ、おっさん」


 自分を元気付けるためにあえて道化を演じているのか…それとも本気か。ウィンゲルフには解らない。けれどオルガの可笑しな言動は、ウィンゲルフの気持ちを明るくさせて流れていた涙を止めさせた。


 「…だといいな」


 しかし、イグナートは全くと言っていいほど態度を変えない。

 言葉は返すが味気のない反応のまま、キャンバスに絵を描いて行くだけ。そしてそこに描かれるのは、明らかにここの風景ではない…砂と夕暮れ時の城壁。崩れたそれの廃墟の絵だ。


 「あぁ、おっさん…それはいけない。素っ気ないな。元気がない!」


 「いつも通りだろう」


 余り人に興味が無いのかもしれない。

 イグナートの反応は本当に淡々としたもので、徹頭徹尾平坦なものだ。ダメだしするオルガの言葉にすら…味気なく返すだけ。ただ絵を書くことに注力しているようだった。

 けれどオルガはそんなイグナートの事に対して特に思う事も無いようで、すぐに視線をウィンゲルフの方へ。その青みの強い瑠璃色の左目に一生懸命涙を親指で拭うウィンゲルフを映す。


 「それで…ゲル。君はどうするんだね? 指を咥えて見ているつもりかッ?」


 「止せオルガ。ウィンゲルフを惑わすな」


 人の恋路を引っ掻き回したい魂胆の伺えるオルガの問いは、呼び水となり…今さっきまで淡々としていたイグナートの感情の宿る声。どこかその行いを呆れつつ、咎めるかのような抑揚の言葉を引き出した。


 「いいだろぉん? 女ってのはなぁ、愛するよりも愛されたい…そんなめんどくさいって言うか、怠惰な一面があるものなんだよ。なのでゲルが猛烈にアタックすればワンチャンあるとオルガさんは思うんだ」


 「それはただの独りよがりだ。意中の相手を本当に愛しているのであれば、そいつの幸せを願ってせいぜい見守る程度にしてやるべきだ」


 自分本位か相手本位か。面白がって強硬路線を推すオルガと真面目に考え傍観を推すイグナート。

 そんな二人の考え方、意見を聞き…流されそうになるウィンゲルフは顔を横に強く振り、己の頬をぺチぺチと二度ほど叩いた。が、まだ表情は曇ったまま。迷ったままで…彼は俯き気味に小さく唇を動かした。


 「…俺は…俺はッ…どうするべきなんだ――うぐっ!」


 「バッキャローッ!」


 オルガとイグナートの意見を聞き、両方に正しさを見出しつつ…なおも迷い呟くウィンゲルフの胸倉に、突然立ち上がったオルガが右手で掴みかかった。


 「そんなウジウジしてて女神が微笑むとでも思ってんのかァ! 恋愛ってのは自分が狩るか、誰かが狩るか…! 椅子取りゲーム…互いを食らい合う孤立無援の狩り。狩人として獲物を欲するなら仕留めに行かねば獲物にはありつけんわぁッ!」


 説教っぽいことを言いながら、オルガは持ち上げる。慎重180センチほどのウィンゲルフの身体を…難なく、片手で。

 対する足が浮くウィンゲルフは目を真ん丸くしている。浮遊感を感じる足を左右にプラプラさせながら、まるで目からうろこが落ちるかのような…そんな表情で。


 「記憶違いだったらすまん。狩人だった試しがあったか? お前が」


 「おっさんはうるさい。解っていない…獲物として狙われる立場だったからこそ見える景色があるということが」


 共に行動する間、色恋沙汰に於いてのオルガの立ち位置。それを見てきたイグナートが諭し、オルガの反論。

 二人のやり取りで偉そうにご高説を垂れるオルガの背景をウィンゲルフは察し…今、ゆっくり下された彼女の手から解放された時――ウィンゲルフは口を開いた。


 「…やっぱり一度思いの丈を語るのもありかと思えてきた。割とその…オルガの言っていることが我が心の琴線に触れたというか…」


 「そぉだ。ゲル。結果がどうであれここでやっておかねば後悔する。己を前に進ませるためにも…やるのだ…。オルガさんは見守っているぞ。お前の雄姿を…!」


 普段は見栄っ張りだが、素直で感受性が高く、影響を受けやすいウィンゲルフに…其れっぽいことを言うことに定評のあるオルガ。二人の親和性は案外高かったのだろう。

 ウィンゲルフは奮い立った。右手を握りしめ――気持ちを新たにしたような表情で。味わい深い顔をし、親指を立てるオルガに見守られながら。


 ――しかし、その時…絵を書いていたイグナートが筆とパレットを置き、音を立てずにゆっくりとした動きで立ちあがった。


 「お前のその決定を否定するつもりはない。しかし…試させて貰おう」


 「どうしたおっさん」


 唐突のイグナートの発言。見据えられるウィンゲルフは寝耳に水と言った風にポカンとし――イグナートと付き合いの長いであろうオルガは何か察したような顔をし、次の瞬間、辺りは別世界へと早変わった。周囲がその色に塗りたくられるかのように。


 待っ暗い空を背景に…浮かぶ青い星々。近く大きく見える幾多もの青い惑星。自分たちが立つ場所は白い石畳の敷かれた地面の断片と形容できるもので、自分達の居る浮島の他に、似たような物が大小さまざまに散らばっている。

 青い光源しか見当たらないが、白い光に当てられたような色彩の世界に今居ることに気が付いたウィンゲルフは思わず辺りを見回す。


 ――転移魔法…? 詠唱も何も――…


 ふと、そこでウィンゲルフは顔を前へと向けた。大きな身体のそれの接近に気が付き…身構えて。


 「ゲル、どうやらお前はおっさんに気に入られてしまったらしい。がんばれ! 全身全霊を以て殺す気で行くんだ!」


 距離を縮める二人から少し離れた場所では…ウィンゲルフにエールを送るオルガ。右手を振り上げつつ語る彼女の声にウィンゲルフの目は鋭くなった。


 「構わんが――後悔はせんな?」


 嘗てたった一人で世界と対峙した男。ウィンゲルフ。嘗ての魔王だった男の目に危険な光が迸る。

 そして消えていく。暗く深い靄の中に――口元に笑みをたたえながら。


 「お前に何ができるか見せて見ろ」


 「見る間も無く終わってしまったら謝ろう」

 

 魔王ウィンゲルフ。世界を手中に収めかけた男の戦いが今、その場に顕現しようとしていた。偉そうに言う大男の前で…砕け散った世界の中で…音もなく。静かに。


 星空を背に光が瞬く。地獄の業火や神の雷。散った地面を焼きごかし、粉微塵に分解するそれらが――落ち着いた配色のその世界を彩り、染め上げて。




 ◆◇◆◇◆◇




 いったい何なのかよくわからない世界。

 誰かが悪戯に踏みにじり、破壊の限りを尽くし――片付けもなされないまま放置されたオモチャ箱の様な惨状。そんな世界の中に輝いていた様々な光は、もう見えなくなっていた。


 「助けてーッ!」


 響く迫真の叫び。

 一抹のおふざけも、他意もない真心からの悲鳴。

 頬に殴られた様な痕のついたウィンゲルフは逃げていた。何をやってもどうやっても止まらず、攻撃など一切受け付けず…隙を見せれば殴りつけてくる追跡者から。


 「うひぃっ!」

 

 砕け散った地面のかけら。浮かぶ星々。逃げても逃げても現れる――厳つさの最上級を行く、巨躯のつるっぱげのおっさん。

 嘗て魔王として君臨してきた時と同じようにどんなに早く移動しても、時を止めても…概念を捻じ曲げても――それは平然と現れる。何処からともなく、己の行く先々に…背後から、浮かぶ地面の断片から…髪が、四肢が、剣が通り過ぎ、一瞬遮られた視界の向こう側から。気のせいかもしれないが…複数人いるようにすらも感じられた。


 「っ…ブッ! カハぁッ…!」


 流れゆく景色の節々にチラつくそれらに怯え、あちらこちらに視線をやっているとふいに飛んでくる握りこぶし。身を引いて避けたと思えばそれは無く、避けるために移動した方向から横っ面が殴りつけられる。

 そしてその一撃に…ウィンゲルフの身体は落ちる。大地の断片。その上に立った城壁の一部に身体をバウンドさせ、城壁の縁に身体を叩きつけられたところで漸く停止して。


 「うぐおおおっ…!」


 頬を両手で押さえ、灰色の城壁の上にて蹲るウィンゲルフ。彼の前にそれはまた忽然と現れる。

 ――蹲るウィンゲルフを見下すように――彼を追い、追い詰めていた男が。


 「まてい…お前に何をしたというのだ! この俺がッ!」


 「実際の戦いには待ったはない」


 「へぇっ…!?」


 半ばヤケクソになって吼えたウィンゲルフ。彼がふと顔を上げてみると、イグナートが立っていて、相変わらず腹の内が読めない表情で――拳を振り上げる様子がある。


 「やめろぉッ…!」


 思わず、ウィンゲルフは顔を伏せ、両手を己の頭の前で交差させて両目を強く瞑り…歯を食いしばるが――何時まで経っても思っていた衝撃は自分を襲わなかった。


 「ッ…?」


 再度顔を上げてみると腕を組み、こちらを見下しているイグナートの姿があり…彼は屈み、膝立ちになる。

 急な行動に身を引き、驚いたように目をパチクリするウィンゲルフとの視線の高さを近づけるように。


 「これが本当の戦いならお前が死ぬだけで終わりだ。しかし、お前に守るべきものが居た時、その後はどうなる?」


 どことなく、諭すようにイグナートは言葉を投げかけてくる。少なくとももう戦うつもりは無いようで、攻撃しようという素振りは見えなかった。

 なんとなく言わんとしていることが解ったような、解らなかったような。そんなイグナートの腹の内を断定できないウィンゲルフに構うことなく、イグナートは続ける。静かながら目つきをより険しいものにし、己の前に丸太の様に太い腕を出し、拳をメキリと鳴らして握りこぶしを作って。 


 「力及ばなかった…そう思った時には遅いんだ。後悔してからでは…残されてからでは…」


 鈍感でないのなら彼が何を言おうとしているか…気が付くだろう。それはウィンゲルフも例外ではなく、伝わっていた。イグナートが何を自分に訴えているのかが。

 そして同時に見える。彼の何がそう言わしめているのか。背景が…決して己を痛めつけたいがためにしたことではないと…この一方的な戦いの意味が。


 ――まさか…リチアを想う俺の為に…?


 極めて手荒いやり方であるが、今まで味わったことのない優しさ。真心だった。

 厄介払いで送り出された勇者としての旅。用済みになり、謀殺されかけた時に味わった人の浅ましさ。そんな人の闇を見ながらも、人を信じたかったウィンゲルフの心に染み渡る。砂漠の砂地に落とされた清らかな水の様に。

 優しさが…淡く、時には欺瞞にすら思えた人の心。自分が信じた、信じたかった思いがやっと肯定されたような気がして。


 ――…いっ…イグナートの兄貴…!


 イグナートを見上げるウィンゲルフの銀の瞳は涙の光沢を放つ。息を一度大きく吸い込み…感極まったように眉を上げ…光源の解らぬ周囲の光をより瞳に煌めかせながら。

 ふと頬に感じる何かが頬を這う生ぬるさ。それが涙であろうことなど今のウィンゲルフにはどうでもいいことだった。

 思い出に縋り…怒りと憎しみで身を焦がしながらも進んだ、人の闇で覆われた暗い道。彷徨った末に漸く人の闇が晴れた気がしたから。


 「お前はまだまだ成長できる。さぁ、立つんだ。鍛えてやる」


 「あっ…兄貴ぃ…!」


 涙を流すウィンゲルフに何か言うこともなく、イグナートは言うと立ち上がり――ウィンゲルフは二度ほど頷いて立ち上がる。目をうるうるさせながら…縋る様に声を発しつつ。


 そんな一部始終を少し離れた場所。彼らの居る上方に浮かぶ浮島の上から見下ろしていたオルガはなんだかほっこりした顔をしていた。


 「ゲル、よく頑張った。そしてそろそろおやつの時間だと我が心が訴えかけるタイミング…オルガさんは引かせて貰おう」


 オルガは背景の暗闇に溶ける形で姿を消す。

 残るは拳の構え方を教えるかのように何か言いつつ身構えて見せるイグナートと、独善的で押しつけがましくも感じられそうな優しさを受け、素直に真似をするウィンゲルフの姿であった。

 背景の星空。酷く滅茶苦茶な世界の中、砕け散った大地の浮島。その上に立つ城壁の断片の上にて。

まさひこの方にヒロインいるのかって感じは正直しますけど…これだけは言える。ウィンゲルフ君はこっちでのヒロイン枠かもしれない…と。


オルガさんの情緒が不安定過ぎだって? 彼女はそういう性格なのさ。躁と鬱が瞬時に入れ替わる様な奴なんだよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ