豪雨
暗闇で2人はベッドに寝そべる。
「また朝が来たよ」
大雨警報が出た夜。アパート2階の角部屋。窓に風で揺れた木の枝が当たる。こんな日は何をしようとも思えない。俺は静かに眠りにつこうとしていた。草木が雑音を掻き立てる。ドンドンドンと扉にも風が当たる。
ドンドンドン…ドンドンドンドンドン…ドンドンドンドンドンドン
何かおかしい。窓に草木が当たってうるさいのは分かる。しかしドアには何が当たっているんだ?人がいる。人がドアを叩いているのか。こんな夜中に、こんな天気の中。誰だかわからないが本当に人か確認しないと俺は眠れそうにもない。恐る恐るドアに近づく
「おいなんだよ、こんな夜中に」
チェーンをつけたままそっと鍵を開ける。
バン!!!ガチャガチャガチャ
何かが鍵を開けた瞬間にドアを開けようとする。
「うち呼び鈴あるんだけど、そんな叩かないでくれない?」
冷静を装おうと必死にジョークを言おうとした俺自身の震える声に笑ってしまう。
「おい、クロ…ちょっと入れてくれないか」
その声はツカサの声だった。
「おいなんだよ!ビビらせんなツカサ。急にどうしたんだ」
急いでチェーンを外し、ずぶ濡れで震えるツカサを部屋に入れる。洗面所で服を脱がせ、急いでバスタオルをツカサに投げた。俺もタオルを持ちツカサの頭を拭く。いつ見ても綺麗な白髪だ。ツカサは生まれつき色素が薄い人間らしい。それが原因で中学ではいじめられてたっけ。
「あ…クロごめん」
ツカサの頭を見てた目線を下向けると、ツカサが持つバスタオルが破れていた。
「え?いやいやどうしてそうなったよ」
とても申し訳そうにだんまりとしているツカサを見て何かしら言えないことがあるのはわかった。草木の音が静寂に安心感を与える。
「落ち着いたか」
俺の問いにツカサは頷く。2人静かにベッドに座る。これ以上何を話せばいいのか、幼馴染のはずなのに今までどうやって話してきたかわからないほどの緊張感に包まれる。
「僕が吸血鬼になったって言ったら笑う?」
ツカサはぽつりと呟いた。なんて?吸血鬼?急に放たれた言葉で俺は混乱したが、ツカサは表情ひとつ変えずに続けた。
「人間を真似して人間界に紛れ込む希少種がいるって大学の講義で習っただろ?僕も半信半疑だったんだけどさ。マリの家に行ったんだよ。そしたらあいつ吸血鬼だったらしくてさ。噛まれて僕も吸血鬼に、って感じでさ…」
同級生のマリにやられた?意味がわからない。俺は驚きと怒りでツカサの目をじっと見たまま動かずにいた。
「それはお前とマリが寝たってことか?」
ツカサが吸血鬼になろうがどうでもいい。俺にとって大事な部分はそこだった。
「え、いや、寝てない。ああ、寝てないよ。そういう雰囲気になる前に噛まれたから逃げてクロの家まで来たんだ。そのうちに爪も歯も鋭くなったから…」
続けようとしたツカサをベッドに押し倒した。
「クロ?」
「俺よりもマリの方がやってもいいと思えたのか?」
違う、ツカサにかける言葉はこんなはずじゃなかったはず。
「お前は女としか寝ることができないかもしれないが、俺はお前を」
ツカサの頬を静かに涙が流れる。
「クロ…泣かないで。僕はまだ何も言ってない。なんで僕がここに来たか。どこにだって逃げることができたのにクロがある場所に来たのはクロの血を吸いたいと思ったから」
「じゃあ噛んでくれよ!俺もお前と同じ吸血鬼に」
「それはダメだよ。僕はクロと永遠にいたいけどそんな姿にはなってほしくない…本能のままにクロの家まで来たけど僕はクロにこのことを話すだけで帰るつもりだったのに」
「僕の想いが溢れちゃったじゃん」
音ひとつない静寂の中、カーテンが閉められた部屋は隙間から少し日が入ってきていた。
「クロ、ちゃんと講義聞いてた?異性である吸血鬼から血を吸われると相手も吸血鬼になって子孫が作られるんだけどさ、同性同士だと人間の方が変化に耐えられずに、ね。僕の願いは叶ったからいいけどさ」
色白の青年2人は眠りについた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
彼らはどうなったのか、お読みいただきた方それぞれのご想像にお任せいたします。
名前にもこだわってみましたので、是非意味を考えてみてください。