ミートスライムの肉
少々気になるピクリナの発言をよそに、おっちゃんは素早い手際であっという間に焼き上げた。
「はいよ、銅貨二枚」
思いの外高い。一本千円か。でも、肉だしそんなものなのだろうか?
金を支払って受け取るとスライムから取れた肉らしくプリップリでジューシーだ。
比喩ではなく実際に肉がキラキラ光ってる。受け取った一本をピクリナに渡して二人同時にかぶりついた。
「は?うますぎるんですが」
かんでもかんでもこの肉の9割が水分かよと言いたいくらい肉汁は出続ける。
しかしちゃんと肉の食感があって、味もシンプルに美味い。
こんなに美味いものをなんで今まで食わなかったんだ俺は!
「美味」
ピクリナも夢中でがっついてる。そして全て食べきると、悲しそうに何もなくなった串を見つめた。
ピクリナは三人娘の中でも特別大食らいだからな。
「……はぁ。おっちゃん、もう10本追加」
「………………30」
「ごめん、35本追加で」
「……増量 」
「あっはっは、初めて食ったやつはみんなそう言うよ。俺は元々冒険者だったんだが、ある日スライムダンジョンでミートスライムを捕まえてな。試しに食ってみたらこれは!って思って店を出したら大成功、まったく、スライムダンジョン様々だぜ」
さすがに35本も持つことはできないので、アイテムボックスに入れておいたタッパに詰めてもらった。
ピクリナは休む間もなく食い続ける。
「ぐっ…………窒息」
「ほらよ」
お茶の入った水筒を渡すと、ゴクゴクと飲んだ。
喉つまらないように食べろよ。
「てかさ、なんでさっきから熟語でしか喋らないんだ?」
無口の度が過ぎてる。
「……緊張」
「俺と二人なのが?」
「…………愛染」
「俺?」
「肯定」
「今までのどっかで惚れる要素でもあったかなぁ」
しなし、よく会話が成り立つな。
恐るべし俺の理解力。
「妾でもいい」
「あ、普通に喋った。妾?俺は正妻居ないぞ」
「ヴァイオレットちゃん」
「ヴァイオレットは俺のこと好きじゃないだろ」
「…………正気? 」
だって俺あいつに好かれるようなことなんか一つもしてないもん。
「さて、腹も膨れたことだし街の外に行ってみるか」
「はい」
「そうだピクリナ、俺はお前たちのこと嫌いじゃないぜ」
「好きって言えないの?」
ふっ、彼女いない歴=年齢の俺にそんな大それたことできるとでも?
今でも心臓がバクバクして苦しいんだから勘弁してほしい。
少々不満そうな顔をしながらも、ピクリナはトコトコ俺の後ろをついていった。