味方も巻き込まれる幻術
『ご主人、待って下さい。何かおかしいっすよ』
盾に止められ、俺は四つん這いのまま辺りを見回す。
周りにいた全員、俺と同じようにキョロキョロと視線を回していた。
どういうことだ?
『これもしかして邪神の眷属たちも幻術にかかってるんじゃないすか?』
『主様が魚犬眷属と同じ四つん這いになっちゃったから、どこにいるのかわからなくなったってこと?』
『ならなぜ最初は迷いなく襲ってきたんだ?』
『いや、迷いなくってわけじゃないっすよ剣の兄さん。よく見れば戦闘が起きてる所が多すぎる。こっちは、えーっと二十人も居ないのに、至る所で戦ってる。邪神の眷属たちも誰が味方で誰が味方が分かってないんすよ』
妖精装備たちが、この状況の考察を始めた。だとしたら、この幻術が姿だけを変える半端な物な理由はわかる。少なくとも異形の邪神の眷属の同士討ちは無いからだ。
『ねえ、四つん這いの敵って体が犬とか魚の眷属よね?こいつらなら攻撃してもいいんじゃない?』
『あ、待って。俺今四つん這いだから』
『何やってんのよ紛らわしい!』
ヴァイオレットが四つん這いの奴を攻撃しようと提案してきたので、俺は慌てて止めたら怒られた。
『こいつらも幻術で敵味方分かってないみたいなんだ。目眩ましをして四つん這いになったら攻撃されない』
『そういう事は早く情報共有しなさいよ!』
『今知ったんだよ!』
怒られはしたが、知らない間に味方から攻撃されることが無くて良かった。
邪神の眷属に襲われなくなったことで周りをよく見ることができた。
と言っても皆とはかなりの距離が離れているため、俺から見えるのはドームの中心で邪神と戦っている先輩だけだ。
先輩は数え切れない魔法の弾幕を邪神に浴びせ続けている。一撃一撃は致命傷になる威力じゃないが、無視できるほど弱くもない。
邪神はタコ足をすべて魔法をはたき落としたり受けたり、防御に専念して俺たちを相手する余裕が無い。
うまく邪神を足止めしてくれている。
『くそっ、何度肉薄しても転移で遠くに飛ばされます』
幻術の眷属を追っているシースナが悔しそうに漏らす。
最初に飛ばされてから転移が俺にノータッチなのは彼女に対応していたからか。
『問題ないシースナ。お前が殺気をまき散らしているおかげで私が近づける。ユースケ様からもいいことを教えてもらった。眷属のフリをすれば雑魚の邪魔は入らない』
シースナに隠れてソランがいいところまで行ってるみたいだ。じゃあ俺はもうちょっと魚犬のフリをしておくか。




