勇者覚醒の秘密
突然指名された光は本人が一番大きな驚きの声を上げた。
それもそうだ。ヴァイオレットたちを助ける間に行われた邪神の眷属との戦闘では、控えめに見てもあいつが一番足を引っ張っていたからな。
そこは本人も自覚があるから、指名されて驚いているんだろう。
「先輩、こいつ俺たちの中で一番弱いですよ。邪神の眷属で苦戦してたんだ。邪神相手なんて到底無理無理。死んじゃいますよ」
俺の舐めきった言葉に反発するかと思ったが、意外にも光本人はブンブンと勢い良く頷いて同意してきた。
「今はね。光君、君勇者覚醒を使ってないでしょ」
勇者覚醒?確か勇者の虎の子の技だっけ?一定時間急激にパワーアップするっていう。確かデメリットは、その後使い物にならなくなるんだっけ?
「はい。というか、僕はまだ勇者覚醒を使えないんです」
光が言うには、この世界に召喚された勇者は遅くとも一年以内には勇者覚醒を使えるようになるらしい。
しかし、自分はどれだけ意識しても使えなかったそうだ。
先輩の2人の勇者からコツを聞こうとしたが、2人とも自然に使えるようになったとしか説明できず、ならば自分もいつか勝手に使えるようになるだろうと放っといたら今に至るらしい。
「まじかよ。お前本当に勇者なのか?」
「人の気にしていることをチクチクと突いてきますね!まあ、そんなわけなので僕を戦力に数えない方がいいですよ」
光がそう言うが、先輩は首を横に振って否定する。
「いや、ますます君に戦ってもらいたくなった」
先輩曰く、召喚されてから勇者覚醒を習得できるまでの期間が長ければ長い程、使用した際の強化率が上がるらしいのだ。
一年程度だと数十倍だが、大昔に三年掛かった勇者は300倍の強化率だったそうだ。
「光、お前この世界に来て何年経つ?」
「……五年ほどでしょうか?」
てことは、勇者覚醒を使えばこいつ最低でも300倍は強くなるのか。
だったら邪神相手でも役に立つか。
くそ、こいつが強くなったら俺が戦闘最弱になっちまう。少し悔しい。
「ですが先輩。いくら強化率が高かろうと、使えないんじゃ取らぬ狸の皮算用なんじゃないですか?」
「そうだね。光君が勇者覚醒が使えるようになるまで待つ。という手も、この何が起こるか分からない海底都市で長居するわけにもいかないから使えない。てことで、善は急げ邪神に挑むのは明日だ。光君には戦いの中で勇者覚醒を使えるようになってもらう」
「え?」
「責任重大だよー」
「えぇーーー!?」
嫌らしい笑みを浮かべる先輩に両肩をガッツリと掴まれ、光は心底嫌そうな表情をしていた。




