どの記憶が奪われたのか
ソランからの説明を受けたヴァイオレットは、案の定信じられないと首を横に振る。
「そんな馬鹿な話あるの?この記憶が奪われたものを補完してるって?あたしとしては皆があいつに記憶をいじられているように見えるんだけど」
どうあっても信じられないヴァイオレット、そんな彼女に先輩が失った記憶を明確に絞り込むために質問を続ける。
その結果、やはり彼女の記憶から俺だけが綺麗サッパリ消えていた。
所々、俺が居ないせいで無理のある場面があったが、疑問に思うことなく彼女は話し続けた。
「ふーん、なるほどね」
「先輩?」
何か分かったのかしたり顔の先輩に少し苛つく。
普段ならともかく、こういった時に気取った態度をされるとぶん殴りたくなる。
「ごめんごめん。怒らないで。邪神は乙女の記憶を喰らって力に変えるって話はしたでしょ?」
「はい。でも何で俺の記憶だけ無いんですか?」
「それはね……こっちの子を見てから教えようか」
先輩が話の核心を言おうとした時、聖女が起き上がった。
「それで?結局どういう記憶が喰われたんですか」
「うーん」
俺に問いかけられた先輩は、少し離れたところでセラと楽しげに談笑する聖女を難しそうな顔で見つめていた。
「仮説はあったんだけど、聖女ちゃんの記憶がごっそり抜けすぎててなー。ヴァイオレットを見た限り確定だったことを聖女ちゃんで確認したかったんだけど、広すぎて逆に分からなくなったと言うか」
しかめっ面で話す先輩。自分の説が証明できなくて悔しそうな態度だ。
仲間の記憶が消えて緊迫している状況で、こんな態度を取る能天気な先輩を見て、俺とソランは互いの目を合わせ、同じ気持ちであることを確認してため息をついた。
確かに聖女の起きた直後の反応を見ると、シリアスな雰囲気もぶち壊れる。
俺は聖女が起き上がった直後の会話を改めて思い出した。




