あんた誰よ
「ユースケ様!」
「救出大成功ですね!」
船に戻り、アキトとイーナが出迎えてくれた。
こちらも俺たちと同様に襲撃は無かったようだ。
「ああ、後は二人が目覚めてどうにか脱出するだけだな」
「お疲れー。生贄の2人は無事かな?」
同時に先輩も帰ってきた。多少の傷はあるが、昨日のように包帯が必要な程ではない。
「先輩もお疲れ様です。2人はもう少し待てば目覚めるみたいです。さっきまで凄い音で戦ってましたけど、大丈夫だったんですか?眷属も全部そっちに行ってたと思うんですけど」
「あー、なんか途中からそこそこ強いのが混じってたのはそういう事か。邪神的には、生贄の守備が最優先のはずなんだけどなぁ……おっかしいなぁ」
破れた服を着替えて。ヴァイオレットと聖女に異常が無いか調べながら先輩はぼやいた。
邪神が、力を取り戻すために必要な生贄を守るよりも、怒りに燃える先輩を止めることを優先したということだろうか?
「先輩、2人は大丈夫ですか?一応ソフィアに見てもらった限りでは問題ないんですが」
「うん、外傷も無いし、おかしな所と言えば魔力が少ないくらい…………うーん?…………うーん」
先輩が口を噤み、不穏な雰囲気のする唸り声を上げる。
ソフィアは、自分の見立てが誤っていたのかと不安そうな表情だ。
ヴァイオレットの額をペチペチと叩きながら、先輩は何か悩むように唸り続ける。
「うーん」
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっと違和感が…………2人が起きるまでわからないけど……まあ、死ぬことはないでしょ」
最終的に、無責任とも取れる診断を下して、俺たちを心配させる先輩は、昼食を作っている船員の元へ行ってつまみ食いを始めた。
「大丈夫……ですかね?」
「死ぬことは無いって言ってたから大事ではないんだろう。頭を叩いてたよな?洗脳でもされたのか?スパイとして救出させたのなら守りが薄かったのも納得がいく。2人が起きたら念の為警戒しておくか」
昼食を終えても起きなかった2人だったが、夕食の準備を始めた頃にヴァイオレットが目覚めた。
「うっ、うぅ」
「ヴァイオレット殿……ユースケ様、ヴァイオレット殿が起きました」
「ソラン?あたしは確かあのタコ足にさらわれて……助けてくれたのね。礼を言うわ」
起き上がって、彼女が起きるまで見守っていたソランと話すヴァイオレットはいつも通り健康そうだ。
操られているようにも見えないし、先輩は何を心配してたんだ?
「ヴァイオレット、体に異常はないか?」
「えぇ…………あんた誰よ?」
「え?」




