渦潮に飲まれる
「追わないと!」
「しかしユースケ様、この深さの海はパッと入れるレベルではありませんー」
俺が海に飛び込もうとするのを、ジェイが片手で抑えて止めてきた。
くそぅ……見た目は小学生なのに力が強い。
「どうしよう」
「もちろん追います。しかし方法が……」
「あの見た目のモンスター……ヴァイオレット様の命よりも貞操が心配です」
「ソフィアは何を言ってるのかな!?」
皆は強いから、あのモンスターとヴァイオレットの実力差を分かって落ち着いて冗談を言う余裕がある。
だが、俺は妖精装備が無ければAランク冒険者と、どっこいくらいの力しかないからこいつ等みたいな異次元な強者の力量差なんて分からない。だから心配になる。
そんな問答をしていると船が大きく揺れた。
最初にタコ足に攻撃されたような衝撃の揺れではない。あれに比べたら自然な、しかし確実に異常な揺れだ。
「何だぁ!?」
タラッパ船長が間の抜けた声で船べりにしがみつく。船は突如できた渦潮を呑まれていた。さながら蟻地獄に吸い込まれるアリのように。
船員たちは船が転覆しないようにするのが手一杯で、周りの状況を完全に把握してるようには見えない。
「万事休すか、皆!魔法で船を守ってくれ!」
船が沈んでも息ができるように魔法でシャボン玉のような膜を作って船を囲む。
「うおっ!」
急に船が傾いて、俺は尻餅をついた。船は回転し、俺たちはミキサーにかき混ぜられるように膜の中で振り回される。
とうとう船が渦潮に飲み込まれそうなところで意識が遠くなる。
「これは……まほ、う?」
ソランのつぶやきを最後に俺は気を失った。
気を失う直前、船に誰かが飛び乗ったが、その顔までは確認できなかった。




