ギギの囁き
封印から運び出されたギギは神輿のようなものに乗せられていた。30立方センチメートル位の箱に入れられ、四方を暖簾で囲まれてて中身は見えない。
「何でこんなに神々しい入れ物なんですか?」
「聖遺物の弱封印じゃ。里のものと比べれば天と地の差じゃが、気休めにはなるじゃろう。何もせんかったらお主がギギに操られるかもしれんからな。全く、どうして頭が一番弱いんじゃ?」
爺様がジト目で俺を見る。爺様たちは種族特性でギギの精神攻撃は受け付けないらしいからこの面子で、ギギに操られる可能性があるのは俺だけだ。
それはそれとして。
「リカヤ、どうして来たんじゃ?」
「爺様とお兄ちゃんたちがガガをやっつけてくれるんだろ?間近で見なきゃ損じゃん」
俺と爺様は揃って頭を抱えた。湖の中に返そうにもそうはいかなかった。
なぜかって?現れたガガが湖を泳ぎながらこっちに近づいてきたからだ。
こうなったらリカヤはここに居るほうがかえって安全だ。
「よし、ジェイ、シースナ、頼んだぞ!」
「はい!」
「お任せを」
ジェイとシースナは神輿を担いでガガの反対方向、森の中へと走っていた。
さて、問題のガガの方だが、ソフィア、フィー、ピクリナが湖の上を走りながら奴に接近する。
「おおー!すごいな。あれなんの魔法?」
「何言ってんのユースケ?あれは三人の脚力で走ってんのよ」
そっちが何言ってんの?脚力だけでは普通、水の上走れないよ。
意味不明な身体能力を持つ三人は、ガガへ間髪入れない連携攻撃を叩き込んでいた。
斬撃等は効かないと言われていたガガが、傷は見られないが押されている。
「さっすがー!エターナルブレイブパイセンかっけー」
外野からヤジを飛ばせるくらいにはこちらに余裕があった。
「何じゃあの娘らは。でたらめな力しとるの」
「すっげー、あれが外の世界の人か」
リカヤよ、あれは外の世界でもトップクラスの人間だ。
(……れよ)
「ん?ジョーカーなんか言った?」
「いえ、ボスはなにか聞こえたんですか」
「いや……」
聞いたことのない声に周りを見るが、皆エターナルブレイブの戦いを見ていて声を発したようには見えない。
気のせいかと、観戦に意識を戻そうとすると、今度ははっきりと聞こえた。
(恐れよ、恐れよ)
酷くしわがれた、クシャクシャになった紙のような声だ。
(弱き者よ。恐れよ、怖がれ、破壊しろ)
何か黒い物が俺の頭に入ってくる。痛いのか気持ち悪いのかぐちゃぐちゃする。
「くそっ!誰だ!?これ以上入ってくるな!」
「ボス!?」
「ユースケどうしたの!?ソラン!」
「分かりません、一体何が」
「ギギの精神汚染じゃ!やはり封印が弱すぎたか」
みんながなにかいってるがよくきこえない。みずのなかにいるみたいだ。
そんなあいだもこえはおれにささやいてくる。
(壊せ、殺せ、憎め、恐れよ。弱き者の恐れが我らの力となる)
やめろ、おれはそんな。
(お前は心弱き者、利己的で周囲を利用することしか考えてない)
………………。
(さあ、今こそ己の黒き心を開放するのだ。壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ)
そうだ、こわさないと。なにもかも。




