鎧の真の主
「その鎧、かっこいいですね!羨ましいです」
「ははっ、羨ましいですか。しかし、この鎧は外せない呪いがかかっていてその他にもなかなか不便な効果があるのですよ。第一に、鎧をつけていると全ての人間から恐れられてしまいます」
「?僕は黒騎士さんのこと別に怖くないですよ?」
「それはエスリメに来る前にとある少年から、恐れられる効果を打ち消すブレスレットを頂いたからです。彼からエスリメの話を聞いて私はここに来ました」
あの少年がいなければ僕は今も人里から離れて暮らしていただろう。
「他には土足禁止の場所に入るには布か何かで足を覆わなければいけません」
「足も外れないんですね。てことは黒騎士さん、鎧をつけてから手を洗ってないんですか?」
うーん、子供は変なところに目をつけるな。
確かに素手は洗ってないが、鎧の上からしっかり洗ってるから衛生面は万全だ。
そういえば、この鎧をつける前に立ちションをしたような気が…………ええい、十年前のことだ。気にしてたら埒が明かない。
素手を洗えないのはもちろんだが、外せない全身鎧のせいで僕は公衆浴場にも入れない。温かい湯に浸かるには自然の中の温泉を見つけるしかなかった。
それもエスリメに来て個人風呂のある家を買ってから解決したが。
「かっこよさにはそれなりの代償が伴うんですね!」
「ノーリスクでもかっこよくなる方法はいくらでもありますよ……おっと交代の時間だ。ではまた」
「頑張って下さーい」
次は王子様方の護衛だな。
周囲の巡回をしているベリルに挨拶をし、家の中にユースケ王が居られたのでしっかり頭を下げる。どうやら今からお出かけのようだ。
ユースケ王を見送り、王子様方の部屋へ行こうとすると、廊下の角から一人の王子様が僕をじーっと見ていた。
あの方はロイド様?どうしてこんな所へ?放置するわけにも行かないので抱っこする。
硬い鎧だから痛くないようにそっと。
すると、突然鎧が太陽のように光り輝き僕から離れた。
「おわっ」
あまりの眩しさに驚き、ロイド様を落としてしまう。
しまった!僕は慌ててキャッチしようとするが間に合わない。
重い音を立てて落ちたロイド様。僕の顔から血がさっと引いてゆく。
光のせいで良く見えなかった目が戻ってゆくとそこには、小さな白い鎧を身に着けたロイド様がいた。
鎧のおかげで怪我はないようだ。
いや、それは何よりだが、これは……。
「真の主を見つける時、鎧は聖なる力とともに白く輝く」
鑑定士が僕に残した言葉だ。
10年間必死に探しても見つからなかったはずだ。鎧の真の主は産まれていなかったのだから。
小さな鎧のロイド様が首を傾げると、鎧は再び僕に身に付き黒く染まった。
「主は見つけた。しかしまだその時では無い……ということか?」
僕は決心した。何としてでもロイド様をお守りするのだ。
聖なる鎧を受け渡すために。
ふいー、ケセーシス君って表情読めないから怖いんだよなぁ。
鑑定しても弾かれちゃうし、何故か鎧脱がないし。彼、家の中へ足にビニール袋被せて入ってくるんだぜ。
でも、先輩から名指しで信用してもいいって言われてるんだよなぁ。
黒騎士ってゲームとか絵で見るとかっこいいけど、実物が近くに居ると不気味だ。
え?お前アダマンタイト鎧かっこいいって言ってただろ?
……いやー。タハハ。
ケセーシス君にブレスレットを渡した少年ってどこの転移者なんでしよーねー(棒)。




